表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『等価交換の創造無双 〜ジャージ姿の俺、悪意を燃料に最強兵器を創り出す〜』  作者: beck2026
第2章:管理者の実地研修(フィールドワーク)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/188

第90話:安息と「泥」の対価

リスタの街の夜。安宿の薄暗い廊下を、カイトとリアは互いに肩を貸し合いながら、ようやく自分たちの部屋へと辿り着いた。

扉を閉め、内側から重い鍵をかけた瞬間、カイトはその場に崩れ落ちるように膝を突いた。

「……あ……つ……。……身体が、燃えるようだ……」

全能の力を失った身体にとって、魔力を限界まで絞り出し、泥にまみれて戦い抜いた代償はあまりに重かった。

筋肉は悲鳴を上げ、神経は過負荷を起こしたように熱を持っている。

かつてのカイトであれば、この程度の疲労は指先一つで霧散させられただろう。

だが今は、一息つくことすらも、肺が焼けるような痛みを伴う。

「……カイトさん。……待ってください。……今、最低限の処置を……」

リアもまた、ボロボロの身体を引きずりながら、部屋の隅にある「自動洗浄トイレ」へとカイトを誘導した。

この宿を選んだ最大の理由。

神が唯一残してくれたこの世界の文明の利器が、今の彼らには救いの神に見えた。

自動洗浄トイレという、日常の象徴のような存在が、これほどまでに神々しく見えたことがあっただろうか。

「……自動洗浄……開始しろ。……泥も、血も、全部……洗い流せ……」

便器の横に設置された洗浄ノズルから、温かな魔導水が噴射される。

かつての管理者都市のような豪華なバスルームではない。

狭い空間、タイル張りの床。

だが、その温もりが肌に触れた瞬間、凍りついていた身体の芯が、じわりと解けていくのが分かった。

「……ハッ。……便器の横で、泥を落とすのが関の山か。……笑えるな……」

「……笑わないでください。……私たちは、生きているんですから。……生きて、自分の足で帰ってきたんです」

リアが濡らした布で、カイトの背中の汚れを丁寧に拭い去る。

自動洗浄の機能により、紺色のジャージに染み付いた狼の返り血が、まるで嘘のように分解され、排水口へと消えていった。

ジャージ本来の深い色が戻っていく様子を見て、カイトは自分がまだ「自分」であることを再認識した。

汚れを落とし、最低限の包帯を巻いた二人は、吸い込まれるようにベッドへと倒れ込んだ。

リスタの街の安宿。決して寝心地が良いとは言えない、藁の混じった硬いマットレス。

だが、今のカイトにとっては、管理者時代のどんな雲の上の寝床よりも、この場所が愛おしかった。

枕の向こうから漂う古い木材の匂いすら、安らぎの一部に感じられる。

「……リア。……レベル、4……だったな」

カイトは仰向けになり、シミのついた天井を見つめた。

身体の奥底で、昨日とは違う魔力の胎動を感じる。

それは、かつての海のような魔力量に比べれば、小さな小川のせせらぎにも満たない。

しかし、その小川は以前よりも太く、力強く自分の肉体を巡っていた。

「……はい、カイトさん。……少しだけ、魔力の流れが良くなっています。……身体が、この世界の法則に、無理やり馴染まされているような……そんな感覚です。……獣人としての私の五感も、以前より少しだけ遠くの音を拾えるようになりました」

カイトは重い瞼を閉じ、脳内の暗闇を見つめた。

今日手に入れた銀貨八枚。

それは、かつて彼が管理していた巨大なエネルギー量や、一国を買い取るほどの巨万の富に比べれば、塵にも等しい価値しかない。

だが、その八枚を稼ぐために、彼は泥を舐め、死を覚悟し、一匹の狼と魂を削り合って戦った。

その八枚には、一枚ごとに自分の血と汗の物語が刻まれている。

全能だった頃には決して得られなかった「重み」が、手のひらに残る銀貨の感触として魂に響く。

「……悪くない。……不自由を愛でる……実地研修。……合格点、だな。……俺たちは、今日、この世界の一員として……確かに更新アップデートされた」

「……おやすみなさい、カイトさん。……明日の朝には、筋肉痛が……恐ろしいことになっていそうですが。……それでも、明日もまた、私たちは動かなければなりません」

「……ハッ。……それも、ログの一部だ。……痛みがあるからこそ、生きている実感が湧く。……全能だった頃には、痛みすらもデータに過ぎなかったんだからな……」

カイトの意識は、深い闇へと落ちていった。

静かな寝息を立てる二人を、窓の外から差し込む月光が静かに照らしていた。

窓の外ではリスタの街の夜警が通り過ぎる足音が聞こえ、時折、遠くで酔っ払いの笑い声が響く。

そんな当たり前の世界の雑踏すら、今のカイトには心地よい子守唄に聞こえた。

管理者の実地研修、第一段階:生存。

それは、泥にまみれた栄光と共に、静かに幕を閉じた。

だが、これは長い旅の、ほんのプロローグに過ぎない。

明日、目が覚めたとき、彼らは今日よりもほんの少しだけ強くなった身体で、再びこの不自由な世界へと足を踏み出すことになる。

眠りの中で、カイトは狼の鋭い瞳を思い出していた。

冷たい森の空気、震える指先、そして引き金を引いた時の確かな衝撃。

それらすべてが、今、彼の血肉となって溶け合っていく。

レベル4。それは数字以上の、確かな「生」の証明だった。

リアもまた、夢の中で自分の爪を見つめていた。

主を守るために振るった力。秘書としての計算ではなく、一人の獣人としての本能。

彼女の中に眠る「野生」が、カイトという管理者との触れ合いを通じて、新たな形へと変貌しようとしていた。

深い、深い眠り。

二人の疲弊しきった魂は、リスタの夜の静寂に守られながら、次なる戦いへと備えて回復の時を過ごす。

銀貨八枚と引き換えに手に入れた安らぎは、どんな魔法よりも彼らを癒していった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

もしこの「ジャージ管理者の等価交換ファンタジー」を面白いと思ってくださったら、ぜひ評価の「星」やブックマークで応援していただけると、カイトの魔力と作者のモチベーションがリペアされます!

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