第107話:管理者の再定義
剥離した岩盤の奥から現れた『真銀』の原石。
その白銀の輝きは、カイトの持つ魔導銃『等価の天秤』の黒いフレームを青白く照らし出していた。
カイトは躊躇なく、銃を完全に分解した。
シリンダー、トリガー、そして心臓部である魔導変換器。
それらを平らな岩の上に並べ、原石を中央に据える。
「……リア、周囲の警戒を。……魔力反応に引き寄せられた不純物を近づけるな」
「……はい、カイト様。……三〇メートル圏内、異常なし。万が一の時は、私の脚で時間を稼ぎます」
リアは短剣を抜き、暗闇の奥に耳を澄ませる。彼女のジャージが、周囲の岩肌に溶け込むように色を変えていた。
「……エリザ、杖を。……お前の蓄魔石に溜まった魔力を、この原石の精錬のために一時的にバイパスする。……一気に流し込め」
「……ふん、言うわね。……せっかく溜めた『予備燃料』を他人の銃のために使うなんて、真祖としてのプライドが泣くわ。……でも、貸しにしておくわよ? ……闇の導線!」
エリザが杖を構え、カイトの手元へ魔力を供給する。
原石が激しく明滅し、石に含まれる不純物が塵となって剥がれ落ちていった。
純度一〇〇パーセントにまで高められた銀の滴が、カイトの『事象復元』によって銃の芯へと吸い込まれていく。
「……事象復元――定義上書き。……歪んだ構造を『本来あるべき理想の形状』へ固定しろ。……出力制限解除、冷却効率三割向上」
カイトの指先から放たれた光が、銃の各部品を包み込み、再結合していく。
かつての『等価の天秤』は、使い古された武骨な道具のようだった。
だが、今、カイトの手元に戻ったそれは、闇の中でも微かに明光を放つ、洗練された「管理者の工具」へと進化していた。
「……終わったぞ。……エリザ、魔力を止めていい」
「……はぁ、……はぁ。……流石に、今の出力は少し堪えたわ。……でも、その銃……なんだか、見てるだけで肌がピリつくわね」
エリザが額の汗を拭い、新しくなった魔導銃を見つめた。
カイトは無言で銃を構え、シリンダーを回転させる。
カチリ、と以前よりも硬質で、精緻な金属音が響いた。
「……判定。……魔力伝導率の上昇により、事象への干渉速度が従来の二倍に加速。……これで、一発撃つたびに銃を直す必要はなくなる」
カイトは満足げに銃をホルスターへ収めた。
銀貨八枚という乏しい資金、レベルという足枷。
それらを変えることはできずとも、カイトは自分たちの持つ「手札」を確実に、そして冷徹に強化し続けていた。
「……カイト様、外の光が強くなっています。……間もなく、街の採掘者たちが現れる頃です」
リアの声に、カイトは頷いた。
手には、最高品質の素材を組み込んだ最新の武装。
そして、自分たちの痕跡を完全に消し去った「元通り」の崩落現場。
「……撤収だ。……宿に戻って、約束のトマトジュースを飲むぞ。……エリザ、お前の分のリソース補給も、この銃の安定性向上に伴い、より効率的に行えるようになったからな」
「……それは重畳ね。……帰り道は、おんぶしてくれてもいいのよ? 管理者様?」
エリザの軽口を無視し、カイトは足早に坑道の出口へと向かった。
不揃いな三人の歯車は、また一歩、この世界の「バグ」を修正するための確かな力を手に入れていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしこの「ジャージ管理者の等価交換ファンタジー」を面白いと思ってくださったら、ぜひ評価の「星」やブックマークで応援していただけると、カイトの魔力と作者のモチベーションがリペアされます!
よろしくお願いいたします。




