第21話。山が燃える?紅葉狩りとおじさんの焼き芋。
第21話:山が燃える? 紅葉狩りとおじさんの焼き芋
大暴走温泉旅行から帰った数週間後、季節は完全に秋本番。
山々は赤や黄色に染まり、見事な「紅葉」のシーズンを迎えていた。
拓海、時次郎、サクラ、そしてアイリスの4人は、ハイキングを兼ねて紅葉狩りへとやってきていた。
「わあ、綺麗……! まるで山全体が燃えてるみたい!」
浴衣から動きやすいマウンテンパーカーに着替えたサクラが、落ち葉を拾って目を輝かせている。
「素晴らしいねぇ。大正時代の紅葉も綺麗だったけど、令和の紅葉は一段と鮮やかだ。……おや、あそこで何か売ってるぞ?」
時次郎の鼻が、クンクンと敏感に動いた。
山のふもとの売店から、たまらなく甘く香ばしい匂いが漂ってきたのだ。
秋の味覚の王様——『石焼き芋』である。
時次郎はサクラにおねだりして、ホカホカの焼き芋を一本買ってもらい、山道のベンチで嬉しそうに半分に割った。黄金色の湯気と、ねっとりとした蜜が最高のビジュアルを描いている。
「さあ拓海、秋の恵みを頂こうじゃな——」
彼が焼き芋にかぶりつこうとした、まさにその瞬間。
遠くの藪の中から、ガサガサと不穏な音が響き、一頭の巨大な『野生のイノシシ』が、焼き芋の匂いにつられて猛スピードで突撃してきたのだ!
「キャッ! イノシシ!?」
サクラが悲鳴をあげる。
イノシシの牙が、サクラの足元に迫るまであと数メートル。
「サクラちゃんに手出しはさせないぞ! ハッ!」
時次郎が男気を見せて指を鳴らした。
――ピシィィィン。
世界が静止した。突撃してきたイノシシは、前足を浮かせた大迫力のポーズのままフリーズ。
風に舞っていた紅葉の落ち葉たちも、空中に敷き詰められた絨毯のようにピタッと静止した。
「よし、サクラちゃんを安全な場所に避難させて——」
時次郎がイノシシを回り込もうとした、その時。
激しい山登りの疲労と、焼き芋の匂いのダブルパンチにより、彼の胃袋が悲鳴をあげた。
ギュルルルルルルルウウウウウッ!!!
「あ、ヤバ、一気にガス欠……」
最悪なことに、時次郎は持っていた焼き芋を落とし、そのまま紅葉の落ち葉の上にカチコチに固まってしまった。
「おい時さん! ここは山の中だぞ! 落ちた焼き芋は土まみれだし、どうするんだ!」
拓海が叫ぶ。
「マスター、大変です! 時間が止まった空間では、売店から出ている焼き芋の『煙』が空気中に固定され、風で流されません。この狭い一本道に、高密度の煙が充満し始めています!」とアイリス。
見ると、売店の煙突から出ていた白い煙が、モクモクと塊のまま山道に停滞し、拓海たちの視界を奪い始めていた。
このままだと、煙に巻かれて窒息してしまう。
「くそっ、煙が目に染みる! 時さん、飯だ! 焼き芋を……待てよ、お前のハッピのポケット!」
拓海は、時次郎が夏祭り(第17話)の時からずっと着っぱなしにしているハッピのポケットに手を突っ込んだ。
入っていたのは、あの時サクラが投げてくれた『あんず飴の割り箸に残った、ガチガチに固まった水飴の塊』だった。
「これしかない! 糖分チャージだ!」
拓海は、紅葉の落ち葉を掻き分け、時次郎の口の中にそのガチガチの水飴の塊をねじ込んだ。
もぐ、もぐ。
大正時代の水飴に比べると、現代のそれは驚くほど甘かった。
時次郎のごくんという音が響き、彼の瞳に秋の夕日のような輝きが戻る。
「あまーーーい! 脳細胞が活性化されたぞ!」
時次郎が叫び、豪快に指を鳴らした。
カチ, カチ, カチ!
世界が動き出すと同時に、時次郎は時間を10秒だけ巻き戻し、イノシシの突撃ルートをほんの少しだけ右にずらした。
突撃を再開したイノシシは、サクラの横を猛スピードで通り過ぎ、そのまま山の奥へと元気に去っていった。
「あれ? イノシシ、どこかに行っちゃったね?」
と不思議そうにするサクラ。
煙も山の風に流され、美しい紅葉の景色が元に戻った。
「ふぅ……秋の山は危険がいっぱいだねぇ」
と、すっかり元に戻って、新しい焼き芋をモグモグ食べている時次郎。
「お前が一番の危険因子だよ!!」
拓海のツッコミが、赤く染まった山々にこだまするのだった。(終わり)




