第32話 二人で抜け出す
<立花ララside>
友達と遊園地に行く。ーー魅惑的な響きだと思った。
あたしは今までクラスメートの女の子達と遠出したことなんてあったかしら。……思い出せないということは、きっとそういうことなのかもね……。
教室で真子奈から遊園地に誘われた時、正直嬉しかった。最近話していなかったし、仲がさらに深まる気がしたもの。
……まさか、飯塚も一緒に行くとは思わなかったけど。
まぁ。遊園地は人数が多い方が楽しいしね?
それこそ、あたしは前の晩からウキウキして、ろくに眠れなかったわ。睡眠不足だからかしら。最初、ジェットコースターに乗る時、別に怖くも何ともなかったのに、落下する直前に気持ち悪くなってしまって、咄嗟に飯塚の腕にしがみついてしまったわ。
乗り物を降りた後、「ララちゃん近寄ってきて、かわいかった!」と、飯塚にからかわれた。
その時、真子奈がこっちを見ていた気がするけど、まさか気のせいよね……。
最近、真子奈と接点が少なくなったように思う。まぁ、あたしのせいでもあるんだけど……。
だから今日、遊園地に来れたことが本当に嬉しい。真子奈ともたくさん話せたら良いなと思っていたのに……上手くいかない。
飯塚とあたしは学校で一緒にいることが多い。だからこそ、その枠組みを崩すことができなかった。
最初のアトラクションで、隣に乗るメンバーが決まってしまえば、誰かが言い出さない限り、その人と一緒に行動することが多くなる。
あたしは「真子奈と乗りたい」とは言えずじまいで、流されるままでいたわ。
そしたら、飯塚が他の人とも乗りたくなったのか、「今度はグーチョキパーで決めない?」と提案してきた。
飯塚ナイス! たまには良いこと言うじゃない。
お願い。一度だけで良いから、あの子と隣になりますように……。
神が味方をしてくれたのかしら。
本当に真子奈と一緒になることができたわ。
あたしと真子奈は肩を並べて、アトラクションの順番待ちをする。
「……」
「……」
……あれ。いつもどうやって話していたかしら。
後ろにいる4人は、思いのまま隣にいる人と楽しそうに話をしていた。中原と中原妹は姉妹だから話が弾むのも当然よね。飯塚と葉月も世間話をして盛り上がっているわ。コミュニケーションが上手な人って、誰とでも仲良くなれるものね。羨ましいわ。
……あたしも見習わなくちゃ。
「……あのね」
「……あのさ」
あたしと真子奈の声が重なった。これって、間が悪いというのかしら?
「ララから喋って!」
「真子奈から話しなさいよ!」
すかさずあたしは反論した。真子奈の性格的に、あたしに譲るだろうと思ったら、「じゃあ……」と話し始めた。
「ララ、具合悪い?」
「えっ……」
「立ちくらみ? のようにふらっとする瞬間があったり、ボーッとしてたり、何かあったのかなって……」
たしかに寝不足で調子が悪かった。……真子奈、するどい。いつのまに見抜かれていたのかしら。
「……あたしのこと、よく見てるわね」
「そ、そんなことないよ」
寝不足を言い訳にして、思ったことを口に出していた。真子奈が微かに動揺しているのがわかった。
ふうん。そう……。
あっ。良いこと思いついたわ!
あたしは勢いよく後ろを振り返る。そしたら、葉月と目が合った。
「葉月、あたし具合悪いの。ベンチに座って休んでいて良いかしら? アトラクションはみんなで乗ってきて。……終わったら、隣のゴーカートに乗ってきても良いわよ! ねっ。真子奈、付き添ってくれるかしら?」
少し強引だけど、そう言って真子奈の腕を掴んだ。抵抗がなくて、葉月の返事を聞くや否や、無理に列を抜け出した。「ちょっと」とか「ララ」とか、声が聞こえてくるけど、あたしは振り返らなかった。
少し行った先にベンチを見つけて、腰を下ろす。
「ララ、大丈夫なの?」
急に連れ出されたことに文句の一つも言わずに、あたしの心配をしてくれる真子奈。
「……少し休んだら良くなるわ。真子奈、隣にいてくれる?」
「う、うん」
ありがとう。こうでもしないと、あなたとゆっくり話せそうにないもの。
真子奈は、あたしの隣にちょこんと座った。
「……最近、ゆっくり話すことができなかったわね」
「……そうだね。今日も中々、話せなかった」
お互いが、ぽつりぽつりと話し出す。
……飯塚のおかげだろうか。
真子奈が丸本や、誰かといても、大きく嫉妬することはなくなっていた。あたしの気持ちは凪のように穏やかだった。
だけど、その分、真子奈と話す時間がなくなったのは……やっぱり辛かった。
「ララと遊園地に来るの楽しみにしていた」
あたしの耳に嬉しい言葉が届く。反射的に彼女を見ると、目を逸らされた。
遠くの方で、絶叫マシンに乗ってはしゃいでいるであろう子どもの声が聞こえてきた。ああ、とても楽しそうね。
「……あたしもよ」
「ララとアトラクション、隣に乗りたかった」
真子奈が寂しそうに口にした。
もしかして、今こそ、一緒にアトラクションに乗るチャンスだったのに。あたしのせいで潰してしまったことになるのかしら……?
真子奈は嫌味でそう言ったわけではないことがわかる分、罪悪感を感じた。
「……じゃあ、今から乗りましょ! 観覧車に行かない?」
今から4人の元に戻るのも、行列に最初から並び直すことになるので面倒だった。あたしは、比較的すぐに順番が回ってくる、目についた観覧車を指さした。
「具合悪くないの? 大丈夫?」
「真子奈のおかげで平気になったわ! ほら」
あたしは勢いよく立つと、その場でくるりと一回転をした。
「ねっ! 大丈夫でしょ?」
「う、うん」
「ほら、行きましょ」
真子奈の右手を取り、軽やかに駆け出す。触れる手が熱い。なんだかすごいことをしているような気がして、胸がいっぱいになった。
ここは遊園地。あたしは、はっきり言って浮かれているわ。だから、こんな大胆なこともできるのだろうと自分に言い聞かせて走る、走る。寝不足の高揚感もあって、夢の中にいるような、ふわふわとした感覚をおぼえた。




