第6話 森森森森森
「……とにかくここから出るしかないな」
悠翔の声は低く、そしてどこか落ち着いていた。
「森を抜ければ、どこかに人のいる城下町に行けるはずだ。何もスライムが出てくる異世界だ、ギルドとかがあってもおかしくない。川や道を頼りにすれば辿り着けるはずだ」
「川って、どこにあるか分かるの?」
美羽は眉をひそめ、家の前に広がる木々を見渡す。地図も案内もこの家にはない。
「向こうに見える森に入って高い所から探せば分かるかもしれない。……例えば、丘に登って、川の流れを探す」
悠翔は慎重に言葉を選びながら、美羽に森を抜ける手段を説明する。
「……この家をしばらく空けるってことね」
悠翔は無言で頷き、二人は家を出る。外の空気は緊張と未知の香りに満ちていた。葉を踏み、枝をかき分けながら、森を少しずつ進む。
木々の間から差し込む光は柔らかく、だが日差しが届かない地面は湿り、足元の落ち葉や小枝を踏むたびにパキッと小さな音が響いた。
「……静かすぎるね」
美羽は小声でつぶやく。息をひそめるように歩くと、森の中の小鳥のさえずりや、遠くで揺れる枝の音が妙に大きく感じられた。
森そのものが生きている実感に襲われ身震いをするも悠翔は淡々と考え込むように歩いていた。
「なんでこんな平気なのよ…!」
「美羽」
「ふぇ……!」
唐突に呼ばれ情けない声を張り上げる。
「地図もないし、太陽の位置と川の光を頼りに進むしかない」
枝に引っかかる蜘蛛の巣、湿った土の匂い、草木に触れたときのひんやりとした感触。すべてが、二人にこの世界の“生きている感覚”を伝える。
「ねえ、あの光……もしかして川?」
美羽は遠くの木漏れ日に目を凝らす。水面が反射して、まるで小さな星のように光っている。
「たぶんそうだ。川に沿って歩けば、人が通る道が見つかるはずだ」
悠翔の言葉に、美羽は小さく頷く。膝の上で握る食べかけのリンゴの重みが、少しだけ安心感を与える。
踏み固められていない森の小道を進むたび、枝葉が服や髪に触れ、湿った空気が肺を満たす。時折、足元の小石や根に躓きそうになりながらも、二人は互いの距離を保ちつつ前へ進む。
丘に登ったとき、森の向こうに川面が光るのが見えた。
「よし、あそこを目指そう」
悠翔は声を落としながら指をさす。美羽の胸にも、少しだけ冒険の昂ぶりが走った。
――二人はその光を目指し、再び足を踏み入れた。
昼過ぎ、ついに森を抜けると瓦屋根や尖塔が見え、異世界の城下町が視界に広がった。地図も案内もない中、手探りで辿り着いた町。美羽の心に小さな興奮と期待が灯る。
「……すごい、ほんとにあったんだ」
「……ああ。まずは情報収集だな」
森から城下町へ、戦いの後の二人の足取りは、未知の世界への冒険の始まりを告げていた。




