第27話 真実?
「矢橋さんと一緒に帰った」と言われて、一つ思いあたることがあった。
放課後、バスケ部が休みで一人で帰っていた時、後ろから浜崎が追いかけてきたことがあった。「なぁ、なまこー」とか「ぼっち?」とか言って、しつこかった。
私は怖くなり、走って浜崎を巻いた。家に帰って布団にくるまり、泣いた過去がある。
もしかして、あれを一緒に帰ったとカウントしているのだろうか……。
あと、私は浜崎にバレンタインにチョコを渡したことなんてない。
……浜崎どころか、男子にチョコを渡した経験すらない。
もしかして誰かと間違えているのだろうか。まさか、丸本くんに良い格好をしたいから、嘘をついたということだろうか。それだったら、勝手に話をねつ造されていたことに腹が立つ。
衝撃のあまり私は何も口にできなかった。丸本くんは不安げな顔をしていた。
「もしかして、違ってた?」
「……うん」
私は間違っている部分を訂正した。丸本くんは黙ったまま聞いてくれる。
「……そっか。俺、何も知らないまま信じていた。本当のことって、本人に聞くまでわからないところあるんだなぁ」
「……そういう私も、昔のことだから思い違いになっている部分もあるかも。……だけど私は浜崎のことを好きじゃないのは本当だから!」
自分が一番正しいわけではない。
過去を振り返った時に、知らず知らずのうちに、自分の都合の良い記憶にすり替えていることが、私もあるかもしれない。
「……でもさ、浜崎が矢橋さんのこと好きだったのは本当なんじゃないかな」
……浜崎が私を好き?
ひどいあだ名で呼び続けていたのに?
……。
でも、好きな子に意地悪をする心理があるというのは聞いたことがある。
もし、私をからかった理由が、好きだからであるなら、矛盾した行動にも説明がつく。
だけど、私はからかわれて悲しかった。浜崎と吉井の悪意が、いつクラスの女子たちにも伝わるか気が気ではなかった。
人から好かれることは、きっと嬉しいことだろう。
だけど、私は浜崎から好かれていたという事実を受け入れたくはなかった。
今さら『好きだった』と言われても、何も救われない。私が泣いていたことも、苦しんでいたことも、浜崎は知らないまま。ただの"良い思い出"にしたのだろう。
他の生徒が教室の方に向かって歩いて行く。そろそろ掃除の時間も終わるのだと思った。
「……また何かあったら、いつでも話しかけてよ」
丸本くんは、キリが良さそうなところで去っていった。
私も自分の掃除の持ち場に戻ろうとした。廊下を歩く時、頭の中は中学時代のことでいっぱいだった。
そういえば、社会のノートに「なまこ❤︎」と書かれていたことがある。
あれは浜崎が書いたものではないか。
わざわざハートマークが添えられてあったのは、私に好意的な気持ちを伝えるためではないか。……考えすぎかな。
丸本くんを通じて、新たな事実を知った時、違った見方で過去を振り返ることができた。
救われた気持ちになった……とは思わないけど、浜崎の行動に"理由めいたもの"が見つかったので、前よりも1ミリだけ呼吸がしやすくなったように思う。
とぼとぼと階段の踊り場に戻ったら、なんとララが待っていた。
仁王立ちをしていて、目が合ったら「どこ行っていたの」と、そっぽを向かれて言われた。




