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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
49/150

シンデレラ

東京都杉並区に、森川早苗という少女がおりました。

早苗の父は、意地悪でした。


「えっ、今日の夕飯カレーなの!?

 嘘だろ勘弁してくれよ〜!

 昼にカレーパン食ったんだけど!

 しかもなんだよこの野菜の切り方!

 大きさバラバラじゃんかよ〜!

 素人が切ったのかよ!

 専業主婦なら料理くらいちゃんと作れよ!」


「メール送ったんだけど、読んでないの?

 これ、早苗と一緒に作ったカレーなんだけど……

 素人が切ったのかって? うん、そうよ?

 5歳の娘がお父さんのために頑張って作ったカレーよ?

 でもお気に召さなかったみたいね

 あなたは無理して食べなくていいわ

 この世界一美味しいカレーは早苗と私の2人で食べるから、

 あなたは外で何か食べてくれば?」


早苗の父はしばらく黙った後、言いました。


「……そういうことは先に言えよ!!」




早苗が6歳の時です。

早苗の父は、言いました。


「昨日は係長の誕生日だったらしくてさ、

 奥さんと娘さんがこっそり手作りケーキを用意してくれたんだとさ

 うちもそういうの企画してくんないかなあ

 ほら、そろそろ俺の誕生日じゃん?

 もちろん早苗には何も知らなかったふりするからさあ」


「え、何を言ってるの?

 あなたはサプライズとか嫌いでしょ?

 去年、早苗が頑張って作ったカレーをこき下ろしてたじゃないの

 あの日以来、早苗はカレー嫌いになっちゃったのよ?

 子供が好きな食べ物の代表格なのにね」


「え、そんなことあったっけ?

 いや、俺はこき下ろした覚えなんて無いぞ?

 娘にカレーを作ってもらって喜ばない親がどこにいるんだ

 ……ってゆうか、好き嫌いは良くないだろー

 今のうちに直しておけよ?

 小さい頃からわがままを許してたら、ろくな大人にならないからな

 お前は母親なんだし、子供の躾くらいちゃんとやってくれよ」


「あなたにも好き嫌いがあるじゃない

 ナスとかカリフラワーとか納豆とか」


「俺はいいんだよ!!

 今は早苗の話をしてるんだ!!

 話を逸らそうとするなよ!!」




早苗が7歳の時です。

早苗の父は、言いました。


「え、急に何言い出すんだよ……

 パートやりたいとか、そうゆうのやめろよな

 それじゃまるで俺が妻子を養えない甲斐性無しみたいじゃん」


「いや、あなたこそ何を言ってるの?

 早苗を身籠った時に約束したじゃない

 私が専業主婦でいるのは、あの子が小学校に上がるまでだって……

 あなたがどうしてもと頼むから仕事を辞めたのに、

 それを反故にされちゃ黙ってられないわ」


「え〜、俺そんな約束してないよ〜!

 お前がグータラしたいから勝手に仕事辞めたんだろ?

 とにかくパートとかやんなよ! 世間体が悪いからさ!

 ハイ、この話はこれで終わり!

 俺は明日も仕事があって忙しいんだ!

 暇な専業主婦と違ってな!」


早苗の母は、電話をかけました。


「……あ、もしもし義父さん? 夜分遅くにすみません

 10年前に交わした約束の件なんですけどね、

 あの時息子さんに書かせた念書を持ってきていただけますか?

 ……ええ、はい そうです」


「なっ……!

 なんで親父に電話してんだよおおお!?

 他人を巻き込むなよおおお!!」




早苗が8歳の時です。

早苗の父は、言いました。


「はあっ!?

 ダメダメ! そんなのダメに決まってんだろ!

 女に格闘技なんて必要無いだろ!

 顔に怪我でもしたらどうすんだ!

 一生嫁の貰い手が無くなるぞ!?

 習い事なら他にもあるだろ!

 料理とか、裁縫とか、あとはピアノとか……

 もしやらせるなら、そうゆう女の子らしいのにしとけよ!

 いい花嫁修行にもなるだろ!」


「でも、体験教室の先生がベタ褒めしてたのよ?

 早苗自身もやりたがってるし、護身術にもなるし、

 せっかくだから習わせてあげましょうよ」


「どうせ他の子も褒めてるに決まってんだろ!

 入会費とか月謝とか欲しいだけだろ!

 ちょっと考えりゃわかることだろうが!」


「あの先生、褒めないことで有名な人らしいけどね

 むしろ『才能の無い奴は辞めろ』ってスタンスよ?」


「そんなの演技に決まってんだろ!

 裏で何か企んでるに違いない!

 大体、護身術なんて何の役に立つんだ!」


「あなたっていつも否定してばかりよね……」




早苗が9歳の時です。

早苗の父は、言いました。


「おっ、なんだなんだそのケーキは?

 今日ってなんかの記念日だっけ?

 もしかして俺へのサプライズか?」


「私の昇格祝いだけど?

 今日から私、課長になったのよ

 だから早苗と2人で祝ってたんだけど……あなたも食べる?」


「えっ……はあ?

 課長……?

 いや、お前パートだろ?

 何言ってんだ……?」


「何って……

 パートを始めてから正社員になるまで3ヶ月、

 そこから1年でメキメキと業績を伸ばして手に入れた地位よ?

 あなたと同じ会社で働いてた頃は課長になるまで3年もかかったけど、

 どうやら私はこっちの業種の方が向いてたみたいね」


「いや、だからって、たった1年で課長とか、そんな……

 お前は女なのに、なんで……」


「実力のある人間が上に立つのは当然でしょ?

 出世が羨ましいのなら、あなたも仕事を頑張ればいいじゃない

 男ならそれくらい簡単なんでしょ?」


「性差別すんなよ!!」




早苗が10歳の時です。

早苗の父は、言いました。


「もう我慢できない……お前とは離婚だ!!

