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名前がコンプレックスの女の子を好きになってもいいですか?  作者: 宮野ひの


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第11話 一緒に帰る





 放課後。今日は、週に一度ある全部活が休みの日だ。


 帰宅部の私には関係ないけど、陸上部のアキや、文芸部のナナミンと一緒に帰れる貴重な日でもある。


 しかし、アキは今日も急用があると先に帰った。ナナミンも委員会関連で居残りがあるから、一緒に帰れないと言っていた。


 それじゃ仕方ないと、一人で帰るつもりだったけど、今日は気がかりなことがあった。それはララのことだ。


 お昼休みに体育の先生から呼び出されたことが気になった。その後ろ姿に声をかけようとした時、ララの方から振り向き、目が合った。


「あっ、ララ」


「…………」


「お昼休み、どうだった?」


「別になんてことないわ。先生に注意されただけ」


「そっか。なら良かった。……いやこの場合、良かったって言っていいのかな?」


「良かったでしょ。反省文とか書かされなかったし! 面倒なのはごめんよ」


 ふんっと威勢の良い態度を取るララ。いつも通りで安心した。


 ふとツインテールに目線を向ける。


 私が結ったんだよなぁ。形が崩れていなくて良かった。ふと更衣室の出来事が頭をよぎる。


「ねぇ、真子奈これ見てくれる?」


「な、なに?」


 ララは私を自分の席まで呼んでくれた。


 教室に残っているのは私たち含めて数名で、その人たちも、すぐに帰りそうだった。誰も私たちに注目している人はいなかった。


 ララがカバンからノートを取り出すと、私にそっと差し出した。言われるがまま、ゆっくり開くと、シャーペンで黒く塗りつぶされたページが現れた。


 私は思わず「うわっ」と声を出す。


「もー、大きな声出さないで!」


「……それ、どうしたの?」


「ほら。ストレス発散よ。いつもは誰かに見せることはないけど、真子奈には本性がバレちゃったし……。……というか、あたしが見せたかったの!!」


「ええ〜」


 かわいいんだか、横暴なんだかわからない。だけど、やっぱりかわいいと思った。


「……というか、ララ。そんなに書くほどストレス溜まっていたの?」


「まあね。今日は体育のこともあったからね。甲斐にドーピングやってる? って言われたの今も腹、立ってるわ」


 腕を組んだララは少し黙る。


「……あっ。それに、ゴールデンウィーク、真子奈にも会えなかったし!」


 えっ。えっ。


 ララを見ると、いたずらっ子のように笑っていた。どきんと胸が跳ねた。


「……私もゴールデンウィークに、ララが今、何してるかなって思う時があったよ! だけど、連絡先も交換してないし、聞く手段もなくて……」


「じゃあ、今しましょうよ」


 そう言うと、ポケットからスマホを取り出してくる。


 そんな、あっさり。


 ……もっと早く言えばよかった。


 言い訳になるかもしれないけど、時々、私からララに近づいていいのか悩んでしまうことがある。


 アキやナナミンには、自分から連絡先を聞いた。……二人と比較しているわけじゃないけど、ララには謎の躊躇いが生まれてしまう。


 ララの方から「近づいても良い」というわかりやすいサインが出ていれば、私はもっと積極的になることができるだろうか。


 思えば掃除の時に話しかけてくれたのも、髪を結んでほしいと言ったのも、すべてララの方からだった。


 LINEの友だち一覧にララの名前が追加された。アイコンは犬の写真だった。


「かわいい! このワンちゃんララが飼ってるの?」


「そうよ。名前はレト! 犬の種類がゴールデンレトリバーだから、そこから名前を取ったの。お利口なのよ。お手やおすわりもすぐに覚えたし。あたしが家に帰ると、いつも尻尾を振って待っていてくれるの! それにこの前……」


 私がニヤニヤしてララを見ていたら、咳払いをひとつこほんとして「喋りすぎたわ」と言い訳をした。


「……ララ、しゃべり足りないし、良かったら一緒に帰らない?」


 ちょっぴり勇気を出してみた。だって、ゴールデンウィーク中に私に会えなかったことを悲しんでいるように見えたララがかわいかったから。それこそ、私から「近づいても良い」わかりやすいサインだったりするのかな。


「……いいわよ。どこかに寄ってく?」


 ララはノートをいそいそとカバンにしまった。素っ気なかったけど、口元が緩んでいるように見えた。





 初夏の訪れを感じる気温に、自然と腕まくりをしてしまう。歩くたびに通り過ぎる木々や、家々に置いてあるプランターに咲いてある花がいつもよりも眩しく見えた。猫よけに置いているペットボトルの水でさえキラキラ輝いている特別なもののように思えた。


 隣を歩くララが妙に大人しい気がした。


 あれ、おかしいな。二人きりになるのは初めてじゃないのに……。


 なにか、話さないと……。


「……暑いね」


「……そうね」


「……ララは家、どの辺りなの?」


 そう聞くと、ララはとある場所を言った。あれ。ここから近い?


 今、行こうとすれば行ける距離だ。だけど、あえて言葉にはしなかった。ララの家に行く流れになるのが失礼だと思ったからだ。


 私たちは目的地も決めずに、ぶらぶら辺りを歩くことにした。


 私にとっては初めて歩く道で、非日常感を味わえた。


「あっ。公園! ここで休んでいかない?」


「うん。いいわ」


 ベンチでおしゃべりできたら良いなと思った。

 こんなところに公園があったんだ。静かで良い場所だなぁ。


「って、あれ? 誰かいる……」


 その公園には、女子二人の先客がいた。よく見ると、一人は同じ高校の制服を着ていた。


 ……あれ。あの後ろ姿って。もしかして。

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