表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強公女の身代わり結婚  作者: 御桜真
第三章 破壊と調和と誓いの結婚式
31/49

30.案ずるよりも1

 翌日、思ったよりも早くエレノアは元の部屋に戻ることが出来た。

 昼下がりのテラスのテーブルには、侍女がいれてくれたお茶が、かぐわしい湯気をたてている。

 テラスに置かれたソファは、やはりとても居心地が良い。侍女達を人払いして、側に居るのはクリフォードだけだった。


 慣れない嫁ぎ先で、暗殺者に襲われた翌日にしては、とても穏やかだった。外界から守られ、切り離され、穏やかで光に満ちた場所は、やはりあの温室を思い出させる。

 このさわやかな風は、あの温室にはないものだったが。


「メイザー夫人が、それはそれは動転してしまって」

 クリフォードは肩をすくめて言った。

「まさか、誰よりも強いあなたが倒れるとは思われなかったようで」

「まあ、だろうな。私もまさか自分が倒れるようなことがあるとは思わなかった」

 ヴォルネスの帝都に来るのははじめてだ。多少は影響があるだろうと思っていたが、まさかここまでとは。


「やはり、この国はあなたと相性が悪いですね」

「いずれ慣れる」

「……慣れるんですかね」

「乗り物酔いだとて、毎日でんぐりがえって鍛えていれば慣れてくるというではないか。毒も少しずつ摂取すれば体が克服するというし。魔力酔いもどうにかなる。むしろもっと魔力濃度の強いところに通って負荷をかけ続ければ慣れるのも早いのではないか。オーラブレイドを使うのは無茶だったようだが」

「どこでそんな荒療治するんですか。あなたは自分の強さを過信しすぎているから、たまには我が身をいたわってはどうですか」

 あきれた声でクリフォードが言う。確かに体が慣れるまで無茶をしないのも、大事なことかも知れないが。


「皆より私が強すぎるのだから仕方がないだろう」

 これは過信ではないし軽侮でもない。強く生まれついた事実でしかない。エレノアが剣になり盾になれば助かる者が多いのだから。

 クリフォードは大げさに溜息をついた。


「そうやって自分一人がやればいいという考えだから、こんなところに来る羽目になるんですよ」

 身代わり結婚は勅命なのだから仕方がないが、クリフォードの言うことも事実ではある。

「慣れぬ戦場で索敵もなしに突撃するほど無謀ではない。剣気をまとって生活するわけにはいかないし、お前の言う通り皆に頼るよ」

 殊勝に応えたエレノアに、クリフォードはボソッと言った。


「単騎突撃するくせに」

 まあ、否定は出来ない。


 魔力攻撃によるダメージならば剣気で払うことはできる。

 だが、守りの結界であるとか、充満した魔力の残余であるとか、避けようのないものもある。これも剣気で吹き飛ばすことは可能だが、皇宮で常に剣気をまとって歩くわけにもいかない。

 皇宮には優秀な騎士や魔道士も多く、剣気を扱っていてはすぐに正体が疑われるだろう。

 もし正体がばれる心配云々がなくとも、すぐさま謀意を疑われ、糾弾され投獄されるに違いない。オーラマスターを皇帝の膝元に送り込んだイゾルデの真意も問われる。国際問題だ。


「まあ、あなたならなんとかしそうな気はしますが。オーラブレイドは禁止です」

「分かっている。負荷の具合を知りたかっただけだ」

 オーラブレイドを扱えるのは、ソードマスターだけだ。クリフォードは優れた剣士で剣気を扱うのに長けているが、ソードマスターではない。

 オーラブレイドの弾けるような剣気の気配を、クリフォードのものだと幾度も誤魔化せるものではないだろう。いくら目撃されていなくても。

 しかし、なんとかせねばならないからには、なんとかするしかない。


「神殿で浄化を受けることが出来ればいいのだが、結婚式が終わるまでは無理だろうな」

 結婚式を終えて皇太子妃となってしまえば、ある程度は帝都内を見て回ったり、神殿へ礼拝することも不自然ではないはずだ。

 神官から浄化を受けることが出来なくても、神聖力に満ちた神殿にいるだけで、魔力の影響は薄れるだろう。


「こんなところに刺客を送り込めるなど、皇宮内の人間が関わっているのは明らかだ。面倒だな」

 子供の頃、ルヴィンがイゾルデへの使節団にまぎれてやってきたとき、彼は「怪我の多い子供」で、道中にも負傷して、休める場所を探してアデラインに出会ったと言っていた。

 子供の頃から命を狙われていたということだ。ずっと皇宮内に影響力を及ぼす人間が、彼の命を狙っている。

 同じ相手が、今度はアデラインの命を狙っているのだろうか。


 ルヴィンが結婚により立場を強固にする前に、ルヴィンよりも弱く手を出しやすい相手としてアデラインを選んだか。

 もしくは、アデラインを殺して、守れなかったルヴィンへ責任を押しつけ、追いやるつもりか。それとも、イゾルデとの戦争を再開したい誰か。

 エレノアは暖かい紅茶を一口飲んだ。


「なあ、クリフ」

 紅茶の香りには鎮静作用があるという。

 エレノアはそのかぐわしい香りに包まれながら、明け方のことを思い出していた。穏やかに話し、アデラインの体を気遣い、のびのびと過ごすようにと言ったルヴィンの赤い瞳を。


「もしかしてルヴィンは、私が好きなのだろうか」

「……何をおっしゃっているんですか?」

 奇妙なものを見る目でクリフォードが言った。

「あなたがそういう情緒を気にする方だとは」

「私をなんだと思っているんだ」

「剣技にしか興味がないのかと」

 まあ、それも否定はしない。


 勅命であり、政略結婚の上に身代わりで相手を騙しているのだし、好悪など関係ない。停戦のためだ。

 優しい初恋の君と結婚するつもりであるルヴィンには悪いが。

 クリフォードは大げさに溜息をついた。


「誰がどう見ても好意はおありですし、殿下は初恋の君なのですから、当然かと」

「しかし過去の話だろう」

 多少親切に接する理由になりこそすれ、あれほど憂える理由には思えない。

「過去の思いが再会をきっかけに再燃するなどよくあることです」

 この部屋に戻ると言ったときのルヴィンの顔を思い出す。複雑そうではあったが、嬉しそうでもあった。


「なるほど」

 エレノアは、ただつぶやいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