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名前がコンプレックスの女の子を好きになってもいいですか?  作者: 宮野ひの


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第30話 一件落着?と遊園地の誘い

 私は驚いた。

 まさか甲斐さんが頭を下げるなんて夢にも思わなかった。


 人ってこうも変われる!? なんて私は戸惑った。


「あなた、楽になりたいだけでしょ」


 ララがズバッと言う。


「自分を綺麗な人間にするために、私を使わないでちょうだい」


 鋭く言うと、甲斐さんの顔が歪んだ。

 確かにそれは、「あたしもごめんね」と形だけでも言ってもらえることを期待していた人の顔がした。


 甲斐さんが正気を抜かれたように呆然と立ち尽くす。


「……だけど」


 ララが続ける。


「あなたの走りはすごかったわ。この前のマラソンは私が勝ったけど、次、勝負したら正直100%勝てる自信がないもの。あなたのことは嫌いだけど、あなたとはこれからも良いライバルでいたいわ」


 ララが右手を差し出す。


 甲斐さんは呆気に取られている。しかし、次の瞬間、ハッとした表情になる。


「……ムカつく! 負けないから」


 乱暴にララの手を掴んだ。


「ふふっ。ドーピングなんてしないで正々堂々とかかってきなさい!」


 今世紀最大の嫌味だった。


 甲斐さんが引きつった顔をするけど、どこかつきものが取れたようにスッキリしているのがわかった。


 私はヒヤヒヤしながら事の成り行きを見守っていた。


 ……不謹慎ながら、心から向き合える友達がいるのは良いなと思った。


 気を使う必要がない。嫌いであっても、相手の良い部分はリスペクトしている。

ララと甲斐さんの関係を見ていて私自身も学ぶところがあった。


 そろそろ掃除の時間が終わりそうだった。

結局、ララとは話すことができなかった。

だけど、それに勝る良いものを見させてもらったと思った。


 これで一件落着……なのかな?





「最近さ、マコと立花さんって話してなくない?」


「えっ。そうかな」


 授業の合間の休み時間。隣の席に座るアキが、頬杖をついて話しかけてきた。私は無意識にポニーテールを手ですくような仕草をした。


「うん! 前はもっと一緒にいたよ!」


「……」


「……喧嘩したの?」


「してないよ」


「そっか……」


 ……だってララは最近、飯塚さんと一緒にいることが多いんだもん。


 なんて、拗ねた口調でアキに言うことはできず、黙ったままやり過ごした。


「…………ねぇ、マコ! 立花さんを誘って、みんなで遊園地に行かない? 『那真栄(なまえ)ランド』にさ!」


 アキが魅惑的な提案をする。私は顔を上げた。


「実はさ、お母さんが美容院のお客さんから那真栄ランドのフリーパス優待券を貰ったんだ! 残念ながら無料じゃなくて、実費は500円かかる計算だけど……どう? 楽しそうじゃない?」


「……うん! 楽しそう! 行きたいかも!」


 那真栄ランドは、那真栄高校の近くにある遊園地だ。全国的には有名ではないものの、園内が広く、絶叫マシンも豊富に揃っている。一日中楽しめる、知る人ぞ知る遊園地だ。


 私が那真栄ランドに最後に行ったのは……確か小学6年生の頃だ。久しぶりに行って、ジェットコースターに乗りたい!


「やったー! そのみんなの中に七海、凛香も誘って良い? 来週の水曜日、高校の創立記念日でしょ? その日にみんなで行こうよ! 部活も休みみたいだし!」


 アキがにっこりと笑う。


「いいね! そうしようか」


「私は七海と凛香にアポを取るから、マコは立花さんに聞いてきてくれない?」


「……うん」


「じゃあお願いね!」


 善は急げと言わんばかりに、早速、アキがナナミンの元へと向かった。


 ララの席を見ると、ララが飯塚さんと顔を合わせて話しているのが見えた。

ごくりと唾を飲み、数回、深呼吸をした後、勢いに任せてララの元へ行く。


「……あれ、真子奈?」


「んん?」


 ララと飯塚さんが話すのをやめて、私を見上げる。

 なんか、とっても緊張する……。私は作ったような笑顔を浮かべて、二人を見た。


「話しているところごめん。ララちょっと良いかな?」


「何?」


 ララが席を立とうとする。しかし、飯塚さんが「えっ。ここで話しなよ!」と悪気なく遮った。


 ララの動きがぴたりと止まった。私は、咄嗟のことに動揺して、次の手立てがすぐに思い浮かばなかった。


 ……あっ。


 えっと、要件を言わなきゃ。

 

「あ、アキが『那真栄ランド』のフリーパス優待券を貰ったんだって。……だから一緒に行かない?」


「えー、なにそれ!!! 面白そう!!! ねっ。それって私も行っちゃダメ?」


 飯塚さんがキラキラとした目で食いついてくる。……予想外だった。


 でも確かにそうだよね。目の前で楽しそうなやり取りを繰り広げていたら、そりゃ気になっちゃうよね。私もきっと気になる……。


「……えっと、優待券を使える人の人数がわからないから、アキに聞いてみるね!」


 そう答えるので精一杯だった。


 私は飯塚さんに笑顔を向けた後、その場を離れた。


 ーーあっ。ララの返事、聞き忘れちゃった。ララに聞きに行ったのに、……うまくいかないなぁ。


 私は自分の手際の悪さを責めた。






 アキに、遊園地の優待券の規定を聞いたら「何人まででもOK」であることを知った。どうせなら大人数で行った方が楽しいからと言って、私、アキ、ナナミン、凛香ちゃん、ララ、飯塚さんの6人で遊園地に行くことになった。


 偶数だから、アトラクションに乗る時もあぶれる人がいないと、アキは安心していたけど私は憂鬱だった。モヤモヤとした思いを抱えたまま、遊園地当日を迎えることになった。

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