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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
32/150

9月下旬

全校集会が開かれた。

壇上には内藤訓練官が佇んでいる。

彼は主任という忙しい立場であり、

このような場には滅多に姿を現さない。

その彼が今、壇上に立っている……これは只事ではない。


「これより個人戦の最終戦績を発表する!」


魔法学園における唯一の行事、対人戦の前半が終了した。

本日をもって個人戦……1対1の模擬戦が締め切られたのだ。


「例年通りであれば上位の結果から発表を行うのだが、

 今年は異例の事態が発生してしまったので、

 あえて下位の者から順に発表させてもらう!」


異例の事態……やはり只事ではない。

生徒たちは息を呑んで成り行きを見守った。



「同率3位……

 クラス順ではなく、名前の順で発表させてもらう

 3組所属、正堂正宗……及び、2組所属、十坂勝!

 共に戦績は10戦9勝0敗1分!」


体育館に「おおおおお!」というどよめきが沸き起こった。

たしかにこれは異例の事態だ。

優等生vs不良の構図の戦いにて、学園史上初となる引き分けでの決着。

しかも戦績まで同じとなると熱い展開であろう。


「ははっ、なんだか恥ずかしいねえ」

「チッ、あいつら騒ぎすぎなんだよ」


両雄にはその健闘を称える賞状とブロンズトロフィーが手渡された。



「2位……

 1組所属、進道千里!

 戦績は13戦13勝0敗!」


生徒一同は「えっ」という反応だった。

あの圧倒的な強さを誇る最強の魔法使いが2位……これはおかしい。

やはりたしかに異例の事態……何かが起きている。


センリには賞状とシルバートロフィーが手渡された。



ゴールドトロフィーは誰の手に……


だが生徒一同は壇上に呼ばれた生徒を見て、一斉に首を傾げた。



「1位……

 3組所属…………森川早苗!

 戦績は25戦25勝0敗……!!」



……なんだその化け物じみた戦績は。

あの無敵の進道君の約2倍の試合数をこなし、更に全勝している。


異例……あまりにも異例……!


全くのノーマークだった地味な女子生徒が、

最強の魔法使いに大差をつけて個人戦の頂点に立ったのだ……!


生徒一同はその結果に実感を持てなかったが、とりあえず拍手を送った。



「ああ、くっそ……

 まさか森川に出し抜かれるとはな……」


センリは悔しそうに呟くが、どことなく嬉しそうでもあった。

予測不能。計算通りの結果ではなかった。

だからこそ彼は面白いと判断したのだろう。


「……んで、森川

 お前はなんの格闘技の使い手なんだ?

 全試合ノックアウトでの勝利…………尋常じゃねえよ

 25戦もこなしたってのにどこも打たれてねえようだし、

 明らかに格闘技経験者で間違いねえよなあ?

 体格からして打撃系だと踏んじゃいるが……」


そう問われ、早苗は目を逸らしながら答えた。


「あの、それは……言いたくない、かな

 進道君とはトーナメントで戦うことになるんだし、

 敵に手の内を見せるわけにはいかないよ」


「へっ、なるほどな

 おれと同じ考えってわけかい

 こっちも手の内は全部見せてねえよ

 こりゃますます楽しみになってきたぜ」


最強の魔法使いvs最強の格闘家……夢の対決が実現しようとしていた。




後日、更なる異例の事態が起きた。

1年4組の教室にて、担任から重大発表がなされたのだ。


「先日トーナメントの出場希望者を締め切ったが、

 このまま開催した場合、各選手間で試合数に差が生じてしまう

 人数が少なければシードを設けるとかで対応するしかないが、

 今年の希望者は31人……あと1人補充できれば公平性を保てる」


トーナメントは2人1組によるタッグマッチであり、

32人いれば計16チームとなり、全15試合で優勝が決まる構図だ。


「そこで……敗者復活戦を開催したいと思う

 これは魔法学園史上初の試みだ

 戦績が3戦0勝3敗の者同士で競い合い、

 最後まで残った生徒が本戦に出場できるという仕組みだ」



敗者復活戦……!



