第132話:報酬と、静かな出立
ポート・ルミナスの街に戻ったカイトたちは、捕らえたゼノをギルドへと引き渡した。
銀髪の男が引き起こした数々の事件――入り江の重力異常や、少女アイリスを道具として扱った非道な行いは、街の人々に大きな衝撃を与えた。
カイトたちは、詰めかける野次馬や感謝を伝えようとする人々を冷淡にあしらい、ギルドの奥にある応接室で、今回の依頼の正式な完了報告を行っていた。
「……信じられません。あの入り江の魔女騒ぎが、たった数日で解決するなんて。……カイト様、ギルドを代表して、深く感謝いたします」
受付の女性が深々と頭を下げ、テーブルの上にずっしりと重い袋を置いた。
中には、約束されていた報酬の金貨が詰まっている。カイトは袋を手に取ると、その重さを確かめるように軽く揺らした。
「……当然の仕事をしたまでだ。……この金の一部は、アイリスの治療費と、彼女が自立するまでの生活費に充てろ。……残りが俺たちの正当な対価だ」
「は、はい! 承知いたしました。……アイリスちゃんも、診療所でカイト様たちに会いたいと言っていましたよ。……本当に行かなくてよろしいのですか?」
「……必要ない。……あの子の不備は直した。……あとは、あの子自身が自分の時間を積み重ねるだけだ。……行くぞ、リア、エルザ」
カイトは一度も振り返ることなく、応接室を後にした。
リアは名残惜しそうに診療所の方角を一度だけ見つめたが、すぐにカイトの背中を追って駆け出した。
「カイト様! ……でも、アイリスちゃん、最後に笑ってくれたんですよ。……『ありがとう』って。……それだけで、頑張った甲斐があったなって思います!」
「……そうね。……あの忌々しい杭を作った奴も捕まったし、少しは寝覚めが良くなったわ。……さあ、カイト。次はどこへ行くの? ……この街も、もう十分満喫したわよ」
エルザが杖を肩に担ぎ、退屈そうに欠伸をする。
カイトは街の門へと続く道を歩きながら、漆黒のジャージの袖を軽く整えた。
「……この先にある『霧の回廊』を抜ける。……あそこには、古い術式の残骸が放置されているという報告がある。……放置されたままの力は、いずれ大きな歪みを生む。……今のうちに正しておく必要がある」
「霧の回廊……。……なんだか、また大変そうな場所ですね。……でも、今の私たちなら、どんな場所でも大丈夫な気がします!」
リアが元気よく尻尾を振り、カイトの隣を歩く。
彼女が纏うジャージは、街の喧騒の中でも汚れを一切通さず、持ち主の体調を完璧に支え続けていた。
門をくぐり、街の外へと足を踏み出す。
カイトはふと立ち止まり、背後のポート・ルミナスを一度だけ見やった。
港には活気が戻り、漁師たちの威勢のいい声が遠くに聞こえる。
歪みを正し、あるべき姿に戻った街。
カイトにとって、それは成し遂げるべき当然の「修正」であり、それ以上の感慨はなかった。
「……出発する。……歩調を乱すな」
「了解です、カイト様!」
「……はいはい、わかってるわよ」
漆黒のジャージを纏った三人の影が、朝日に照らされた街道を遠ざかっていく。
カイトの等価交換は、これからも止まらない。
世界にある「不備」を一つずつ、丁寧に、そして冷徹に直していくために。
彼らの旅路は、まだ始まったばかりだった。
(ポート・ルミナス編 完)
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