第63話:組織の冗長性と、影の歯車(サブ・ユニット)
「……各部門のトップが個人の能力に依存しすぎるのは、組織運営上の脆弱性だ。核となる幹部が一人欠けただけで機能が停止するようなシステムは、欠陥品と言わざるを得ない」
第二拠点の執務室。カイトはジャージの袖を捲り、空間上に展開された組織図を眺めていた。
現在、ロック、アベル、ガレット、バルカの四名が各現場を完璧に掌握している。だが、カイトはその完璧さの中に潜む「過負荷」という名のひび割れを見逃さなかった。
「カイトさん。確かに、皆さん少し無理をされているかもしれません。アベルさんは深夜まで教材を作っていますし、ガレットさんも三百人分の献立管理で寝る間もないみたいで……」
リアが心配そうに、手元のスケジュール表を指差す。
「……リソースの最適化が必要だ。リア、各部門の中から、幹部を補佐し、かつその技術を継承できる『サブ』を抽出する。抽出基準は、現在の幹部との『欠損補完率』だ」
カイトは「周囲探知Lv.2」を再び拠点全域に展開し、日々の作業ログと各人の行動データを照らし合わせた。
■ 第1部門:【生産・鍛冶】
リーダー:ロック ―― サブ:テオ(ドワーフの少年)
ロックの元で、誰よりも早く工房に入り、火の粉を浴び続けていた孤児の少年テオ。
カイトは、彼が鉄の状態を「音」で聴き分ける天性の才があることを見抜いた。
「……ロック。お前は『打つ』ことに集中しろ。火加減と素材の選別は、このテオに行わせる。二人一組で、工房の稼働率を1.5倍に引き上げろ」
■ 第2部門:【教育・管理】
リーダー:アベル ―― サブ:ミリー(元商家の娘)
アベルの講義を誰よりも正確に記録し、他の子供たちの学習を影で支えていた少女ミリー。
カイトは、彼女の記憶力と「整理整頓」への意欲を、管理者の資質として評価した。
「……アベル。教材の複写と出席管理はミリーに任せろ。お前は、より高度な『論理回路(魔導数学)』の構築に思考リソースを割け」
■ 第3部門:【給養・衛生】
リーダー:ガレット ―― サブ:ハンナ(元農家の主婦)
ガレットの繊細な味付けを、保存食や大量調理の理論に落とし込む才能を見せたハンナ。
「……ガレット。味の最終定義はお前がしろ。だが、効率的な配給と在庫消費の計算は、ハンナに全権を与えろ。食料廃棄率を0.01%までリペア(削減)させろ」
■ 第4部門:【軍事・規律】
リーダー:バルカ ―― サブ:カイル(元傭兵の若者)
シルヴィアの恐怖政治と、バルカの歴戦の経験。そこに足りないのは、末端の兵士たちの不満や微細な体調変化を拾い上げる「現場の目」だった。
「……バルカ。カイルに分隊長の権限を与えろ。お前たちが視きれない『個々の部品の摩耗』を彼に監視させる」
カイトは、新たに書き換えられた組織図を網膜に投影し、満足げに頷いた。
「……これで各部門に、メインとサブの二重系統が構築された。幹部が倒れても、機能は維持される。リア、お前自身のサブは……」
「えっ、私のサブですか?」
「……いずれ必要になる。だが、今はまだ、お前の『唯一性』を上書きできるほどの資産が見当たらないな」
カイトの言葉に、リアは顔を赤らめながらも、背筋を伸ばした。
【検知:サブに任命された者たちからの「期待への高揚」と、幹部たちの「安堵」:+42000 pt】
「……ポイントの蓄積速度も安定してきた。さあ、内部のデバッグは終わった。そろそろ、この街に蔓延る『不合理な利権』という名のノイズを、物理的に排除しに行くとしようか」
拠点の外では、急激に力をつけるカイト商会を潰そうと、街の守旧派たちが卑劣な策を練り始めていた。
だが、メインとサブを揃え、盤石の布陣となったカイトの機械仕掛けの組織の前に、それはもはや誤差のような問題でしかなかった。
(第63話 完)
【現在蓄積リソース:412682 pt(感謝) / 7490 evil(悪意)】
【所持金:金貨 62枚】
【状況:各部門に副官を配置。組織の冗長化を完了し、外政フェーズへ移行】
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
カイトさんは今、集まってきた「悪意」をどうやって「ポイント」に変えようか、とっても怖い顔で計算しています……。
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