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進め!魔法学園  作者: 木こる
2年目
83/150

山口将太

関東魔法学園の学園長は政界への進出を目指していた。


彼は向上心の塊であった。

今でも充分贅沢な暮らしをしているが、

もっと上の存在になりたいと思ったのである。


国民を操り、彼らの血税をジャブジャブ使い込みたい。

その純粋な願いを叶えようと努力していたのだ。




学園長は政治家とコネを作るべく

手当たり次第に政治資金パーティーに参加し、

各方面に多額の寄付をすることで徐々に人脈を築き上げていった。


その中で出会ったのが山口議員。

山口将太の父親である。


彼は最初、息子が魔法能力者だという事実を受け入れたくなかったが、

息子本人の『人々の力になりたい』という強い意志に根負けし、

どうせなら最高の環境で学ばせてやりたいと考え直した。


そこで学園長は山口議員の願いを聞き届け、

最高の環境である関東魔法学園に迎えることを約束したのだ。


ここまでは何も問題は無かった。




それは去年の3月の出来事であった。

春休み中、部屋でパターゴルフをしていた学園長の元に1本の電話が入る。


『おい、これは一体どういうことだ!?

 なぜうちの息子が関東魔法学園なんかに通うことになってるんだ!?』


「え、えっ……?

 山口先生、どうしてお怒りになっているのでしょう……?」


電話越しにも伝わる激怒。

何かまずいことをしてしまったのだろうか。

だが、そんな心当たりは無い。

冷や汗が止まらない。


『私は“最高の環境”という条件で、貴様に息子の入学先を任せたんだ!!

 それなのに……よりによって関東だと!?

 ふざけているのか貴様!! 埼玉じゃないか!!

 日本の首都がどこだか言ってみろ!!』


「え、あの、それは…………東京です」


『だったら東京に入れろ!!

 東京魔法学園以外あり得ないだろうが!!

 なぜそんな簡単なことがわからない!?

 貴様はそれでも学園長か!!』


「あ、いえ、でもですね……」


『言い訳なんぞ聞きたくないわ!!

 いいか!?

 私の息子は絶対に東京に入学させろ!!

 それができなければ、貴様が政治家になる未来は無いと思え!!

 各方面に根回しして確実に潰してやるからな!!』


ガチャン!

ツー、ツー、ツー……。


学園長は頭を抱えた。


入学式を来週に控えた今になって息子の入学先を知るとか、

山口議員はこれまで一度も確認してこなかったのだろうか。

それに“東京”というブランドを過信している。

あの学園は余り者のために用意された場所でしかないというのに。


しかも東京魔法学園は千葉にある。


だが、愚痴を言ったところで事態は好転しない。

夢の税金生活を実現するには行動あるのみだ。




山口を東京に送り込むとして、関東の定員100名の枠は動かせない。

代わりの生徒を他の学園から取り寄せるにしても、

この時期に突然の入学先変更を承諾する者がいるだろうか。

それと理事会を納得させる言い訳も考えておかねばならない。

問題は山積みだ。


そんな時だった。

主任訓練官の内藤が朗報をもたらしてくれたのだ。


「今日の昼、学園の近辺をうろつく不審者がおりまして、

 そいつはこの時期になって『入学したい』などとほざいていましたが、

 無事に追い払っておきましたのでご安心ください」


「入学したい、だと……?

