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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
48/150

2月上旬

「なあ、あーくんが協会から受けた嫌がらせって、

 装備制限とAV送られてきただけなのか?

 なんか全然大したことねー奴らだな」


「AV?

 俺にはなんのことだかさっぱりわからないな」


「とぼけんじゃねえよ

 こないだ学校辞めた二宮から聞いたぞ?

 男子どもにばら撒いたらしいじゃねーか」


二宮……たしか一条のハーレム要員だったな。

くそ、そこから話が漏れたのか……。


「……協会からは毎月何かしら送られてきたぞ

 ただまあ、本当に大したことない物ばかりだ

 箱一杯に詰められた納豆とか、日本人形とか、

 女性用の下着や電動マッサージ器とかな……」


納豆は和食派の男子をはじめ、学園職員さんたちも喜んでいた。

あれは女子にも伝えておくべきだったなと少し後悔している。


「え、マッサージ器ってどんなのよ?

 それってもしかしてまだ余ってるか?

 オレ胸でっけえから肩凝ってよー

 下着も処分してないなら見せてくれよ

 そろそろ新しいの買おうと思ってたんだよな」


リリコの提案は正直助かる。

それらのアイテムはどう処分するか悩み、保留していたのだ。


「マッサージ器はなんだか変な形をしていて、

 全然効果が無さそうなやつだぞ

 なんかこう、カプセル状の本体にコードが繋がっていてな……

 先生から教わるまで、それがマッサージ器だとは思わなかった」


「ああ、そういうアレか……

 とりあえずそれも見せてくれ」



俺は倉庫室に保管していた下着やマッサージ器、

それと日本人形の詰まった箱をリリコに託した。

どうやら他の女子にも事情を説明して配ってくれるらしい。

非常に助かる。


「ところであーくんはどんなお宝を確保したんだ?

 やっぱロリ系か? それ以外にねえよな?」


「いや、俺は1本も持っていかなかった」


「嘘つけぇ〜

 あーくんだって男だろぉ〜?

 教えろよぉ〜 誰にも言わねーからさぁ〜」


こいつは口が軽いので信用ならない。

それ以前に俺は嘘をついていない。

本当に1本もお宝を持っていかなかった。


「俺は歳上の女性が苦手なんだ……

 あの村は閉鎖的な環境だから若い男が少なく、

 一回りも二回りも歳の離れた女たちが俺を狙っていた……

 特に俺はよそ者の息子だからな

 彼女たちは本能的にその遺伝子を求めているように見えた」


「歳上の女性……

 ああそうか、出演してる女優は全員18歳以上か

 ロリコンのあーくんにとっちゃ対象外だもんな」




後日、リリコから報告があった。


「人形以外は全部処分できたぞ」


「おお、それはありがたい

 マッサージ器は余ると思ったんだが……とにかく助かった」


むしろ人形が不人気なのが意外だ。

女子はそういう物が好きだと思っていたが、

どうやらそうでもないらしい。


「処分できたのは1体だけか……

 仕方ない、残りは全部焼却炉行きだな」


「えっ!?

 いや待て待て!!

 そんなことしたら呪われたりしねえ!?」


「呪い……?

 リリコ、そんなものを信じているのか?

 まあ人が何を信じるのかは自由だが……」


日常的に奇妙な魔物と戦う生活をしているというのに、

リリコがそういう迷信を怖がるのは意外だ。


「ちょっとオレにいい考えがあるから任せてくんねーか?」


「ん、まあ構わないが……」



そして1時間後、俺は空き教室に呼び出された。


「リリコ、これは一体……?」


そこには奇妙な光景が広がっていた。

整然と並べられた机の上には例の日本人形が置かれ、

その全てがまるで授業中であるかのように黒板を注目している。

だが窓際の一番後ろの席だけは人形が置かれておらず、

椅子が引かれている状態で放置されていた。


「な? 不気味だろ?」


意味がわからない。


「これをどうしろと……?」


「いや、どうもしねーよ?

 この光景を見た奴らはビビるだろうな〜♪」


いたずら目的か……。

まあ、リリコの好きにやらせよう。

これも一種の人形遊びだ。微笑ましい。






本日は前回とは違うメンバーで第4層までやってきた。

リリコと早苗のペアは来週に決勝戦が控えているので

対戦相手であるヒロシやユキとは敢えて距離を置き、

しばらく同じパーティーでは活動していない。


「オラオラオラオラァ!!」


リリコはゴーレムの胸にノミを当て、ツチで叩きまくっている。

ゴーレムの右腕はあらかじめ破壊済みであり、

唯一の攻撃手段を失ったそれは、もはやただの岩の塊でしかない。

仲間たちには今、正攻法で敵の外殻を剥がす経験をさせている。


「くっそ〜!

