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進め!魔法学園  作者: 木こる
2年目
85/150

11月前半

訓練棟の自室にて、俺はベッドで2人の後輩女子を抱いていた。

とはいえ決して性的な意味ではない。

文字通り、ただ抱きかかえているだけだ。

それは第三者から見れば両手に花の状態なのだろうが、

今の俺にはそんなのどうでもよかった。

ふざける気分にはなれない。


この数ヶ月、『楽しい』と『悲しい』の落差が激しすぎる。

実際に悲劇に巻き込まれた者たちと比べればなんともないが、

それでも俺だって心が疲れているのは確かだ。


一般の会社員ならば有給休暇を取れるのだろうが、

冒険者という職業にそんなものは認められない。

24時間365日が俺たちの営業時間だ。

俺はその過酷な労働環境を知った上でこの道に進むと決めたのだ。

今更『休みたい』などと甘えるわけにはいかない。


「休みたい……」


俺は弱い人間だ。

今は誰かに甘えたい。



時刻は午前2時をとうに回っている。

平常時であれば眠っているはずの時間だ。

彼女たちも日々の訓練で疲れているだろうに、

最近元気の無い俺を励まそうと部屋で待機してくれていた。


「先輩……よしよし」


アリアが頭を撫でてくれる。

ああ、なるほど……これをされると、こういう気分になるのか。


するとのぞみが素早くアリアの手を払い落とす。

アリアは再び俺の頭に手を伸ばすが、やはり払い落とされる。

その動作はまるで猫じゃらしに反応する仔猫のようで可愛い。


「アキラ先輩……

 最近、アリアと何かありました?」


のぞみから際どい質問が飛んでくる。


結論から言えば、何も無い。

だが、その“何も無い”が俺を悶々とさせているのは事実だ。

あの時、緊急召集のアラームに邪魔されなければ、

俺は確実にアリアに手を出していた。

のぞみという本命の相手がいるにも関わらず、だ。


俺は「何も無かった」と正直に答えたが、

それに対してのぞみは反応しない。

彼女の顔を覗き込むとスヤスヤと熟睡しており、

相当無理して起きていたのだろうと推測できる。


「俺たちも寝よう」


「ええ、おやすみなさい」


その後、俺は夢精した。






学習の時間にて、医者が冒険者を嫌っている理由が判明した。


「事の発端は、不破夏男氏が回復魔法の実用化を成功させたことにある

 不破氏はこの技術を『装備品のバリア機能を修復させるための魔法』

 だと最初から正確な情報を世間に向けて発表していたんだが、

 平輪党の息がかかったマスコミの連中は真実を捻じ曲げて報道した

 その結果生まれたのが『冒険者は医者要らず』という標語だ

 当時の医師会はこのデタラメを真に受けて強い怒りを抱き、

 それ以降、冒険者への医療行為を拒否するようになった」


なんてくだらない理由。

当時の平輪党は政権奪取のためにイメージアップを図り、

あたかも世の中の悪を罰する正義の使者を演じようとしたのだ。

標的は誰でもよかった。それがたまたま冒険者だったというだけだ。


『冒険者は医者要らず』だけに留まらず、

『冒険者は税金を二重取りしている』だの、

『冒険者は殺戮を楽しむ精神異常者』だの、

根拠の無いデタラメばかりが拡散されてゆき、

中にはそれを真実だと思い込んでしまう層も現れた。


信じ難いことに、今ほどインターネットが普及していなかった当時は

『テレビが言ってるんだから真実に違いない』

と本気で思っている人が大勢いたらしい。

それは現代にも通ずるものがある。

『インターネットは真実だ』などと盲信するべきではない。


それはさておき、結果的に平輪党は念願の政権交代を果たし、

たった数ヶ月で日本経済をボロボロに貶めたのである。


国賊。


それ以外の言葉が見当たらない。




──先日、2名の退学者が出たので2年生の総数は12人となった。

今年度は15人もの進級者が輩出されたというのに、この体たらく。

ある者は『大豊作の年だった』と褒め称えてくれた。

だのに、既に5分の1の人数が削られてしまった。


どうかこの先、退学者が出るのならば玉置沙織だけにしてほしい。

あの精神異常者は百害あって一利なしの存在なのだ。

彼女は野村を撃った翌日に平然と教室に姿を現し、

授業中にくだらない動画を鑑賞してゲラゲラと笑っていた。


あれはもう人間ではない。


魔物だ。




──俺たちは新宿に移動した。

2年生は午後4時から訓練の時間となっているが、実戦に勝る訓練は無い。

