第66話「仮説」part2 -ポンコツ-
正座をしたまま、グリークスは神妙な面持ちで切り出した。
「彼らは、自らを裏社会の人間、マフィアだと語っていた」
その言葉に、部屋の空気が少し引き締まる。
ジルは静かに革表紙のノートを取り出し、ペンを構えた。
「彼らはイェクアールベッツィアの第13区……その地下深くにアジトを持っている」
「第13区の地下、だな」
ジルがさらさらとメモを取る。
アジトの場所が割れたのは大きい。
だが、グリークスはそこで言葉を詰まらせた。
「……だが、首領の名前は出せない。こちらとしても、情報の『担保』が潰されるのは避けたいんだ」
苦渋の決断といった表情で、グリークスが俯く。
ジルはペンを止め、眉をひそめた。
「……何を渡した?」
「担保が何か、だと? ……それは、デミトアの初めて抜けた乳歯だ」
——乳歯。
シン、と部屋の時が止まった。
「……は?」
「それと、帝国の宝物庫から拝借した大陸最古の歴史書を……。 おい、どうしてそんな顔をするんだ」
グリークスが顔を上げると、そこには彼を見る冷ややかな視線の雨あられがあった。
「"大陸一の大馬鹿者"だ」
「シスコンでしょ……」
「シスコンですね」
「シスコンだね」
「……不愉快」
「ただの重症患者ですわ。お気になさらず」
ジル、カノン、アーク、ポラリス、スズナ、そして実の妹であるデミトア。
全員からの容赦ない罵倒を受け、グリークスは再び部屋の隅で体育座りをして萎んでしまった。
たかが乳歯を人質に取られて脅される皇太子。
あまりにも情けない図式だ。
「……大陸最古の歴史書」
デミトアは、兄の奇行はスルーして、もう一つの情報に触れた。
彼女は誰に言うでもなく呟いた。
「確か紛失が発覚したのが、半年程前でしたか……」
ジルはノートを閉じながら、呆れたように言った。
「……名前は出せない、だったか。確か以前グロリアで、首謀者と思しき奴の名前を口にしていたんだが」
「というか、名前出さずにアジトの場所を言うなんて、頭隠して尻隠さずだよね」
カノンがもっともなツッコミを入れる。
アジトがバレれば、そこにいる首領の正体などすぐに割れる。
グリークスは「担保」を守るために口を閉ざしたつもりだろうが、実質的には全てを白状したに等しい。
「……頭も隠せてないですね」
アークがボソリと呟いた一言が、この場の総意だった。
情報を得たジルたちは、転移で貿易都市へと帰還した。
早速、貿易都市の統治者であるケイに面会を求め、第13区について問い質す。
「第13区ですか。あそこは特に怪しいという事も無いはずなんですがね」
ケイは首を傾げた。
「強いて言えば、住人が多すぎて管理が行き届いていない箇所があるくらいでしょうか。スラム化しているわけではありませんが、地下水道の整備なども追いついておらず、地上も迷宮のように入り組んでいまして」
「……絶対ダメだろそれ」
ジルは即座にツッコミを入れた。
管理が行き届いていない、入り組んだ地上と地下。
それは犯罪組織にとって、「どうぞアジトに使ってください」と言っているような好物件だ。
灯台下暗しとはこのことか。
ジルはため息をつき、仲間たちを振り返った。
「行くぞ。第13区の地下だ」




