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「え、雨宮くん白雪さんの隣なの?」
「嘘でしょ、よりによって白雪さんの隣とか……」
「雨宮くんの隣だなんていいな〜羨ましい……」
クラスの女子たちがざわつき始める。
雨宮くんは確か生徒会長を務めていて、学年トップの成績を誇る超優等生だ。そういう生徒事情に疎い私でも知っているくらいの有名人である。ついでに容姿も整っている、となると女子たちが黙っているはずがない。
(よりによって、はこっちが言いたい台詞だよ……)
目立ちたくない私にとって、この隣人はある意味最悪のケースだ。案の定、クラスの女子のほとんどがものすごい形相でこちらを見ている。というか、睨んでいる。
「あの子、確か陽向くんとも席近かったよね?」
「前の席でしょ、なんで白雪さんばっかり……」
普通の女子からすれば天国のような席配置だろうが、私にとっては拷問といっても過言ではない。数多くの刺々しい視線を浴びながら過ごしていかなければならないから。
(視線で身体が穴だらけになりそう)
ふと教卓の方に目をやると、男子と仲良さげに会話していた陽向が、心配そうな目をしてこっちを見ていた。
(いや、あなたも原因の1つだからね!?)
呆れて軽く溜息をついた時、
「ほら、白雪さんが困ってるから。みんなそれぞれ自分の席に着きなよ」
凛とした声が教室内に響く。
声の主はやはり雨宮くんだった。
状況を見かねて助け舟を出してくれたのだろうか。
「まあ、雨宮くんがそう言うなら……」
その声を皮切りに、クラスの女子たちが次々と自分の席に戻っていく。
(鶴の一声とはまさにこのことね。雨宮くんパワー、恐るべし……)
女子からの反感を買うのも怖いが、雨宮くんは絶対敵に回したくないな……と強く思った。
席替え後、早速ペアワークの授業があった。
雨宮くんはさすがの頭脳で、次々と難問を解いていく。
(もしかして、私必要ないのでは……?)
と思いながらも、たまに雨宮くんから問いかけられることがあるので、その都度返答しつつ作業を進めていく。
「白雪さん、すごいね。僕の疑問にも的確に答えてくれるから、すごくやりやすい」
不意に褒められたので、思わず目が点になる。
「いや、雨宮くんの方がすごいよ。ほとんど雨宮くんが問題解いてくれてるし、私は何も……」
「ううん。今までペアワークしても、本当に1人でやっているような感じだったから」
なるほど、容易に想像がつく。
女子は雨宮くんに見惚れていて何もできず、男子は雨宮くんの雰囲気に気圧されてついていくのが精一杯なんだろう。
「初めて対等にペアワークができた気がする」
そう言って微笑む彼は、実に絵になるなと思う。が、やはりどこか妙な既視感がある。
(雨宮くんは去年違うクラスだったし、まともに会話したのも今回席が隣になって初めてだし……)
悶々と考えを巡らせていると、
「白雪さん、どうかした?」
余程私の様子がおかしく見えたのだろうか、心配そうな顔でこちらを見る雨宮くん。
「ううん、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけだから」
「……そっか。ならいいけど、もし何か困ったことがあったら、僕でよければ相談に乗るよ」
「い、いやそんな滅相もない!本当に大したことじゃないから!気にしないでください…!」
まさかの返事に思わず大きな声を出してしまった。モテる男子はさらっとこういう言葉が出るのか、すごいな……
急に大声を出した私に驚いたのか、周囲の視線が一気に降り注いだ。
(やってしまった……あれだけ目立ちたくないと思っていたのに)
私は視線を避けるように頭を抱える。
雨宮くんも雰囲気を察してか、それ以上追求してくることはなかった。
この時は何事もなく終わったかと思ったが、
「「「………」」」
女子たちの目が嫉妬の炎で燃えていることに、私は気づいていなかったのだ。