 手ぇ痛くなってきた!

 あーくん代わってくれよ!」


「だめだよリリコちゃん

 アキラ君に頼ってばかりじゃ私たちが成長できないでしょ」


「ところで森川

 そろそろお前がなんの格闘技やってんのか教えてくれよ

 結局おれとは戦えずじまいになっちまったからな

 もうネタバレしてくれてもいいんじゃねえか?

 あのローキックを見るからに、やっぱ立ち技だよな?」


「あの、えっと、それは……」


「おい早苗ぇ

 こいつは相手チームのスパイかもしれんぞ

 絶対に答えちゃだめだぞ」


「そう……なのかな?」


「んがあああ!!

 余計なこと吹き込んでんじゃねえ!

 おれはただ趣味の合う奴と語らいたいだけなんだよ!」


「うーん、そこまで言うなら……

 教えてもいい……かなぁ

 でも、絶対に内緒だからね

 もし誰かに言いふらしたら──」


「──解体して海に捨てるぞ」


「そこまではしないよ!?」



3人がどんな話題で盛り上がっているのかはわからないが、

とりあえず作業は順調のようだ。


「甲斐君、お餅焼けたよ〜」


「ああ、ありがとう松本さん」


敏腕サポーターの彼女がついてきてくれて心強い。

こちらから誘ったのではなく、向こうからの参加希望だった。

第4層での活動経験を積んで流れを掴むついでに、

新しく買ったカセットコンロの性能を試したいとのことだ。


「あ、そうだ

 報告がまだだった

 実は先週、私も冒険者免許取ったんだ」


「おお、それはおめでとう!

 頼もしい同業者が増えて何よりだ

 改めてよろしく、松本さん」


「うん、こちらこそよろしくね

 でもそんな、頼もしいだなんて……

 入学前よりは確実に成長できたとは思うけど、

 私1人じゃまだコボルトに苦戦するくらい弱いし……」


実地試験で倒したゴブリンはコボルトと同程度の強さのはず。

もしかすると彼女1人だけではなかったのかもしれない。


「君の他にも受験者がいたのか?

 うちの生徒で……」


少し不安になる。

彼女は優秀だから安心できるが、もし補習組の面々だとしたら……。


「あ、うん それがね

 同じ日にたまたま十坂君も免許取りに来ててね、

 どうせだし一緒にパーティー組もうって流れになったんだよ

 十坂君がいなかったら実地試験で落ちてたかもしれない

 だから偶然に助けられたって感じなんだよね……」


果たして偶然だろうか?


まあなんにせよ、松本さんがプロ入りしたのは大きい。

本人は自身の戦闘能力の低さを嘆いているが、

彼女の強みはそれ以外の部分にある。

彼女ならばどんな現場でもやっていけるはずだ。


……あとで松本精肉店に行ってみるか。

気前の良い店員さんがサービスしてくれるかもしれない。




ゴーレムを処理後、俺たちはとある通路の前までやってきた。

それは北の広間へと繋がるショートカットルートなのだが、

前回の探索ではやむを得ない事情で利用することができなかった。


俺は単独で先行して通路の先の様子を確認し、仲間の元へと戻った。


「広間に敵はいなかった

 今なら安全に辿り着けるだろう」


そして今度は早苗が先頭となって通路に入ってゆき、

センリ、リリコ、松本さん、俺という並びで後に続いた。


のだが……


「お〜い、森川ー!

 戻ってこーい!」


センリの呼び掛けで先頭の早苗が歩みを止め、

急いで俺たちの元へと引き返した。


「えっと……どうかしたの?

