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進め!魔法学園  作者: 木こる
2年目
84/150

別れ

「なあ、玉置

 俺、やっぱお前とは無理だわ」


「……はあっ!?」


タワーの一室にて、女たらしの一条が玉置に別れを告げる。

両者共に全裸……事後である。


「なんつうかよ……

 今まで抱いてきた女とは楽しくやってこれたんだけどよ、

 お前だけはなんか違うっつうか……不快な気分になるんだよな

 こんな経験は生まれて初めてだぜ……」


「え、えっ、いや、待って!?

 一条君の方から誘ってきたんだよね!?

 私はそれに応えてあげたんだよ!?

 それなのにこの仕打ち……酷すぎない!?」


玉置の言い分はごもっともだ。

たしかに彼女を誘惑したのは一条である。

だが彼にも、なんというか……プライドがあったのだ。


「お前さ……いつも自分のことしか考えてねーよな?」


「そんなのみんな同じでしょ!?」


……ああ、答えが出た。

玉置はやっぱり常に自分のことしか考えていない。

それがはっきりして、なんだか清々しくさえ思える。


ハーレム野郎の一条には男友達がいないが、

それでも女性に対しては最大限のリスペクトをして生きてきたつもりだ。


だが、この女は例外でいいだろう。






場面は変わり、野村は新宿での避難誘導に精を出していた。

爆破テロ発生から今日で5日目になり、

ようやく事態の深刻さを理解した会社員たちが

安息地を求めて次々とオフィスを後にする。


「では皆さん、僕たちの後についてきてください!

 途中で何度か魔物と遭遇するでしょうが、

 皆さんは決して手を出さないようにお願いします!」


「特にオレのそばには近づくんじゃねーぞ!

 力加減なんてできねーし、巻き込まれたら死ぬぞ!」


リリコが片手で両手剣を振り回して威嚇する。

会社員たちは思わず後ずさり、コクコクと頷いた。

その中から1人、七三分けの男性がそっと挙手して発言した。


「あ、あの……

 その剣、ちょっとだけ持たせてもらってもいいかな?

 せっかくの機会だし記念写真を撮りたいな〜っと」


その提案に、他の者たちも目を輝かせる。

彼らはもう立派な大人だが、何歳になっても心は少年のままなのだ。


だが野村は冷静に言い聞かせる。


「いえ、残念ですがそれはできません

 皆さんは冒険者免許を持たない一般市民なので、

 正当な事由無く武器を所持すると銃刀法違反になります

 記念写真なんて撮ったら、犯罪の証拠として残ってしまいますよ」


犯罪という単語を耳にし、彼らは思いとどまる。

法令遵守(コンプライアンス)。社会人として守るべきルール。それを逸脱してはならない。


「まあ、そう固いこと言うなよ野村

 撮影しなきゃOKじゃねえの?」


「いや、だめでしょ高音さん

 彼らが武器を持っていいのは、どうしても自衛するしかない状況だけだよ

 今は僕らが護衛してるんだし、僕ら自身も武器を手放すべきじゃない」


「ちぇ〜、レンタル料取り立てようと思ったんだけどな」


「もっとだめだよ」


屈強な男性が残念がる。


「俺もちょっと振り回してみたかったんだけどなあ

 そういや銃刀法違反だったな…………はあ……」


「デカ長さんまで!?」




その後、ゴブリンとオークの組み合わせに遭遇。


会社員たちは初めて生の魔物を間近で見て緊張するが、

よく見ればゴブリンは小学生くらいの大きさであり、

なんか頑張れば倒せそうな気がする。

まあ実際そこいらの中学生でも処理できるが、

運動不足の中年男性たちにオークは倒せない。

ここはやはり、おとなしくプロの戦いを見守ろう。


ザン!ザン!ザン!


野村の剣が軽やかに舞い、ゴブリンたちの首を刎ね飛ばす。

サンダーストームでまとめて処理もできたが、

今回流出した魔物は物理攻撃だけで倒せる相手ばかりなので

基本的にMPは節約する方針だ。


ドッシャアァァ!!


リリコはいつも通り力任せに両手剣を振るい、

分断されたオークの上半身が空中で独楽(こま)のように回転し、

周囲に赤い液体を撒き散らしながら吹き飛んでいった。

彼女の場合、壁や天井を気にせずに思い切り武器を振り回せる屋外の方が

充分に力を発揮できるようだ。まあ、近接戦闘に限った話ではあるが。


それにしてもあんな女の子が巨大な剣を振り回し、

巨大な魔物を一撃の下に始末するなんて……。

その大迫力の戦闘シーンを目撃し、会社員は思わず


「オゥエェェ!!