安全を保証された環境で思う存分体を鍛えるのも結構だが、

こうやって不確定要素の混在する状況に身を投じるのも大事である。


俺たちは今、敵を殲滅するフェーズに突入していた。

自衛隊の方々が到着してからは生存者の避難を彼らに任せ、

そのおかげで魔物の討伐だけに集中できるようになった。


のだが……。


「うおらぁ!!」

「死にさらせコラァ!!」

「ナメてんじゃねえぞ!!」

「この豚どもがっ!!」


新宿ダンジョン前の広場には魔物と戦っている冒険者だけでなく、

どういうわけか人間同士で争っている者たちの姿もあったのだ。

しかも彼らは揃いも揃って目つきの悪い連中であり、

髪を派手な色に染めていたり、剃り込みを入れていたりと、

いわゆる不良集団に属する人間であると見受けられる。


今は大変な時だというのに、彼らは一体何を考えているのだろうか。

俺はとりあえず近くで喧嘩している2人に声を掛けてみた。


「突然お邪魔してすみません

 あなた方は、なぜ人間同士で殴り合っているのですか?」


「ァアン!?

 なんだてめえはよお!!」

「外野はすっこんでな!!

 邪魔したらぶっ飛ばすぞ!!」


「外野ではありません

 俺は関東魔法学園から派遣された冒険者の甲斐と申します

 この場にいるということは、あなた方も冒険者なんでしょう?

 倒すべきは魔物であり、人間同士で争う理由がわかりません」


「そりゃ俺らだって魔物を倒そうとしてたけど……

 “渋谷堕悪天使軍(ダークエンジェルズ)”の連中が乗り込んできやがってよお!!

 このドサクサに紛れて新宿の覇権を乗っ取ろうとしてんだよ!!」

「新宿は俺たち“新宿黒十字軍(ブラッククルセイダー)”の縄張り(シマ)だってのによお!!

 あいつら、やることが汚ねえったらありゃしねえよ!!」


……?


「え、あの

 あなた方はつまり、その……新宿の方々なんですよね?」


「そうに決まってんだろ!?」

「渋谷の連中と一緒にされてたまるか!!」


「どうして味方同士で殴り合っているんですか?」


「ァアン!?」

「味方同士だと!?」


彼らはお互いの背中を見て気づく。


「「 あっ 」」


白い特攻服に黒い十字。

間違いない。彼らは新宿黒十字軍のメンバーだった。

渋谷堕悪天使軍の特攻服には黒い羽根が描かれているらしく、

どちらの陣営の衣装も白いので、正面からでは判断しづらい。


ヒューマンエラー。

彼らは避けようの無いうっかりミスを犯してしまったのだ。


「この様子だと、他にも同士討ちしている人たちがいそうですね

 一旦責任者に報告して、喧嘩を中止させるべきでは?

 このままでは貴重な戦力が無駄に減っていく一方ですよ」


「じゃあそうすっか……」

「でも止まるかな、これ……」




俺はなぜか新宿黒十字軍の総長の元に案内されてしまった。

彼はやけに前髪のボリュームがある髪型をしており、

赤いサングラスを掛け、電子タバコをふかしていた。


なぜだ。


不良とは関わり合いたくない。

“悪い”をカッコいいと思ったことは一度も無い。

この件は、そういう文化が好きな者同士で解決してほしかった。


「なっ……同士討ちだとぉ!?

 オメーら何考えてんだこのウスノロがっ!!

 敵と味方の区別もつかねえのかよ!?」


「で、でもタケル君!

 エンジェルズの特攻服(とっぷく)も白くて……

 それに、俺らは出入りの激しいチームだし、

 総長以外の顔なんて全部覚えちゃいないんです!」


総長の名前はタケルというらしい。

この、目上の人間に対して君付けで呼ぶ文化には首を傾げるばかりだ。


「まさか、この同士討ちも渋谷の連中の仕業ってことか!?

 卑怯な手ぇ使いやがって……クソがっ!!」


タケルさんは憤慨するが、それは的外れな指摘だ。

渋谷堕悪天使軍の陣営でも同士討ちをしていたのだから。

向こうも敵と味方の区別がついていない。

これは由々しき問題だ。


「とりあえず衣装の色を変更してみてはどうですか?

 それだけで視覚的にわかりやすくなると思いますよ」


「……いや、そいつはできねえ相談だな

 俺らのシンボルは“黒十字”だからな

 “黒”を最も際立たせる色は“白”なんだよ

 これは初代から脈々と受け継がれてきた伝統だ

 もし色を変更するとすれば、エンジェルズの方だろうがよ」


却下されてしまった。




あまり気は進まないのだが、俺は渋谷堕悪天使軍の陣営へと赴き、

そちらの総長とも対話を試みた。

彼はアフロヘアーに青いサングラスが特徴的な男性であった。


「なんだてめえ……

 俺たちに衣装の色を変更しろだと?

