第163話:効率的栄養摂取と、過密スケジュール
ギルドを後にしたカイトたちは、一括受注した十数枚の依頼書を手に、広場の片隅にある日陰のベンチへと向かった。
「カイト様、これだけの量の依頼、本当に午後だけで全部やるんですか……? あ、その前にお腹がペコペコです!」
リアが物欲しそうに近くの露店から漂う串焼きの匂いに鼻をピクピクさせているが、カイトは無表情のまま首を振った。
「……判定。街の飲食店の物価は、砂漠の輸送コストが上乗せされて通常の一・五倍に高騰している。現在のカツカツの残高で外食を選ぶのは非効率だ。……各自、ジャージの機能を起動しろ」
カイトの指示を受け、三人は同時に自分の身に纏う漆黒のジャージへと手を伸ばした。
この特殊なジャージには、一日二回まで、最低限の生命維持に必要な栄養素を完全に満たした『高密度圧縮栄養食』を自動生成して内ポケットから排出する機能が、全員分にしっかりと備わっている。
パサリ、パサリと、それぞれのジャージのポケットから引き出されたのは、銀色のアルミパッケージに包まれた無機質なエネルギーバーが三本。
「うわぁ、またこれね……。味も素っ気もない粘土細工みたいなアレ。機能的だとは認めるけれど、真祖の私が毎回これを自分でポケットから引っ張り出さなきゃいけないなんて、本当に風情がないわ」
エルザが自分のジャージから取り出した銀色のバーを調律杖の先で突っつきながら、心底嫌そうな顔をする。だが、カイトがすでに迷いなくバーを口に運び、咀嚼も最小限に胃へ流し込んでいるのを見て、諦めたように小さく口を開けた。
「もぐもぐ……ん、ちょっと固いですけど、やっぱりお腹がすぐに膨れてきます! 自分でパッと出せるの、本当に便利ですよね、カイト様!」
リアは自分のジャージから出したバーを文句ひとつ言わずに平らげ、耳をピンと立たせて復活する。食事にかけた時間は、三人同時に摂取したため、わずか三十秒に満たない。
「……全員の燃料補給は完了した。これより、ルートの最適化を行う。……エルザ、依頼書の座標を読み上げろ。リアは移動の先導だ」
カイトは手元の依頼書を瞬時に仕分け、街の東側から西側へと一筆書きで巡る、最も移動ロスの少ない過密スケジュールを算出した。
『荷車の車軸修理』
『外壁の砂の掻き出し』
『ギルド倉庫の棚の補強』
『荷受所の壊れた天秤の噛み合わせ調整』
並ぶのはどれも地味な雑用だが、そのすべてに「経年劣化」や「設計の不備」が潜んでいる。カイトたちの手元には、資金を一切減らさずに物品を直せる『リペア』の魔法と、わずかな感謝ポイントで得た『局所集塵』がある。
「……行くぞ。手元の魔力リソースを集中させ、この街の不備を一網打尽にする」
漆黒のジャージを纏った三人はベンチを立ち、午後からの怒涛のインフラ修繕作業に向けて、狂いのない足取りで最初のエリを取り囲む不備へと向かって歩き出した。
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