第92話:銀貨15枚の買い物
ギルドを出たカイトとリアは、リスタの街の目抜き通りを歩いていた。
朝の市場は活気に溢れ、焼きたてのパンの香りと、露天商たちの威勢のいい声が重なり合って空気に振動を与えている。
昨日、命を懸けて手に入れた銀貨は、現在手元に15枚。
これを単なる「生活費」として消費するか、それとも次の戦いのための「投資」に回すか。
管理者の思考を持つカイトにとって、その答えは明白だった。
「……リア。今の俺たちの最大の欠陥は、肉体の脆弱性を補うための『防具』と、近接戦闘における『予備兵装』の欠如だ」
「……肯定します、カイトさん。昨日のアイス・ウルフ戦では、私の制服の耐久力不足が回避運動の制約となりました。また、カイトさんの魔導銃も、至近距離での乱戦では銃身への負荷が大きすぎます」
二人は、大通りの隅に店を構える、煤けた看板の武具店『鉄の槌』の暖簾をくぐった。
店内には、使い古された革鎧や、手入れの行き届かない鉄剣が雑多に並べられている。
奥の作業場からは、金属を叩く一定のリズムが響いていた。
「……親父。少し見せてくれ。掘り出し物があれば、いくつか引き取りたい」
作業の手を止めた大柄なドワーフが、カイトのボロボロのジャージを一瞥し、鼻で笑った。
「……新米か。銀貨数枚で買えるもんなら、そこの樽の中に放り込んである中古品でも漁るんだな」
カイトは黙って、カウンターの上に銀貨を3枚並べた。
「……その樽の中のゴミを、俺が『選別』する。文句はないだろう?」
「……ケッ、好きにしな」
カイトはリアに合図を送り、埃を被った武具の山へと手を伸ばした。
彼が探しているのは、完成された名剣ではない。
素材の質が良く、少しの手入れ(リペア)で劇的に性能が跳ね上がる「眠れる原石」だ。
カイトは一つの、錆びついて刃毀れした短剣を拾い上げた。
一見すればゴミだが、その芯にはミスリルが僅かに配合されているのを、指先の感覚で読み取った。
「……リア。お前にはこれだ。刃は死んでいるが、バランスは悪くない」
「……ありがとうございます。重さも、私の手首の可動域に馴染みます」
次にカイトが見つけたのは、革の一部が裂け、金具が外れた古い胸当てだった。
表面の加工は剥げているが、下地の革は丈夫な双頭牛の皮が使われている。
「……これもだ。親父、この短剣と胸当て二つ。それと、予備の投擲用ナイフを五本。これで銀貨3枚でどうだ?」
店主のドワーフは、カイトが選んだ品々を見て、僅かに目を見開いた。
どれも店では死蔵されていたものだが、確かに素材だけは一級品ばかりだ。
「……チッ、目利きだけは一流のようだな。……いいだろう、持っていけ」
支払いを済ませたカイトは、店の隅を借りて、満タンになった魔力を指先に集中させた。
「……事象復元Lv.2。……不純物を排除し、構造の歪みを再定義しろ。……本来の強度を取り戻せ」
【魔法発動:事象復元 ―― 素材のポテンシャルを強制解放】
カイトが触れた短剣の錆が、音を立てて剥がれ落ちる。
濁っていた金属の肌が、月の光のような鋭い輝きを取り戻していく。
胸当ての裂け目も、魔法の力で繊維が編み直され、まるで誂えたばかりのような柔軟性と硬度を取り戻した。
「……なっ、おい!? あんた、今何をした!?」
ドワーフが驚愕の声を上げたが、カイトはそれを無視して、新しくなった防具をリアに手渡した。
「……これで、多少の爪や牙は弾けるはずだ。……リア、装備しろ」
「……はい、カイトさん。……身体に吸い付くようです。これなら、昨日のような不覚は取りません」
リアは修復された胸当てをメイド服の下に仕込み、腰には新たな短剣を佩いた。
カイト自身も予備のナイフをジャージの内側に隠し、装備を整える。
残る銀貨は12枚。
装備を最低限整えたカイトは、次に向かうべき場所を見定めていた。
「……次は、情報の収集だ。……リスタの街の周辺に、効率よく『感謝の言葉』を集められる場所がないか……それを探りに行く」
「……依頼の遂行だけでなく、直接的な『人助け』によるポイント回収ですね。……了解しました」
二人は武具店を後にし、再び街の雑踏へと戻った。
ボロボロの新人から、最低限の「戦う形」を整えた二人組へ。
カイトの瞳には、次なるハックへの冷徹な情熱が宿っていた。
【カイトとリアの現在の状態】
【カイト:レベル 4】
• 魔力: 85%(リペアにより微減)
• 装備: 紺色のジャージ(自動洗浄)、魔導銃、投擲用ナイフ(修復済)
• 状態: 筋肉痛は魔法で緩和中。
【リア:レベル 4】
• 装備: 補修されたメイド服、双頭牛の胸当て(修復済)、ミスリル配合の短剣(修復済)
• 状態: 前衛としての守備力が大幅に向上。
【収支】
• 現在の所持金: 銀貨 12枚
【次の目的】
街の広場やギルド掲示板で、効率的な「人助け(ポイント稼ぎ)」の案件を精査する。
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