 そいつの個人情報は調査したのか?」


「ええ、氏名は谷口吉平

 住所は千代田区で電話番号は──」




そして……学園長は山口を東京に飛ばし、

谷口を関東で受け入れるという決定を下したのだ。


「誠に恥ずかしい話なのですが、

 私は今までこの2人の生徒の情報を反対に読み取っていたんですね

 本当は山口君が東京、谷口君が関東に入学するはずだったのに、

 それをあべこべに捉えていたわけですよ、はい

 ……ほら、『山口』と『谷口』って似てるじゃないですか」


理事会の面々はその呆れた言い訳に口が塞がらなかった。

山口と谷口……あまりにも苦しい。

だが、誰もその愚かな嘘を指摘しようとは思わなかった。

彼らは皆、買収されていたのだ。


世の中には権力を持たせてはいけない人種がいる。


クズだ。






──それから時は過ぎ、山口将太は東京魔法学園最強の生徒となり、

関東魔法学園の生徒との接触を果たしたのだ。

彼は今でも入学直前に転校させられた理由を知らないままだが、

そのことは特に気にしていない。


結局、強くなれるかどうかは環境だけが要因ではない。

本人に強くなろうとする意志があるかどうかが非常に大きく、

更に言えば、成長の才能の有無も関係してくる。

そればっかりは実際に鍛えてみないとわからない。


そして彼にはその才能があり、結果を出し続けてきたのだ。


「もしかして僕は出過ぎた真似をしただろうか?

 君たちの獲物を横取りしてしまったのなら、申し訳ない」


オールバックの大和男児による45度の礼。

なんだか謝罪会見に立ち会っているような気分になる。


「あ、いや気にすんなって!

 おれらの労力が削減できて感謝してるって!

 ……しっかしお前、いい武器持ってんじゃねえか

 関東(うち)じゃハルバード使ってる奴なんて1人もいないぜ?」


「ああ、これか……

 東京でも僕しか使ってないな

 色々な使い道がある武器だけれど、

 それを使いこなせるかどうかは別の話だからね」


これはどんな物に対しても言えることだが、

機能は増やせば増やすほどいいというものではない。

そのぶんだけ複雑になり、理解が困難になってしまう。

シンプルイズベストとはよく言ったものだ。




「ところで君はさっき『進道』と名乗ったよね?

 そしてあちらの彼女が持っている大盾は“クロスロード”……

 ということは、まさか君は……和光(わこう)愛理(あいり)さんの…………」


その名前を聞き、センリは少し嬉しくなる。

親世代の人間がそれを口にするならともかく、

同年代から指摘されるとは思っていなかったのだ。


「ああ、お前の想像通りだぜ

 おれの母親は伝説の冒険者、和光愛理で間違いねえ

 現役時代は熱狂的なファンが大勢いたらしいな?

 CDまでリリースしやがって……まるでアイドルじゃねえか

 まあ、おれを産んですぐ死んじまったから思い出とか全然ねえんだけどよ」


センリにとって母親は全く見覚えの無い人なのだが、

とりあえずは有名冒険者らしいので一応は尊敬の対象ではある。

かつて北日本魔法学園に革命をもたらした“3人の戦姫”のうちの1人であり、

“盾の戦姫”として絶大な人気を博していた美少女だったらしい。


何がその3人を伝説に押し上げたのかというと、

役割分担(ロールプレイング)の徹底”を世に広めたことが大きい。

防御役(タンク)支援役(サポート)攻撃役(アタッカー)

今では当たり前になっているこのパーティープレイの基本構造を

ゴリ押し全盛期の当時に提唱し、普及させることに成功したのだ。




「ああ、でも……

 おれの母親より、こいつの父親の方がもっとすげーぞ?」


そう言い、センリはましろを指差す。

ましろは満更でもない笑みを浮かべ、リアクションを待つ。


山口将太は顎に指を当てて少し考える。

伝説のアイドル冒険者よりもすごい人物……すぐには思いつかない。

まさかあの人…………いや、それはさすがに……。


考え込む将太に対し、少しだけヒントを与える。


「ヒントは“黒岩”だ」


だがそれはもう、答えを言ったも同然だ。



「えええええっ!?

 まさか、あの……黒岩大地さんの娘さんっ!?」



正解を当てられ、センリとましろは自慢げになる。


黒岩大地氏は日本では無名の英雄であるが、

どうやらこの山口将太は知っていたようだ。

強さと礼儀だけではない、知識も兼ね備えている。

大した男だ。




「そして最後に……こいつは並木美奈だ」


「ん……?

 ナミキ…………?

 えっと、ナミキミナ……」


将太は頭をフル回転させてみるも、その名前には何もピンと来ない。


当然だ。

彼女は何者でもなく、完全に凡人の家の生まれなのだから。


「私はオチ担当かいっ!!」


センリは思い切り尻を引っ(ぱた)かれた。




その後4人は意気投合し、連絡先を交換して気分良く帰宅した。

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