幕間4
冒険者は無事魔王の城。その城下町に入ることに成功した。
そこには酒盛りを始めている大工職人達がいた。
買い食いをする女学生がいた。
買い物帰り主婦らしき女性がいた。
犬と遊ぶ子供がいた。
魔物もいないわけではない。だが圧倒的に人間の方が多い。
まるで幻術をかけられているかのようだ。
通りすがりの若者に声をかける。
「すまない。ここは本当に魔王城なのか?」
「ああ?あんた田舎者かい?ここは確かに魔王殿ヒラヌマだよ」
「どうして人間が普通に住んでる?」
「そりゃあんた、不死公様を倒して勇者を名乗ろう。などと考えるバチ当たりな冒険者とか、正規遠征軍の兵士とかが昔から絶えなくてね。で、不死公様のところまで辿り着くんだけど結局倒せなくて、そういった連中の子孫が国に帰るのも諦めて、しょうがなく造ったのがこの城下町だよ。俺の親父も含めてな。あんたもそのクチかい?」
若者は微笑みながら問いかける。
「いや、俺は・・・」
「いいからついて来な。不死公様のいる謁見の間の前まで案内するぜ」
城下町を抜け、城の中心部に向かう。
時折頭がアライグマだのラッコの人間とすれ違うが、とくに兵隊に呼び止められることもなかった。
そして二人は一際大きな造りの扉の前まで辿り着いた。
「この扉の奥が不死公様のいらっしゃる謁見の間だ。もしあんたが不死公様と本当に戦うつもりだって言うなら俺は止めない。ただし、この扉をくぐってしまったが最後。後戻りはできないぜ?」
この扉の奥に、魔王がいる。
「忠告ありがとう。だけど俺は魔王を倒すためにここまでやってきたんだ」
冒険者は剣を抜いた。
「ところであんた。扉の脇に馬鹿でっかい水晶があるのが見えるかい?」
若者が言う通り、謁見の間に通じる扉の左には、人間が入ってしまいそうな薄い白色の水晶があった。
「あれは記録の石と言ってね。触った人間の記憶と経験を保存しておくことができる。そして万が一その人物が死亡した時、一度だけ蘇ることが出来る」
「え?なにそれ?」
「不死公様がお造りなったそうだ。本来は別の目的に違うらしいんだが。勿論病死とか寿命とかの場合は無理らしいがね。もし不死公様と戦うというのであれば、その前にあんたも使ったらどうだい?」
恐る恐る、冒険者は水晶に触れてみた。
何も、起こらない。
音もならず、水晶が光輝くわけでもなく。
「何も変化はないようだが・・・」
「水晶の根元にある箱をみてくれよ」
箱には『記録一回につき金貨10万枚必要』と書かれていた。
冒険者は9万5000枚しか金貨を持っていなかった。
「それと扉の右側に魔法陣があるだろう?」
扉の右側には、確かにぼんやりと明滅を繰り返す魔法陣が存在していた。
「あれに飛び込むと、所持金半額で人間の国まで戻ることができるぞ。どうする?」
冒険者は何も考えずに魔法陣に飛び込むことにした。