 ウッ……オエェェッ!!」


嘔吐した。


あの赤い液体が本物の血ではないにしろ、

傍目から見ればそうとしか思えない。

スプラッター映画だってそういう物だ。

たとえ偽物だろうが、気持ち悪いものは気持ち悪い。




そしてお次はオーク2匹とキラーウルフ3匹と遭遇。

不器用なリリコにウルフの相手は少しきついので、

そちらは野村が担当することになる。


と、ここでアクシデント発生。


「あっ! 君たち!

 後ろからも来てるよ!」


場所はトンネルの途中であり、挟み撃ちの状態になってしまった。

追加の敵はオークが1匹。それだけなら脅威ではないのだが、

問題は前方の敵がもう眼前まで迫ってきていることだ。

エクリプスでエンカウント率を下げているというのに、

それでも魔物たちは高音凛々子を魅力的な餌だと認識するらしい。


「ここは僕が引き受けるから、高音さんは後ろを!」


野村は両手で盾を構える。

リリコが合流するまで防御に徹して凌ぐ作戦だ。

それでも5匹相手だと無傷ではいられないだろうが、

現状ではこれがベストな立ち回りだ。


しかし、作戦失敗。


「うおりゃあああ!!」


「ええっ!?」

「デカ長!?」


屈強な肉体を持つデカ長が、自分よりもデカい相手へと向かってゆく。

そして彼はオークの前に立ちはだかると、叫んだ。


「かかってこい!!」


リリコは突然の出来事に困惑し、後ろへ移動するタイミングを見失った。

こうなればもう一刻も早く目の前の敵を片付けて、

それからデカ長の救援に向かうしかない。


……が。


「せいやあぁぁっ!!」


デカ長はオークがパンチをするタイミングに合わせて相手の懐に潜り込み、

その太い腕をがっしりと掴み、華麗なる背負い投げを決めたのだ。


ドカアァッ!!


アスファルトに叩きつけられたオークに対し、

容赦の無いエルボードロップの追撃が入る。

そして執拗な踏みつけ(ストンピング)で起き上がることを許さない。


デカ長は、魔物に関節技を極めても意味が無いと理解していた。

こいつらには痛覚も呼吸器官も存在しない。

なので現状で可能なダメージを与える手段……打撃を加えているのである。




結局、前方の戦闘が終わるのと同じ頃に後ろも片付いた。

相手が1匹だけだったとはいえ、一般市民側の人間であるデカ長は単独で、

しかも武器を使わずに魔物を倒してしまった。

これでは冒険者の立つ瀬がない。


「おいおい、勝手にオレたちの仕事を奪うなよ〜

 そういうことされると、こっちのリズムが崩れるっつーかさ……」


「ははは、すまんすまん

 つい体が動いちまってな

 まあ大目に見てくれよ

 昔のお前もそういうとこあっただろ?」


「少年課の刑事が不良少女の真似してどうすんだよ

 ……つか、どうせなら拳銃ぶっ放せばよかったんじゃねえの?

