炎の法(3)
パッショリたちがマットやらクッションを積み重ねた場所を目がけて、屋上に取り残された人々が服を繋いで造ったロープを垂らし、降りていく。20人ほどが無事に降り立った頃、空が不自然な暗がりに覆われていた。
「ところで、魔法学科の劣等生。サクよ」
「普通学科です」
作治は不死公の誤りを訂正した。訂正ができるようになった、ということは、作治の内心の自信を取り戻した現れでもある。
「魔術の基本に元素魔法というのがある。大地。氷。風。炎。基本的にこれらの間に強さの上下関係はない」
「無視しないでください」
「ではこの四元素のうち、最も弱いのはどれか。わかるかサク?」
「氷雪系が最弱です」
作治は即答した。
「なんだ。わかっておるではないか」
「『史上最年少で入隊した』ていう肩書の少年隊長はいつもカマセ犬じゃないか」
「そう言う訳であるから、炎を水で消すのは単純なようでいて、容易いことではない。熱を奪い、酸素を奪い、燃焼物を奪い、然るのちようやく炎は沈下をむかえる」
「魔法でちゃちゃ、と消せばいいんじゃないんですか?」
不死公は作治の言葉に、小さな溜息をついた。白骨死体なので、息をするための肺などないのだが。
「才能はあるが、覚えの悪い弟子を持った魔法使いというのはこういう感じなのかのう」
「いえ。不死公さんあんた魔法使いでしょ?」
「まぁいい。とりあえず火を消そう。上に我が風で集めた積乱雲があるであろう?」
「ありますね」
「あれからダウンバーストを伴うゲリラ豪雨を発生させる。望み通り一気に消火させるから少々下がっておれ」
「そうですか。ゲリラ豪雨で・・・ゲリラ豪雨ううう!!!??」
作治は驚き慄いた。
「そうそう。皆に低地にはいるなと伝えておくのだぞ。なにしろゲリラ豪雨だからな」
当然ながら、作治は周囲の者達に避難を促す。火事以上に。
「大変だ!ゲリラ豪雨が来るぞ!」
「ゲリ・・・サク。それはなんだ?」
アミーラは作治に尋ねた。
「ゲリラ豪雨だよ!ダウンバースト、突発的な低気圧により、台風並みの局地的な雨風が局所的に発生するんだ!特に低い場所にある下水道や道路など一瞬にして冠水して車に乗ったまま人間が溺死する事なんて毎度のことなんだぞ!!」
「なんと!不死公様は台風を起こす魔術が使えるのか」
「いやはや流石は不死公様だ」
周囲で事態を見守っていた魔王領の住人達は素直に不死公を褒め称えた。
「褒め称えてないで!あんたらさっさと避難するんだよ!!」
そう言って作治は周囲にいた人々の避難誘導を開始する。
「あ、だからそっちはダメだって!低いところは空から降って来た雨が一気に流れ込むんだ!」
「曇っているのは火事のところだけだろう?」
「火事場のところが高くて、そこの道路が斜面になっているから降った水が一気に流れて川のようになっちゃうんだよ!溺れ死にたいのか!」
「いや。だって俺アヒルだから。泳げるし」
鳥頭の獣人、いや鳥人が答える。
「そういうレベルの雨風じゃないから!」
作治が避難誘導していると、雨が降り出した。
暗い雲のある場所。燃える建物の敷地のところだけ。降り出した雨は一分も滝のようになり、炎の息の根を止めにかかる。
「おお!流石は不死公様だ!燃える炎の建物の場所だけに雨を降らせているぞ!」
「あっという間に火が消えていくぞ!人間の魔術師にこんなことは出来まい!」
魔王領の住人達が不死公を褒め称える中、作治にアミーラが近付いてきた。
「一時はどうなるかと思ったか。想像通りではないか」
「そうだね。ゲリラ豪雨を引き起こして火事を沈下するなんて、中々できることじゃないよ」
「その性質を把握しているお主もな」
「えっ?いやいや。だからゲリラ豪雨を降らしてるのはあそこの不死公さんだってば」
その不死公は黒雲から降りしきる流雨の中心にいる。
既に沈下しかけた、かなり古い建物を見つめながら。
そして、雨風が作治達にも感じられるくらい強めに吹いた瞬間、その古い建物は一気に崩れ、不死公を押しつぶした。
「大変だ!また不死公様が死んでおられるぞ!!」




