第14話 ララの家にお邪魔する
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目の前には立派なマンションが建っている。近未来的なデザインをしていて、オシャレな雰囲気。ララはこのマンションの16階に住んでいるということだった。
エントランスをくぐり、一緒にエレベーターに乗り、玄関のドアを開けるとゴールデンレトリバーのレトがお出迎えしてくれた。ララの方をじっと見て、尻尾をフリフリしていた。
「かわいい!」
「でしょ!! レトよ。仲良くしてね」
靴を揃えて家の中に上がると、レトが私の足にじゃれついてきた。ララが微笑ましい目で私たちを見ている。
「おじゃまします」
「あぁ。今、家に誰もいないから。楽にしてね」
そ、そうだったんだ。……二人きりってことだよね。なんか、急に緊張してきた。
先に私だけララの部屋に案内してもらった。
ララの部屋は女の子らしくてかわいかった。ピンクを基調にした部屋で、家具はアンティークで揃えているのがセンス良い。部屋の中はきれいに片付けられていて、私の部屋と大違いだなと思った。
しかし、部屋には一つ、につかわしくないものがあった。
えっ。何これ……。
私は困惑することになる。
とりあえずテーブルの前にクッションが置いてあったから、その隣にちょこんと座ってララを待つことにした。レトも私にならって隣に座る。かわいい。
ララを待つ間スマホを見ると、アキからLINEが来ていた。内容は『今日はごめん。詳しい話は明日するね!』というものだった。私は簡単に返事をする。
「おまたせ」
ほどなくして、ララがおぼんにコーラとドーナツを乗せてきた。私の前にコップとお皿を一つずつ置く。
「ありがとう」
「コーラとドーナツ苦手じゃない?」
「ううん。大好き」
「……そう。なら良かった」
謎の組み合わせがかわいいと思ったけど、あえて言わなかった。部屋に置いてあったウェットティッシュを使わせてもらった後、ありがたくドーナツをいただいた。
「おいしい!」
「そう? 家にあったものだけど、口にあって良かったわ。なにせ友達を家に呼んだのは初めてだから」
「……そうだったんだ」
「今日、真子奈を家に呼んだのは想定外だったわ。でも、レトを見てほしかったから、良い機会だったわ」
ララはにっこりとした顔で笑う。いつのまにかレトがララの近くに行き"ふせ"の格好をしていた。ララに優しく撫でられる。
「……あのさ、一つ聞いても良い」
「何?」
「なんで、部屋にサンドバッグがあるの?」
私は部屋に入った時から疑問に思っていたことを口にした。触れてはいけないかと思いつつ、逆にスルーするのも失礼かと思って勇気を出して聞いてみた。
「まぁ。ストレス発散のためね」
ララはケロリとした顔で言う。
「あたしがノートにぐるぐる書きをするように、サンドバッグもあたしにとって必要なものなの」
そう言うと、ララは立ち上がり、サンドバッグの近くに行った。ファイティングポーズを取った後、流れるように右フックを繰り出す。左、右と軽くジャブを打っていく。私の前だからか、やや力を抑えているように思えた。
「楽しそう……」
「真子奈もやってみる?」
ララがおいでと言わんばかりに手招く。初めての試みに胸が高鳴った。
サンドバッグを目の前にして、軽くパンチを打つと思いの外、固かった。しかし、めげずに次は、力を強く入れてみたら、サンドバッグが大きく揺れた。一回打っただけだけど、確かに何回か続けたらストレス発散になりそうだ。
「もう少し、続けてみて」
「う、うん」
ララの真似をして、左、右とジャブを打った。私の動きにサンドバッグが反映して、振り子のように揺れる。純粋に面白いなと思った。
「本当はボクシンググローブをした方が良いんだけどね。でも、体を動かすって気持ちが良いってわかるでしょ?」
「うん。そうかも! ララはストレス発散方法を見つける天才だね」
「ふふ。何それ」
不意を突かれたようにララがクスクスと笑う。そこまで面白いことを言った自覚はないから変に照れてしまう。
ララは一瞬、黙った後、意を決したように口を開いた。
「……真子奈、少しいいかしら?」
「うん。どうしたの」
「話したいことがあるの……。別に変なことじゃないわ。真子奈に聞いてほしいの」
場の雰囲気が引き締まる。
「……いいよ。何?」
「……ありがとう。あたしね、男の子の友達はもちろん、女の子の友達もできたことがないんだ」
「そうだったんだ」
ララは続ける。
「……そりゃ、幼稚園や小学校では、遊んだり話したりするような相手はいたわ。だけど、いつも何故かぎこちなくなってしまうの」
私をじっと見つめる。ララの本音に少し触れることができたような気がして、胸がいっぱいになった。
「特にね、間に男の子が入ると上手くいかなくなってしまうの」
目線を逸らして、過去を思い出すように私に話を聞かせてくれた。
「男の子の方がね、あたしのことが好きという空気をいつも出すの。そうするとあたしと遊んでいた女の子は、いつも機嫌が悪くなってしまうの」
ララはかわいい。きっと、かわいい子なりに悩みもある。
正直、私にはわからない世界だけど、ララの様子を見ると、軽く口にすることができなかった。
「最初は意味がわからなかったわ。わからなすぎて、女の子に問い詰めたこともあるわ。しまいには、ララはかわいいから良いよねって意地悪な言い方をされてしまうの。あたしは、その男の子のことなんか、これっぽっちも好きではないのに」
ララの足元にレトが寄ってきて、ピタリとくっつく。毛並みに沿って、優しそうに体を撫でた。
私は先ほど、浦山ひろきがララに向けた感情を思い出していた。甲斐さんが突然怒った光景も、鮮明に思い出された。