 こんな時こそバンバン撃ちまくるべきだろ」


「いやあ、発砲すると報告書書かされるからなあ

 結構面倒臭いし、本当に必要に迫られた時以外は撃たないようにしてる

 それに魔物相手に撃った場合、色々とうるさい連中が絡んでくるんだ」


「うるさい連中……魔人会か?」


「それもあるが、警察の上層部にそっち側の人間が紛れていてな

 あまり冒険者に肩入れしすぎると目を付けられちまう

 俺はこの仕事を続けたいから、おとなしくするしかない」


「もう思い切り肩入れしてるように見えるけどな

 さっきだって魔物しばき倒してたじゃねーか」


「あれは一般市民の方々を守るためにやむを得ず、だ

 『お前たちは大量の魔物に囲まれていて、手が離せなかった』

 ……そういうことにしといてくれ」


「へいへい」




日付が変わったので、任務を3年生へと引き継ぐ。

このエリアの担当は佐々木先輩だ。

安定した強さを持っているし、とても常識人なので安心して帰れる。

今日は60人の生存者を安全圏へと脱出させることができた。

明日以降、この人数はどんどん増えていくだろう。


野村は車の座席に着くと、ふうっと一息吐き出す。

続いてセンリやヒロシなどの男子メンバーがぞろぞろと乗車し、

本日の戦果を報告し合って盛り上がる。

こんな風に仲間同士が笑顔で語らうような光景は、

前回の緊急事態の際には見られなかった。


今回の“新宿爆破テロ”はティルナノーグ火災よりも被害規模が大きいが、

対象となるエリアが広いおかげで魔物が密集しておらず、

現地の冒険者のレベルが高いこともあって余裕があるのだ。


不意に、野村は後ろからトントンと肩を叩かれる。



振り返ると、そこには……一条刹那。

つい最近野村から恋人を奪い取った男であり、

今一番関わるべきではない男でもあった。



「なあ、俺さ……

 玉置と別れたぞ」


その言葉に、車内には気まずい沈黙が訪れる。


「野村、その……悪かったな」


そして意外にも彼は謝罪したのだ。


これは……別れた理由を聞き出すべきなのだろうか。

いや、それは大体察することができる。

玉置沙織がクソ女すぎた。そういうことだろう。


その後、男子一同は無言のまま学園に帰還した。




そして彼らは再び気まずい展開に立ち会う。

彼らの生活拠点であるタワーの前に、玉置が待ち構えていたのだ。


彼女から開口一番、

「ねえ、私たち……()りを戻そう?」

という言葉が飛び出してきたので、

無関係の男子たちはその場に一条を残して足早にタワーへと向かった。


「待って!!

 行かないで!!

 私を見捨てないで…………ノム君!!」


「え、僕ぅ!?」


なんと、彼女は自ら裏切った相手……野村に対して復縁を求めていたのだ。


これはますます関わりたくない。

無関係な男子たちは速やかに自室へと戻っていった。



「え、いやいや……

 見捨てるも何も、君が僕を捨てたんじゃないか

 ほら、僕は優しいだけで男らしくないとか言ってさ……」


「あの時の私はどうかしてたの!!

 あんな状況で俺様系の男子からアプローチされたら、

 女の子だったら誰でもコロッと落ちちゃうよ!!」


「いやいやいや……

 あんな状況って言うけど、すごく恵まれた環境だったよね?

 熱いシャワー以外はほぼ全部が揃ってたし……

 それに他の女子はみんな彼からの誘いを断ってたよ?」


「他の女の話なんてどうでもいいよ!!

 私は私なの!! 私だけを見てよ!!

 ノム君は私と一緒にいて楽しかったでしょ!?

 だったらこれからもう一度、楽しい時間を一緒に過ごそうよ!!」



「そんなこと言われても……

 君はいつだって“ひとり”だったじゃないか」



「……は?」



「いや、だってほら……

 思い返してみれば君との会話はいつも君が主役で、

 僕が何を言っても『私は、私は』って感じだったじゃない

 つき合ってる間はそれを我慢しなきゃと思ってたけど、

 別れたおかげで、なんかこう……自由になれたんだ

 君と一緒に過ごして、“ふたり”を感じたことは一度も無かったよ」



「…………はあ?」




実のところ、野村は義務感だけで玉置と交際していた。


きっかけは去年の9月、玉置に課せられていたノルマだ。

“個人戦を3回こなす”。

それは他の生徒にも課せられており、さほど難しい内容ではない。

なにせ、期間内にたった3回戦えばいいだけなのだから。

他の生徒たちはほぼ全員、もうとっくに達成している。


だが玉置はこの課題をギリギリまで放置し、

手遅れ寸前の段階まで引っ張っていた。


2戦1勝1敗。


その勝敗に関わらず、あと1回戦わないといけない。

そんな状況なのに、誰も自分と対戦してくれない。


このままでは退学になってしまう。

中卒なんて恥ずかしい。

私は社会の底辺みたいな生き方はしたくない。


そんな玉置の傲慢さが悲劇を招いた。


彼女が目を付けたのは、“優しそうな男子”。

とにかく退学を回避するために他のクラスに足を運び、

笑顔が多く、同情を誘えそうな相手を探し回ったのだ。


その結果、選ばれたのが彼──野村だ。


玉置は自身の置かれた窮状を必死に訴えかけ、

体を好きにしていいという条件で対人戦を申し込んだのだ。


そして野村は提案を呑み、交際が始まったのである。




パアァァンッ!!



玉置の手には回転式拳銃(リボルバー)

その凶弾を腹部に受けた野村はその場にうずくまり、

悲痛な呻き声を上げることしかできなかった。



銃声を聞いて真っ先に駆けつけた一条が玉置を取り押さえる。

センリは玉置の魔力を奪い取り、2発目を撃てないようにする。

他の者は野村の止血に尽力し、速やかに医務室へと搬送した。



仲間たちの迅速な対応により、野村は一命を取り留めた。




……後日、玉置は学園長の一存でお咎め無しとなり、

絶望した野村は関東魔法学園を自主退学したのだ。

それに釣られるかのように一条までもが学園を去り、

この短期間で2名もの退学者が出てしまった。

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