 何も起きてないように見えるけど……」


怪訝な表情でそう尋ねられるが、どう答えればいいのか悩む。

そんな俺たちの態度を見て早苗は首を傾げるしかない。



沈黙を破ったのはリリコだった。



「ほら、この通路って幅が狭いだろ?」


「うん」


「で、横歩きで進まなきゃなんねえだろ?」


「うん」


「オレって巨乳だろ?」


「……うん」


「それで引っかかっちまったんだ」


「…………うん」


「松本も無理だろうな」


「そうでしょうね」



…………。



再び気まずい沈黙が訪れる。



ちなみに前回はましろが引っかかっていた。




俺たちは東へ向かった。


「わあ、綺麗……!」


そう、花畑を見せるためだ。

入口にあったものはほとんど馬酔木(あせび)しか種類が無かったが、

ここには向日葵(ひまわり)鈴蘭(すずらん)椿(つばき)など、季節感を狂わせる花々が咲き乱れていた。


そして何よりも目を引くのは満開の桜だろう。

ここは関東魔法学園の生徒にのみ許された絶好のお花見スポットなのである。


「馬酔木同様、鈴蘭にも毒があるから注意してくれ

 だが向日葵の種は食える

 定期的に品質調査を行なって安全基準をクリアしているそうだ」


「ほぇ〜……

 北日本魔法学園にゃあ百合(ゆり)畑があるって聞いてたけど、

 うちには桜の木があったのか……こいつは自慢できるぜ」


「ん、誰に自慢するんだ?」


「ああ、従姉が北日本に通ってんだよ

 おれに魔法の使い方を仕込んだ師匠でもあるぜ」


「へえ、それはすごそうな人だな」


「すごいなんてもんじゃないぜ

 なんたって1年生の時点で序列1位まで駆け上がって、

 無敗のまま戦士長を続けてきたバケモンだからな」


序列……無敗……戦士長……

なんだかうちとは全然違うシステムで運営されているようだ。






本日の冒険活動を終えた俺は松本精肉店まで行き、

今晩のおかずを購入して学園に戻ってきた。

時刻は午後7時前。寮友たちはもう飯を食っているだろうか。


十坂に冒険者免許の話題を振ると、やはり今回もサービスしてくれた。

きんぴらごぼうが大盛りだ。なんと気前の良いことか。


そして寮へ向かう途中、校舎前でリリコと出くわす。

その手には例の日本人形がある。

いたずらの後片付けをしているのだろうか。


「リリコ

 お前もきんぴら食うか?」


「お、いいのか?

 んじゃこれ片付けたら男子寮行くわー」


そう言って彼女は校舎の中に入ろうとした。


「ん……

 その人形は教室から回収した物じゃないのか?」


「いや〜、違う違う

 これはましろにあげたやつなんだけどよー、

 『やっぱり怖いからいらない』って返品されちまってよー

 しょうがないからあの教室に置いてこようとしてるわけよ」


まだいたずらは続いているらしい。



スマホの明かりを頼りに、暗い廊下を歩く。

リリコはキョロキョロと周囲を警戒しながら俺の後に続く。


「しっかし……夜の学校って不気味だよなぁ

 ダンジョンの中なら明るいのに……」


こいつにもこんな一面があったのか……。

怖いもの知らずかと思っていたが、認識を改めよう。




そして俺たちは例の空き教室に到着した。

リリコは素早く窓際の一番後ろの席へと移動し、

机の上に人形を置いて椅子の位置を直してから廊下に出た。


「う〜〜〜!!

 こっえぇぇ〜〜〜!!

 あんな人形だらけの部屋、1分もいられねえよっ!!」


「自分で仕掛けたんだろう……

 でもまあ、とりあえず気は済んだか?

 明日になったらちゃんと回収しような」


「おう、明日な!!

 とにかくこんな場所はさっさと出ようぜ!!」


なんだか小さな子供の相手をしているようで微笑ましい。

村に住んでいた頃にこの一面を知ることができていれば、

彼女に対する印象がだいぶ変わっていたのだろうな。


「……ん?」


「な、なんだよあーくん……

 さっさと行こうぜ……?」


「ああ、いや……

 気のせいか?」


「だっ……だからなんだよ急に……!

 何が気のせいだっていうんだよ!?」


「いや、人形が増えたような気がしてな

 たぶん俺の記憶違いだから忘れてくれ」


「増え…………るわけねーじゃん!?

 あーくんも見てただろお!?

 今!! オレが!! 置いてきたの!!」



「いや、その席じゃなくて



 教壇だ



 しかも黒板ではなく俺たちを見ている」



「イヤアァァァァァッッッッ!!!」



リリコは暗い廊下の中を全力疾走し、

時々壁に衝突したような音を鳴らしながら校舎を後にした。



俺は教室に入って人形の数を数え直した。


(30、31……

 やはり増えているな……

 違う人形が混じっているのか……?

 ……いや、全部同じ物のようだ

 一体、誰がこんないたずらを仕掛けたんだ……?)


謎は深まるばかりだ。

基本情報

氏名:杉田 雪 (すぎた ゆき)

性別:女

サイズ:A

年齢:15歳 (2月14日生まれ)

身長:135cm

体重:27kg

血液型:A型

アルカナ:世界

属性:無

武器:なし

アクセサリー:ビニール傘


能力評価 (7段階)

P:2

S:3

T:3

F:7

C:8


登録魔法

・テレポート

・セブンスサイン

・バタフライエフェクト

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