 今すぐこの家から出ていけえええ!!」


「離婚するのは構わないけど、

 出ていくのはあなたの方でしょ?

 ここは私が私の父から生前贈与された家だし……」


「えっ、はあ!?

 俺は男だぞ!? 父親だぞ!?

 一家の大黒柱だろうが!!

 女のお前が出ていくのが筋ってもんだろ!?」


「筋って……

 大黒柱って……

 今まで私の貯金だけで暮らしてきた癖によく言えるわね

 あなたが通勤で使ってる車だって私が買ってあげた物でしょ?

 これまで一銭も家にお金入れたこと無い癖に、

 そうやって偉そうにするのはやめてくれるかな……本気で

 あなたの後輩の田淵君……おっといけない、

 田淵課長さんから聞いたんだけど、

 あなた、営業サボってパチンコしてたんだって?

 そんなんだからいつまで経っても出世できないんだよ

 そんなんだから後輩にどんどん追い抜かれるんだよ

 ……ああそういえば私、今度部長になるんだよね

 あなたの今の役職ってなんだっけ?

 まさか15年以上も平社員のままなんてことはないよね?」


早苗の父は、今でも平社員です。


こうして早苗の両親は離婚しました。

そして離婚後も早苗の苗字は変わりませんでした。

なんと、あれだけ威張り散らかしていた父は婿養子だったのです。






早苗が11歳の時です。

早苗は放課後、図書室で本を読んでいました。


「ねえ早苗!

 次の日曜って空いてる?」


早苗は驚きました。


話しかけてきたのは、スクールカースト最上位の姫崎(ひめさき)樹栄莉(じゅえり)です。

彼女は読者モデルの仕事をしており、女子たちの憧れでした。

姫崎は顔だけでなく頭も良く、スポーツも得意だったので、

先生たちからも好かれていました。


早苗からすれば姫崎は全てを持った完璧超人であり、

いつもキラキラと輝いて見える眩しい存在でした。

そんな、自分とは接点の無い存在が話しかけてきたのです。


「もし暇なら一緒にブクロ行こうよ!

 アタシ、早苗とも遊んでみたかったんだよね!」


早苗はキラキラ女子から遊びに誘われて、気分が舞い上がりました。

ちなみに、ブクロとは池袋のことです。



当日、待ち合わせの場所に姫崎は現れませんでした。

代わりに、知らないおじさんが来たのです。


「や、やあ

 きっ、君が森川早苗ちゃん?

 へへっ、き、今日はよろしくね……

 じっ、じゃあ早速ほ、ホテル行こっか」


早苗は悟りました。


姫崎に騙されたのだと。


すぐさま逃げたので何もされませんでしたが、

「君の住所知ってるよーーー!!」

という言葉がいつまでも頭を離れませんでした。



翌日、早苗は学校の先生たちに事の顛末を話したのですが、

彼らは「姫崎がそんなことをするわけがない」と否定しました。

同級生たちも同じ反応です。

それどころか皆、嘘泣きをする姫崎を慰めていました。


早苗は嵌められたのです。

誰も早苗の言うことを信じませんでした。

“早苗がおじさんと会っている写真”が証拠です。

一体、誰が撮影したのでしょうね。



その後、早苗は港区に引っ越しました。




早苗が12歳の時です。

早苗は家の中で小学校を卒業しました。

そして、母の薦めでフリースクールという場所に通い始めました。




早苗が13歳の時です。

早苗の家の近くに、ムエタイのジムが建てられました。

それは5年前に諦めてしまった、あの格闘技のジムです。

しかも経営するのは有名な元世界チャンピオンであり、

早苗はどうしてもこのジムに通いたいと思いました。


早苗の母は、二つ返事でOKを出しました。




早苗が14歳の時です。

早苗はムエタイの中学生大会で優勝を飾りました。

入門してからわずか1年足らずの新人が優勝してしまったのですから、

観客たちも参加者たちも驚きを禁じ得ません。


会場には溢れんばかりの拍手が鳴り響き、

この瞬間、早苗は最高にキラキラと輝いていました。


ですが、悲劇は起こります。


なんと、早苗は魔法能力者だったのです。


「なんで隠してたのよおおおおお!!

 最初からあんたが魔法使いだと知ってたら、

 うちのジムに通わせてなかったわよおおおおお!!

 看板に傷が付いたでしょおおおおお!!

 どおしてくれんのよおおおおお!!」


早苗には、どうして先生が怒っているのかわかりません。

その時はただ、魔法使いは悪い存在なのだと納得するしかありませんでした。



後日、魔法学園の津田という人が家にやってきました。

どうやら彼は、早苗に入学してもらいたいようです。


なんでも、早苗のようなパターンで能力者だと判明するケースは多く、

体が戦闘状態になると無意識に魔法で自分を強化してしまうそうです。

なので魔法能力者はプロスポーツの世界に参入することができません。

非魔法能力者よりも明らかに有利であり、公平性に欠けるからです。


そして、その不公平な能力を有効に活かせる仕事が冒険者です。

魔法学園という場所は、その冒険者を育成する機関だそうです。



早苗は悩んだ末、魔法学園へ通うことに決めました。




早苗が15歳の時です。

早苗には、気になる男子がいました。

彼にはある疑惑がつきまといますが、とりあえずは優良物件です。


ですが、彼の周りには他の女がいました。

注意すべきは2人です。

早苗はそのうちの1人と友達になりました。

これでひとまず安心です。




早苗が16歳の時です。

早苗はトーナメント決勝戦の前に、もう1人の女から話しかけられました。


「私が勝ったら、アキラにはもう近づかないで……」


どうやら、杉田雪は排除すべき敵だったようです。

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