第30話 一件落着?と遊園地の誘い
私は驚いた。
まさか甲斐さんが頭を下げるなんて夢にも思わなかった。
人ってこうも変われる!? なんて私は戸惑った。
「あなた、楽になりたいだけでしょ」
ララがズバッと言う。
「自分を綺麗な人間にするために、私を使わないでちょうだい」
鋭く言うと、甲斐さんの顔が歪んだ。
確かにそれは、「あたしもごめんね」と形だけでも言ってもらえることを期待していた人の顔がした。
甲斐さんが正気を抜かれたように呆然と立ち尽くす。
「……だけど」
ララが続ける。
「あなたの走りはすごかったわ。この前のマラソンは私が勝ったけど、次、勝負したら正直100%勝てる自信がないもの。あなたのことは嫌いだけど、あなたとはこれからも良いライバルでいたいわ」
ララが右手を差し出す。
甲斐さんは呆気に取られている。しかし、次の瞬間、ハッとした表情になる。
「……ムカつく! 負けないから」
乱暴にララの手を掴んだ。
「ふふっ。ドーピングなんてしないで正々堂々とかかってきなさい!」
今世紀最大の嫌味だった。
甲斐さんが引きつった顔をするけど、どこかつきものが取れたようにスッキリしているのがわかった。
私はヒヤヒヤしながら事の成り行きを見守っていた。
……不謹慎ながら、心から向き合える友達がいるのは良いなと思った。
気を使う必要がない。嫌いであっても、相手の良い部分はリスペクトしている。
ララと甲斐さんの関係を見ていて私自身も学ぶところがあった。
そろそろ掃除の時間が終わりそうだった。
結局、ララとは話すことができなかった。
だけど、それに勝る良いものを見させてもらったと思った。
これで一件落着……なのかな?
◇
「最近さ、マコと立花さんって話してなくない?」
「えっ。そうかな」
授業の合間の休み時間。隣の席に座るアキが、頬杖をついて話しかけてきた。私は無意識にポニーテールを手ですくような仕草をした。
「うん! 前はもっと一緒にいたよ!」
「……」
「……喧嘩したの?」
「してないよ」
「そっか……」
……だってララは最近、飯塚さんと一緒にいることが多いんだもん。
なんて、拗ねた口調でアキに言うことはできず、黙ったままやり過ごした。
「…………ねぇ、マコ! 立花さんを誘って、みんなで遊園地に行かない? 『那真栄ランド』にさ!」
アキが魅惑的な提案をする。私は顔を上げた。
「実はさ、お母さんが美容院のお客さんから那真栄ランドのフリーパス優待券を貰ったんだ! 残念ながら無料じゃなくて、実費は500円かかる計算だけど……どう? 楽しそうじゃない?」
「……うん! 楽しそう! 行きたいかも!」
那真栄ランドは、那真栄高校の近くにある遊園地だ。全国的には有名ではないものの、園内が広く、絶叫マシンも豊富に揃っている。一日中楽しめる、知る人ぞ知る遊園地だ。
私が那真栄ランドに最後に行ったのは……確か小学6年生の頃だ。久しぶりに行って、ジェットコースターに乗りたい!
「やったー! そのみんなの中に七海、凛香も誘って良い? 来週の水曜日、高校の創立記念日でしょ? その日にみんなで行こうよ! 部活も休みみたいだし!」
アキがにっこりと笑う。
「いいね! そうしようか」
「私は七海と凛香にアポを取るから、マコは立花さんに聞いてきてくれない?」
「……うん」
「じゃあお願いね!」
善は急げと言わんばかりに、早速、アキがナナミンの元へと向かった。
ララの席を見ると、ララが飯塚さんと顔を合わせて話しているのが見えた。
ごくりと唾を飲み、数回、深呼吸をした後、勢いに任せてララの元へ行く。
「……あれ、真子奈?」
「んん?」
ララと飯塚さんが話すのをやめて、私を見上げる。
なんか、とっても緊張する……。私は作ったような笑顔を浮かべて、二人を見た。
「話しているところごめん。ララちょっと良いかな?」
「何?」
ララが席を立とうとする。しかし、飯塚さんが「えっ。ここで話しなよ!」と悪気なく遮った。
ララの動きがぴたりと止まった。私は、咄嗟のことに動揺して、次の手立てがすぐに思い浮かばなかった。
……あっ。
えっと、要件を言わなきゃ。
「あ、アキが『那真栄ランド』のフリーパス優待券を貰ったんだって。……だから一緒に行かない?」
「えー、なにそれ!!! 面白そう!!! ねっ。それって私も行っちゃダメ?」
飯塚さんがキラキラとした目で食いついてくる。……予想外だった。
でも確かにそうだよね。目の前で楽しそうなやり取りを繰り広げていたら、そりゃ気になっちゃうよね。私もきっと気になる……。
「……えっと、優待券を使える人の人数がわからないから、アキに聞いてみるね!」
そう答えるので精一杯だった。
私は飯塚さんに笑顔を向けた後、その場を離れた。
ーーあっ。ララの返事、聞き忘れちゃった。ララに聞きに行ったのに、……うまくいかないなぁ。
私は自分の手際の悪さを責めた。
アキに、遊園地の優待券の規定を聞いたら「何人まででもOK」であることを知った。どうせなら大人数で行った方が楽しいからと言って、私、アキ、ナナミン、凛香ちゃん、ララ、飯塚さんの6人で遊園地に行くことになった。
偶数だから、アトラクションに乗る時もあぶれる人がいないと、アキは安心していたけど私は憂鬱だった。モヤモヤとした思いを抱えたまま、遊園地当日を迎えることになった。




