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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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最終話「私の大切な人達」 1

 あれから。何とか日が沈む前に森を抜け出す事の出来た私達は、猛ダッシュで王都まで戻った。城についた時にはすっかり夜の帳が下りてしまっていて、もしパイナップル探しに手こずっていたなら期限に間に合わなかったかもしれない。謎の美女と出会えた事はこの上ない幸運だったと、私は彼女に深い感謝を抱いた。


 何はともあれ、クラールさんに色々と計らってもらい、私はもう一度だけ王にデザートを献上する機会を無事に頂けたのだった。


 そして時間が移り、舞台は再び謁見の間。私は今朝よりも強い緊張感に襲われていた。というのも、前回とは異なり、王の前に立っているのは私一人だけだったからだ。王子は部屋の壁に寄りかかって様子を見守っているし、メイド長は様子を見に来た料理長と将軍、つまり他の審査員二人と王の後ろ側に控えている。勿論、国王の警護に当たっていると思しき兵士達も数人見られる。せめてクラールが側にいてくれえば気分も幾分か和らいだのかもしれないが、彼の申し出は私の方から断った。ただでさえ食材探しを手伝ってもらったのだ。これから先の試練は、全部一人で頑張る事。それが私なりのけじめだった。


「ふん、どうやらギリギリ間に合ったらしいな」


 相変わらず不機嫌そうな国王の言葉に、私は元気よく返答する。


「はいっ。何とか間に合いましたっ」


「儂の馬鹿息子が何やら首を突っ込んでいたようだが……」


 王は壁際に佇んでいるクラールさんを見やる。彼は父親の心境を知ってか知らずか、自らの剣を点検しているような素振りで、自身に向けられた怒気のこもった眼差しをやり過ごした。フン、と荒々しく鼻息を立てながら、国王は彼から私へと視線を移す。


「その事はいいだろう。さあ、あの冷菓を出せ」


「分かりましたっ」


 既に準備は済ませていた。私は手に持っていた桃色の木箱を上から覗き込む。小さくカットしたパイン、林檎、黄桃、メロン。枝葉の部分はしっかり取り除いた苺に巨峰。その他諸々の果物を詰め込んだ上から、綺麗な黄金色の蜂蜜をたっぷりと注いである。時間が足らずにそこまで漬け込む事は出来なかったが、それはしょうがない。味に影響がない事を祈るばかりだ。


 一つ小さな深呼吸をして、私は両目を瞑り、心の中で強く念じた。




――アイスになあれっ!




 再び目を開いた私の目の前には、カラフルな色をしたアイスクリームの姿があった。私はそれを木箱の中から取り出すと、王の側に歩み寄って差し出す。国王は受け取ったアイスを不思議そうにしげしげと観察し始めた。後ろに立っている審査員達も、言葉には出さないが興味津々といった様子だ。


「……ほう、変わった色をしているな」


「はいっ。様々な果物を使いました……わわっ」


 途端、料理長と将軍が不満タラタラといった面持ちになったので、私は思わずドキリと仰け反る。『あれほど審査の時に口やかましく言っていたのに』といった感情があからさまに見て取れた。幸い、王はデザートを眺めるのに夢中だったので、私の態度には気がつかなかったようだ。


 そして。国王が遂に一口目を頬張った。


――大丈夫かな……ううん、絶対に大丈夫。だって、あんなに頑張ったんだもん。


 不安に押しつぶされそうになる心を懸命に奮い立たせ、私は国王が食事を終えるのを待つ。


「……む?」


 途端、老人の顔つきが変わった。王は目を見張り、まるで信じられないといった表情を浮かべている。


「これは……」


 呆然とした様子で呟いた後、国王は一気に食を進めていき、あっという間にデザートを平らげてしまった。


「……どう、ですか?」


 怖ず怖ずと、私は訊ねた。しかし、国王はすぐには答えない。警護の兵士達、審査員達、そしてクラールさん。謁見の間に控えている人々の注目が、老人へと向けられていた。重く、息苦しい静寂が室内を包み込む。ドクンドクンと脈打つ自らの心臓の鼓動が、やけにハッキリと感じられた。


 どれだけの時間が経ったかは分からない。やがて、国王はゆっくりと私にそっぽを向き、相変わらずのぶっきらぼうな調子で、私に言い放った。




「……まあ、まずまずだな」




――へ?


 王の言葉を聞き、周囲の人達は抑え気味のどよめきを上げた。しかし、私はすぐには老人の発した言葉の意味を理解出来ず、というよりは良い方向に信じられず。躊躇いがちに質問を重ねる。


「……あの、それは不味い不味いのマズマズですか?」


「何じゃと?」


 国王は呆れた顔で、


「何を阿呆な事を言っとるんだ」


「す、すみませんっ」


 不躾な問いかけで牢獄送りにされては全てがパアになると思い、私は平謝りを重ねに重ねる。そんな私を国王は物言わず黙って見つめていたが、やがて深い溜息と共に少し怒ったような、それでいてちょっぴりだけ穏やかな口調で告げた。


「……合格、だ。この馬鹿者が」




――合格、だ。この馬鹿者が。




 国王の放った短い文章が、固まってしまった私の脳内で延々と再生され続ける。




 私は、何とか最後の試練を乗り越える事が出来たのだ。

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