第4話「とある小さな依頼」part1-一度目の再会-
昼食を宿で済ませた後、ジルは鞄にアークを入れて再び冒険者ギルド支部へ赴いた。
「ん……」
「オォ! 丁度良いところに来たジル!」
ギルドに入るなり聞こえてきた声の主は、ジルをパーティーから追放したリーダーのフルだった。
フルはジルに駆け寄り、その両肩をガチリと掴んだ。
目をこれまでに無いほど見開き、なにやら怪しげな笑みを浮かべている。
「さっきのスライム出せよ、あれ……魔王軍の幹部なんだろ…? せめてリーダーである俺様に素材を……」
「渡さんが」
空気が一瞬張り詰める。
魔法使いと剣士は、何も言わずにそっぽを向いている。
フルの額に血管が浮き出て、次第に顔が赤くなり、笑顔を保つのでいっぱいいっぱいになっていく。
「い、いいから渡せよ……な?」
フルの後ろの受付嬢が、彼を睨みつけている。
「渡せない」
「ふざけるなよ……俺様はB+ランクになったんだ。Cのお前は、生意気な口を利ける立場じゃねえんだよ」
ジルは内心、アークの事を「本気で倒せる訳がない」と思っていた。
何故なら、彼女が人型に変身した際の姿は、彼が以前担任をしていた生徒に瓜二つだったからだ。
(……)
「おい、聞いてんのか!」
フルの怒鳴り声で、ふと我に返る。
(……こいつ、そんなにアークを売っ払って金が欲しいのか)
「立場……"フル"、お前はそう言ったな」
「"フル"だと? どこまでも理系の分際で……ふざけやがって! この世界じゃ、詠唱も出来ねえお前はCランク止まりのグズ! 一生俺様に媚び諂う事しか出来ねえんだよ! さっきの件を不問にしてやってもいいから、俺のパーティーに戻って、そんであのスライムの素材を寄越せ!」
「A-。それが今の俺のランクだ。というか、俺は俺の数式を阻害する非論理的な奴と喋りに来たんじゃない。最適解となる依頼を受けに来たんだ」
フルが、膝から崩れ落ちる。
(なん……だと? A-? それってつまり、CからB-、B、B+をすっ飛ばして昇格したってことか?)
「さてはお前あれだろ! あんのスライムの素材を、賄賂代わりに使ったんだろ!」
ギルドの床に手を付くフルは、立てずにそのままジルを見上げるしか出来なかった。
ジルは鞄から一冊の革表紙のノートを取り出した。
「"文系は理系に優位に立たれると立てなくなる"、と。現在2人中2人が同じ現象を起こしている……そういう生き物だからか」
呑気に言い残すと、ジルはそこから受付に両腕を置き、受付嬢と喋り始める。
(クソっ、クソ! あの時にあんな事さえ言わなければ、名声もカネも手柄も、全部俺様の物になったってのによ!)
フルは後悔に苛まれ、床を数回叩いた挙句、走ってどこかへ逃げていった。
「ま、待ってくださいよリーダー!」
「私らを忘れないでくださいよー!」
「さて、話の続きだが……いい依頼は無いか?」
ジルは振り向きもせず、受付嬢との会話を再開した。
「そうですね……でしたら、盗賊の討伐依頼なんていかがでしょう? A-ランクに正式に昇格するためには、これくらいの依頼を受けていただいた方がよろしいので」
「盗賊か……よし、それにしよう。場所はどこだ?」
ジルは、話が早く進んだからか、上機嫌に尻尾を左右に振っていた。
「えーっとですね……ここアードストール南冒険者ギルド支部より、少し北方にあるババリア山付近での目撃情報が相次いでいますね」
「分かった、ババリア山だな。行ってくる」
ジルは支部を発ち、北へ向かった。
「先生、出ても?」
鞄の中のアークが、ヒョコンと顔を覗かせる。
「いいと思うぞ」
ジルが快く承諾すると、アークは風のような速さで飛び出て、すぐさま人型になった。
(やっぱり似てるな。本人みたいだ)
アークの頭をそっと撫でると、髪質まで似てるような気がしてくる。
(スライムからよくここまで人間に寄せれるな)
ジルが調子に乗って彼女の頬をプニプニしていると、「そろそろ来ますよ」と照れ隠しなのかアークが冷たく言い放った。
茂みがカサカサと揺れ、複数の男が出てきた。
「ヒャッホーっ!」
「金はあまり持っていなさそうな冒険者だがあ、獣人だあ! 毛皮と爪が飛ぶように売れるぜ!」
「やっちまおうぜ、やっちまおうぜ!」
突然現れた6人の盗賊に、ジルは一歩後ずさった。
(背後にまで回られているのか……)
「安心してくれよ、命までは取らないでやるからさぁ…多分」
「関係ないな。何も取らせやしないぞ。時間と手間すら、な」




