第144話:次なる不備、黒鉄の国
黄金の里を後にしたカイトたちは、世界樹のふもとから南へと続く、険しい岩山が連なる地帯を進んでいた。
エルフの里で手に入れた最高純度の魔導結晶は、カイトの背負い袋の中で確かな質量を保っている。これだけの高級素材があれば、まとまった資金に換えるのは容易だった。
「……判定。これ以上の徒歩による移動は時間と体力の浪費だ。ここで移動手段を確保する」
カイトは誰もいない岩陰で立ち止まり、背負い袋から大粒の魔導結晶を取り出した。
頭の中でこれを所所持金へと換算し、ネットで買い物をする感覚で必要な機械の構成元素を強くイメージする。支払った金銭の対価として、等価交換の能力が作動した。
まばゆい光と共に岩場に現れたのは、現代の屈強な『四輪駆動(4WD)の自動車』だった。
ゴツゴツとしたオフロードタイヤに、頑丈なスチール製のバンパー。荒れ果てた岩山を登るにはこれ以上ない最適な車両だ。
「な、何よこれ……!? 鉄の塊の馬車? 車輪が四つもあるけど、馬を繋ぐ場所がないじゃない!」
エルザが驚愕の声を上げ、恐る恐る黒光りするボンネットに触れる。
「カイト様、この中から、なんだかとても複雑な鉄の部品の匂いがします!」
リアも目を丸くして、車両の周りをぐるぐると回り始めた。
「……だが、このままでは動かん。この世界にはガソリンがないからな。……だから、今から仕様を変更する」
カイトはためらうことなくボンネットを開け放ち、ジャージのポケットから現代の工具一式を取り出した。
彼がやろうとしているのは、魔法による奇跡ではない。エンジンの燃料供給系を物理的に組み替える、現実的な「大改造」だ。
カイトは燃料タンクへと続くパイプをペンチで切り離し、等価交換で呼び出した青銅製の「魔石ホルダー」をキャブレターの手前にボルトで強固に締め付けた。
さらに、手元に残った小さな魔導結晶をペンチの柄で細かく砕き、そのホルダーへと物理的にはめ込んでいく。魔石から溢れ出す純粋な熱エネルギーを、エンジンのピストン運動へと直接変換するための、泥臭い配管作業だ。
「よし、リア。運転席にあるこの丸い輪の横のレバーを、手前に回してみろ」
「は、はいっ! これですか? ……せーの!」
リアが指示通りにキーの代わりに設置したスイッチを回す。
次の瞬間、キュルキュル、とスターターが鳴り響き――。
ズゴォォォン!! と、魔石のエネルギーを吸い込んだV8エンジンが、野獣のような爆音を上げて駆動を始めた。
マフラーからは排気ガスの代わりに、微かな緑色の魔力の粒子が勢いよく吹き出している。
「……判定。出力安定。魔石駆動式4WDの完成だ。乗れ、一気に山を登るぞ」
カイトは汚れ一つないジャージを整え、運転席へと乗り込んだ。助手席にリア、後部座席にまだ呆然としているエルザを乗せ、アクセルを強く踏み込む。
車は凄まじい馬力で岩肌を削りながら、険しい坂道をものともせずに突き進んでいった。
徒歩なら数日かかる道のりを、わずか数時間で走破し、三人は山をくり抜いて作られた巨大な黒鉄の門――ドワーフの鉱山都市『ガルドヘイム』の前へと一気に辿り着いた。
爆音を立てて現れた鉄の怪物を前に、槌を担いだドワーフの衛兵たちが、開いた口が塞がらないといった様子で腰を抜かしている。
「……行くぞ。……次の中継地の不備を、精査しにいく」
カイトはエンジンを吹かし、黒鉄の門を見据えた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしこの「ジャージ管理者の等価交換ファンタジー」を面白いと思ってくださったら、ぜひ評価の「星」やブックマークで応援していただけると、カイトの魔力と作者のモチベーションがリペアされます!
よろしくお願いいたします。




