第77話:情報のデバッグと「通貨」の再定義
「……カイトさん。市場の開放から数時間が経過。……周辺の街から押し寄せた商人たちにより、用意した余剰作物の40%が既に売却されました。……ですが、決済に用いられる『通貨』に深刻なエラーが発生しています。……周辺各都市の発行する銀貨や銅貨は、純度も重量もバラバラであり、鑑定と計量に膨大な時間を要しています」
リアが空間に表示した演算ログには、複雑な純度計算にリソースを食われるシステムの警告色が灯っていた。
カイトはジャージの「常時自動洗浄」機能を最大化し、商人たちが持ち込んだ雑多な金垢や不潔な革袋の汚れを完璧に遮断しながら、冷徹にその金貨の山を見つめた。
「……非効率だな。……国家ごとに異なる規格が混在している状況は、経済という名のシステムにおける最大のバグだ。……リア。……これより、この領域内における『価値の定義』をリペアする」
カイトは、市場の中心にある巨大な集金カウンターへ歩み寄った。そこには、大量の雑多な硬貨を前に途方に暮れるアベルと、清掃作業の合間に警備を行う管理ユニット01の姿があった。
「……アベル。その汚い金属片をすべて一つの容器にまとめろ。……これからは、それらを『金貨』とは呼ばない。……ただの『未精製の原材料』だ」
カイトは、山積みになった不揃いな金貨と銀貨に手をかざした。
「……事象復元。……範囲内の全硬貨から不純物を抽出し、分子構造を均一化。……カイト商会の刻印を刻んだ『共通規格硬貨』へと再定義しろ」
【物質消費:金貨 50枚(手数料) ―― 通貨規格の広域リペア・鋳造】
カイトの手から放たれた蒼い光が硬貨の山を包み込む。
ジャラジャラという金属音が鳴り響き、不揃いだった銀貨や銅貨が、瞬時に寸分違わぬ厚みと輝きを持つ、幾何学的な模様が刻まれた「新通貨」へと生まれ変わっていく。
「な、なんだ……!? 王国の金貨が、見たこともない紋章の硬貨に書き換えられた……!?」
商人たちが腰を抜かし、自身の懐にある金貨と、カイトが生み出した「完璧な硬貨」を交互に見て震え出した。
「……通告する。……これより、我が街の市場における取引は、すべてこの『管理者硬貨』のみで行う。……旧来の通貨は、我が商会の窓口において『原材料』として買い叩く。……拒否する者は、この豊穣な供給からアクセス権を剥奪しろ」
カイトはジャージの「緊急食料生成」で出したレーションを一口噛み、システムの安定を確認した。
規格を握る者が、市場を支配する。
もはや商人は、カイトの創った「価値の基準」に従うしかない。
「……リア。……これで決済のラグは消滅した。……次に、この『管理者硬貨』に微弱な魔導署名を付与しろ。……流通経路をすべてデータ化し、誰が、どこで、何に金を使っているかを、私のコンソールからリアルタイムでスキャン(デバッグ)できるようにする」
【検知:経済の根幹を掌握された商人たちの『戦慄と依存』:+200,000 pt】
【検知:通貨主権を奪われた周辺領主たちの『声なき絶叫』:+250,000 evil】
カイトはジャージの襟を整え、完璧に整列した硬貨の輝きを満足げに見つめていた。
管理者の論理によって、金さえもがただの「制御可能なデータ」へとリペアされたのだ。
(第77話 完)
【現在蓄積リソース:564,682 pt(感謝) / 640,490 evil(悪意)】
【所持金:金貨 500枚(新規格にリペア済み)】
【状況:通貨規格の統一完了。全取引のデータ監視体制を確立】
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
カイトさんは今、集まってきた「悪意」をどうやって「ポイント」に変えようか、とっても怖い顔で計算しています……。
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