 まったく、冗談じゃねえ……

 黒い羽根ってのはなあ、堕天使の象徴みてえなもんなんだよ

 その“黒”を最も際立たせるのは“白”だと相場が決まっている……

 こいつは初代から脈々と受け継がれてきた伝統なんだよ

 もし変えるってんなら、そりゃクルセイダーの方だろうぜぇ?」




どちらの陣営も同じ意見だ。

どちらも白い特攻服に黒いシンボルを大事にしている。

ならば、それ以外の要素で差別化を図るしかない。


とりあえず両陣営を往復するのは時間の無駄なので、

総長たちを呼び出して意見を述べてみる。


「では、総長と同じ色のサングラスで統一してみるのはどうですか?

 新宿は赤、渋谷は青 ……これなら一目瞭然だと思います」


「いや、そいつはできねえ相談だな」

「グラス掛けていいのは総長の特権なんだよ」


なんだそのくだらない文化は。


「……でもまあ、うちの奴らに赤い鉢巻きは似合いそうだな」

「こっちも青い(たすき)は気合いが入るかもしんねえな……」


……お?


「んじゃあ、ひとまずその方向で進めるか?」

「ああ、現状ではそうするのが良さげだな」


意外にも、その色分けが両陣営の心を掴んだようだ。


ふざけるな。


話し合いが可能ならば、今までの殴り合いは一体なんだったんだ。

そして部下たちはまだ無益な戦いの最中だというのに、

リーダー同士はなんだか和気藹々と今後のプランを練っている。

これだから人間同士の争いは嫌なんだ。



ふと、閃いた。

このくだらない争いを終わらせる方法を。




──ボロ雑巾のようになった2名を公衆の面前に引きずり出す。

無論、両陣営の総長たちである。

彼らは暴力の世界に生きてきた人間だ。

これくらいなら痛めつけても構わないだろう。


「できればこんな手荒な真似はしたくなかったんだが……

 お前らの流儀では“一番強い奴に従う”のが正解なんだろう?

 だから俺は、誰が一番強いのかを示したまでだ

 それは新宿黒十字軍でもなく、渋谷堕悪天使軍でもなく、

 俺たち関東魔法学園だと証明させてもらった

 なので、今後は俺たちのやり方に従ってもらう

 文句のある奴はいつでもかかってこい

 この俺が力ずくでわからせてやる」


2枚のボロ雑巾をドサリと投げ捨てる。


不良たちは総長の悲惨な敗北姿を目の当たりにして、

ガクガクと全身を震わせて言葉を失った。


本当にこういうパフォーマンスはしたくないのだが、

彼らにはわかりやすい見せしめが必要だった。

もしかしたらもっといい方法があったのかもしれないが、

それを考える時間を誰が与えてくれたというのだろう。


今、最優先すべきは魔物の殲滅だ。


そんなに戦いを求めているのならば、魔物と戦え!






──時刻は午前1時半。

訓練棟の自室に戻ると、今日もまた後輩女子たちが出迎えてくれた。

今の俺にとって、この時間が何よりも楽しい。


「先輩、おかえりなさい!

 ご飯にしますか?

 お風呂にしますか?

 それとも……の・ぞ・み?」


「のぞみで」

「セクハラ禁止!!」


このやり取りだけでだいぶ気分が救われる。

だが、この生活をいつまでも続けるわけにはいかない。

ただでさえ一般の高校生よりもハードな生活を送っている彼女たちが、

こんな時間まで起きているのはあまりにも過酷すぎる。


「2人共……

 その、心から嬉しいんだが……無理しなくてもいいぞ?

 お前たちも訓練で疲れてるんだろう?

 上級生のスケジュールに合わせていたら体調を崩すぞ

 俺は、お前たちに健康でいてもらいたい

 だから……せめて、俺が帰ってきた時には眠っていてほしい

 俺は2人の寝顔を見られるだけでも幸せになれるんだ……」


その言葉を聞き、のぞみはプイッとそっぽを向いてしまった。

これは一体どういう反応なのか……表情が見えないと判断できない。


それをフォローするかのように、アリアが割り込んでくる。


「えっへへー♪

 それじゃ明日からはそうさせてもらいますね!

 先輩は心置きなく、私たちの寝顔で抜いてください!

 なんなら好きなとこにぶっかけちゃって構いませんよ!」


まったく……彼女の言動にはいつも困らせられる。


「ああ、是非そうさせてもらおう」

「セクハラ禁止!!」


その後、俺は夢精した。

基本情報

氏名:山口 将太 (やまぐち しょうた)

性別:男

年齢:17歳 (5月24日生まれ)

身長:185cm

体重:77kg

血液型:A型

アルカナ:太陽

属性:無

武器:ミッドナイトサン (斧槍)

防具:ドラゴンフォース (重鎧)


能力評価 (7段階)

P:7

S:7

T:7

F:7

C:7


登録魔法

・ディストーション

・マジックシールド

・バインド

・ライジングフォース

・エクリプス

・ヴェクサシオン

・ディーツァウバーフレーテ

・ヒール

・サンクチュアリ

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