第76話:規格外の「余剰」と、市場のデバッグ
「……カイトさん。自律型生産ドームの稼働から24時間。……計算上の収穫量をさらに15%上回るペースで、作物の生産が続いています。……ガレットの店での消費、および捕虜二千名の配給分を差し引いても、膨大な『余剰リソース』が発生。……このままでは在庫が腐敗し、システムの処理能力を圧迫するエラー(損失)に繋がります」
リアが提示した3Dグラフは、供給が需要を完全に突き抜けていた。
カイトはジャージの「常時自動洗浄」機能を指先で微調整し、爽やかな着心地を保ちながら、窓の外に広がるドームの威容を眺めた。
「……ロスは管理者の敗北だ。……だが、余剰は『武器』に変換できる。……リア。この街の市場をデバッグする。……周辺の街から商人を呼び寄せ、我が街の圧倒的な『供給力』を見せつけてやれ」
カイトは、街の中心部にあるボロボロの市場広場へと向かった。
そこには、生産担当のロックとテオ、そして教育管理担当のアベルが集まっていた。
「……ロック、テオ。……この広場に、常温保存と品質維持を可能にする『魔導冷却貯蔵庫』を設置しろ。……動力はドームの余剰エネルギーを回せ。……アベル。……今日からお前が『貿易局長』だ。周辺の街の相場をスキャンし、我が街の作物を、相手が絶望するほどの『適正価格』で叩きつけろ」
カイトは広場の地面に手をかざし、蓄積された「悪意」を注ぎ込む。
「……事象復元。……この広場を、周辺諸国との『経済交渉の聖域』として再定義しろ。……床面を鏡面仕上げの硬質石材へ、屋根を全天候型の透過ガラスへと書き換える」
【悪意消費:100,000 evil ―― 中央市場プラットフォームの即時構築】
黒い奔流が広場を駆け抜け、中世の市場は、現代の「巨大ショッピングモール」を彷彿とさせる清潔で機能的な空間へと変貌を遂げた。
そこへ、ガレット・キッチンの調理場で加工された「乾燥野菜」や「高濃度栄養スープの瓶」が、ドームからのコンベアで次々と運び込まれていく。
「な、なんだこの街は……。昨日まで捕虜の反乱を恐れていたはずなのに、今や帝国以上の物資が溢れている……」
管理ユニット01(元大隊長)が、清掃作業の手を止めて愕然と呟く。
「……01。手を止めるな。……お前の部下の一部を『物流ユニット』に再編しろ。……これからは、剣を振る代わりに、この利益(資材)を運び出すのがお前たちの任務だ」
カイトはジャージのポケットから、自動生成されたレーションを一口噛んだ。
街の外では、噂を聞きつけた周辺の商人たちが、門の前に列をなし始めていた。
彼らが持ち込む金貨は、ガレットの店を経由し、カイトの口座へと吸い込まれていく。
「……これで、食糧難というエラーを『外貨獲得』という利益にリペアした。……リア、周辺の流通ギルドへ通告。……『我が街の規格に従う者には富を、抗う者には飢えを』とな」
カイトはジャージの襟を正し、金貨の音が鳴り響き始めた市場を、冷徹な支配者の瞳で見つめていた。
管理者の論理によって、この街はもはや一地方都市ではない。
大陸の経済そのものを「リペア」する、巨大なエンジンの中心地へと進化を遂げた。
(第76話 完)
【現在蓄積リソース:364,682 pt(感謝) / 390,490 evil(悪意)】
【所持金:金貨 550枚(市場の初回取引およびガレット店からの還流分)】
【状況:中央市場の構築完了。外貨獲得(金貨増殖)の自動サイクルが稼働開始】




