第162話:ギルドの窓口と、一括受注(バルクオーダー)
中央広場での一件を終えたカイトたちは、再び冒険者ギルド『砂の牙』へと戻っていた。
カイトは周囲の冒険者たちの視線を完全に無視し、まっすぐに受付カウンターのやり手受付嬢の前へと歩み出た。
「……判定。受注した『車輪の油差し』および『井戸のポンプ点検』の二件、すべての不備を解消した。報告書へのサインと、報酬の支払いを要求する」
受付嬢は、カイトが差し出した二枚の依頼書を受け取り、そこに刻まれた「完了」の魔力刻印を確認して、細い眉を大きく跳ね上げた。
「……驚きましたね。あなたたちがギルドを出てから、まだ一時間も経っていませんよ。間違いなく完了のサインが出ています。……お見事でした」
受付嬢は苦笑しながら、カウンターの奥から小さな革袋を取り出し、中の硬貨をトントンと机の上へ並べた。
支払われたのは、事前の約束通りの微々たる額の銅貨と、数枚の銀貨。カイトの財布が「次の街への燃料代」でカツカツだった状態から、ようやく「今日の宿代と三人分の最低限の食費」が賄える程度の手取りだ。
「……受領した。これで本日のリソースの赤字は回避されたな」
カイトは硬貨を一枚ずつ正確に数え、ジャージのポケットへと収めた。等価交換の軍資金を一切消費せず、自身の魔力による『リペア』だけで片付けたため、この報酬は丸々純利益となる。
「ねえ、受付のお姉さん。これで私たちの『格』とやらは少しは上がったの? 早くこの錆び臭い下働きから抜け出して、もっと割のいい仕事をもらいたいんだけど」
エルザが調律杖をカウンターに軽く立てかけ、退屈そうに髪を指先で弄りながら尋ねる。
「申し訳ありませんが、ギルドの評価制度は、数件の迅速な処理だけで決まるものではありません。いくら手際が良くても、一定以上の『信用数』をこなしていただかないと、鉄級のままで変動はありませんね」
受付嬢は事務的にそう言って、新たな雑用依頼の束をトントンと机の上で揃えた。
「カイト様、やっぱり地道にコツコツ頑張るしかないみたいですね……。でも、お腹も空きましたし、一度お昼にしましょう!」
リアがぐう、と小さく鳴ったお腹を押さえながら、耳をペコリと寝かせてカイトを見上げる。
「……判定。効率的な業務の維持には、個体の生命維持(食事)が最優先される。……ただし、報告の往復による移動時間のロスは最大の不備だ。受付、そこにある他の雑用依頼の束をすべてこちらへ回せ。午後の時間枠でまとめて一括処理する」
「えっ? 一括処理って……ここにあるのは十件以上ありますよ!? 鉄級の保有上限を遥かに超えて――」
「……規則上、すでに履行実績がある個体への、同ランク内での複数同時発注を禁止する条項はないはずだ。まとめて引き受けることで、街のインフラの『不備』を同時に最適化する」
カイトは有無を言わせぬ理詰めの正論で受付嬢を圧倒すると、山のような依頼書をガシッと掴み取り、無表情のままギルドの出口へと歩き出した。
彼の脳内では、砂の街に潜む無数の不備をまとめて叩き直すべく、極めて冷徹な「過密スケジュール」が組み立てられ始めていた。
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