第13話 見られた!
「……って、キスをする側は、身長が高い方じゃないとね。格好がつかないわね」
ララは何でもないふうに、そう言うと、私から離れた。
えっ! なにそれ。冗談だったの?
ララの真意がわからない!
少し距離を取ってほしかったのに、離れたら離れたで寂しく感じた。
「……じゃあ、こんな感じ?」
雰囲気にのまれて、私はララの肩を掴む。仕返しと言わんばかりに、同じシチュエーションを演じた。
やっぱり背が高い方が、低い方の両肩を触った方が安定感がある。少しだけ目線が低いララとばっちりと目が合った。
何を思ったのか、ララはそのまま目を閉じる。
……もう、ここから先。どう動いていいのかわからない。
何もかも初めてで、衝動的な感情だった。先ほどのアキと凛香ちゃんのキスシーンが脳裏に浮かぶ。そのまま唇を引き寄せてーー。
その時だった。
私は人の視線を感じて、目線を向けた。そしたらなんと、ーー浦山ひろきがいた。目を丸くして私たちを見ていた。
えっ。なんで。
それと隣に彼女の甲斐さんがいた。二人並んで、私たちを興味深そうに見ていた。すごいものを見たと言うように、目が意地悪く光っていた。
「ちょっ……」
私はララの肩から手を離し、少し距離を取った。動揺していたから、変に声が裏返ってしまった。
「え? 何」
ララが私が見つめる方向をたどる。
「……って、最悪」
浦山ひろきと甲斐さんの姿を確認すると、悪態をついた。今のキス未遂現場を盗み見られたことを察して、ひどい顔をした。
「立花さんって、レズだったの!?」
甲斐さんが冷たい一言を言い放つ。
「ひろきが、パパ活してるって言ってたけど。ははっ。立花さんって女もいけるんじゃん。ウケる!」
くすくすと口に手を当てて、意地悪そうに笑う。
「ほ、本人の目の前でパパ活とか言うなよ!」
浦山ひろきが、焦って私たちの間に入る。ララがパパ活をしていると嘘の噂を広めた重宝人。まさか自分の彼女が面と向かってララに酷い言葉を吐き捨てるとは思っていなかったのだろう。取り巻きがいる時は強気だったのに今は弱気だ。
「だって〜」
「……はぁ。急に入ってきてアンタたちなんなの?」
ララが不機嫌そうに言い返す。
「……ははっ。ってか、否定しないじゃん。さすがドーピングちゃん」
今日の体育のマラソンで負けたことを甲斐さんは、まだ根に持っているんだ。そんな小学生みたいな悪口をわざわざ口にする人だったんだ。
「……はぁ。こんな性悪女の相手するの面倒だわ」
ララは呆れたように言い返す。
「どっちが!? 本当にムカつく!! ねぇ、ひろきからも何か言ってよ〜」
わかりやすくやり返してこないララに痺れを切らしたのか、甲斐さんは彼氏を味方につけようとする。
しかし、浦山ひろきは黙ったままだ。むしろララから気まずそうに目を逸らして、バツが悪そうな顔をしている。
ああ、この人は臆病なんだ。マラソンの時のように、遠くからララが言い負かされるのを見ているのはニヤニヤできるけど、いざ自分が同じ土俵に上げられるとオロオロして何もできない。
ララが浦山ひろきに何か酷いことを言ったら、その時は逆上して言い返してくることだろう。しかし、パパ活していると嘘の噂を流した免罪符がある。負が悪い。だからララがおとなしいうちは何もできない。
「ちょっとー。なんで何も言わないのよ! あー、ひろき、立花さんのこと好きなんでしょ。なんか名前出すこと多いしさー」
「は、はぁ?」
浦山ひろきが動揺する。ほのかに顔も赤い。
まさか、本当にまだ、好きなの?
私は居ても立っても居られない気持ちになった。ララを取られたくない、守りたい。気が気じゃなかった。
冷静なままだったら、何とも思わなかったのに、わかりやすく動揺されると勘繰ってしまう。
「……えっ、マジ? ……もういいや。私、帰る」
甲斐さんがネガティブ思考に染まり、その場から立ち去ろうとする。涙目になっているように思えた。
「翡翠。待てよ」
彼氏の浦山ひろきが当然のように追おうとする。あっという間に、二人が私たちの前からいなくなった。
……呆気に取られてしまう。
「なんだったの、今の二人」
「……」
嵐のような出来事だった。
だけど厄介だ。癖者のような二人から、ララとキスをしようとしているところを見られてしまったのだから。
パパ活のように、また言いふらされたりしないだろうか。
ふとララの方を見ると、なんともないような顔をしていた。むしろ堂々としている。すごい。私はララの強気なところを尊敬している。
「なんか、ゆっくりできないわね」
「そうだね」
「……あたしの家に来る? そしたらゆっくり話せるでしょ」
嬉しいお誘いだった。
行きたいけど……いいのかな? でも断る理由がなかった。
「い、行く!」
「ふふっ。じゃあ、案内してあげるわ」
急遽、ララの家にお邪魔することになった。ここから歩いて10分くらいの場所ということで、すぐ着くみたいだ。私は思いもよらぬ急展開にドキドキしていた。




