第1話 (後編) 兄妹異世界で暮らすことになりました―そして訪れる世界の変化
辺りには巨大な樹木が生い茂り、空は鮮やかな紫色。
草の香りも空気の感触も、家の庭とはまったく違う――完全に異世界だった。
「……な、なにこれ……」
美羽は玄関の外に立ちすくみ、声を震わせた。
足元には見たことのない大きな葉が広がり、遠くには紫色に輝く樹木の森がそびえている。
空は淡い青に金色の光が混じり、雲ひとつなく澄み切っていた。
「……間違いない。ここ、俺たちの知ってる場所じゃない」
「そ、そんなの見れば分かるでしょ! どうするの!?」
美羽は振り返り、必死に声を荒げる。
リビングの照明はまだ灯り、冷蔵庫のモーター音も変わらず聞こえていた。
だが、窓の外に広がるのは住宅街でも隣の家でもなく、未知の大地。
「電気も水も動いてる……家ごと転移した、ってことか?」
悠翔は自分に言い聞かせるように呟いた。
「ふざけないでよ! 帰る方法は!? ねえ、どうやって帰るの!?」
美羽は胸の奥に込み上げる恐怖を隠せず、強く言い募る。黙り込んだ悠翔を無視し、美羽は慌ててキッチンに駆け込み、蛇口をひねった。
――水は出る。しかも冷たいまま。
「……嘘でしょ……」
リビングに戻り、照明のスイッチを押す。
蛍光灯がいつも通り白い光を放つ。
テレビも、冷蔵庫も、電子レンジも、すべてがまるで何事もなかったかのように動いていた。
「ありえない……電気も水も、どこから供給されてるのよ……?」
美羽は声を震わせ、思わず悠翔を見る。
悠翔も腕を組み、険しい表情で首を振る。
「外には電線も水道管もない。つまり……家そのものが、こことは別のルールで動いてるってことだ」
「別のルール……? なにそれゲームみたいに言わないでよ!」
「でも実際そうなんだろ。今は使えるけど、いつ止まるか分からない。むしろ“今使えること”の方が不自然だ」
二人のぎこちない義理兄妹関係は、そのままに――
だが、未知の世界で生き残るためには、協力せざるを得ない状況が目の前に広がっていた。
――こうして、美羽と悠翔の、ぎこちない義理兄妹の日常は、一瞬にして非日常へと変わってしまったのだった。