その言葉を聞き、ヒロシは椅子を倒しながら立ち上がった。


小中(こなか)、座る時に注意しろ……

 つうか今のうちに椅子を直しとけ」


ヒロシは興奮しながらもその指示に従った。


勝ち抜けばトーナメント出場。

まだチャンスは残っていたのだ。


「本来なら来月から本戦を開始して1月で終わる予定だったが、

 この敗者復活戦をねじ込んだ影響で本戦は11月からの開始となる

 これも公平性を保つための処置だと思ってくれ

 それに、遅れて開催させた方がお前らも成長してるだろうからな

 勝敗の結果がわからなくなって賭けが盛り上がるはずだ」


同級生の樋口君が挙手し、質問する。


「先生、その賭けって俺たちも参加できないんですか?

 なんか先生や上級生ばかり楽しんでずるい気が……」


「勝手にすりゃいいだろ

 ……ただし1年生同士でな

 俺たちは俺たちで既にルールが出来上がってるんだ

 賭けの存在に関してはだいぶ前に伝えておいたはずだが、

 それを今更『僕らも参加したいです』とか言われても困る」


樋口君は気まずそうに着席した。






訓練終了後、俺は早苗と2人でダンジョンに潜った。

彼女は上機嫌であり、いつもより槍の切れが冴えている。


まあ、それも当然だろう。

彼女はあのセンリに大差をつけて勝利したのだ。

両者が直接戦ったわけではないが、それでも勝利には違いない。


「アキラ君、ありがとね」


「ん……?

 俺が何かしたか?」


「まったまた〜!

 私に勝ちを譲ってくれたじゃない!」


「ああ……

 いや、それはむしろ俺が感謝するべきで……」


俺はただ、ノルマを消化したかっただけだ。

谷口と玉置以外なら誰でもよかった。

どうせなら友人に勝ちを譲りたかった。

本当にただそれだけだ。


俺の最終戦績は3戦0勝3敗。


やっと終わった。

敗者復活戦の出場条件は満たしているが、

そんな無益な戦いに参加する気はさらさら無い。

どうせ試合開始直後にライフアウトだ。やる意味が無い。



「ところでアキラ君……

 リリコちゃんとはどういう関係なの?」


ん、リリコとの関係……?


「本人から聞いていないのか?

 小学生の時にあいつが俺の住む村に引っ越してきて、

 1年ほど一緒に過ごした後にまた転校してしまったんだ

 まさかこの学園で再会できるとは思っていなかった

 随分と外見が変わったが、中身はそのままで安心したよ」


「へえ、そうだったんだ……

 それじゃあ杉田さんについてはどう思う?」


え、今度はユキの話題に?


「出会った時よりも健康にはなっているが、

 まだ見ていて不安になるな……

 最近はお粥を食べられるようになったそうだし、

 そろそろ固形の食品も挑戦させようかと思っている

 少し前に魚の缶詰を食べたという話をしていたから、

 きっと無理ではないはずだ」


「ふーん、そっかぁ……

 ちなみにアキラ君って付き合ってる子いるの?」


今度は恋愛の話題……忙しいな。


「そういう関係の相手はいない

 俺はまだ一般的な10代の若者の生活に慣れていないからな

 まずはそれなりの社会常識を学習しつつ、

 身近な友人たちとの交友関係を深めていきたい」


「そうなんだ〜」


早苗はその後も話題をコロコロと変え、上機嫌で狩りを続けた。

結果発表がよほど嬉しかったのだと見える。


まあ、俺も少し身に覚えがある。

バルログの首を獲った瞬間、俺は確かに心が熱くなっていた。

殺しを楽しんでいたわけではない。何かもっと別の感情だった。


それは勝利の喜びというやつなのだろう。




しばらく第2層をうろついていると、見知った顔と出会った。

カルマ、カムイ、アリスの3人……グリムパーティーのメンバーだ。


「おっ、アキラ君だ」

「森川さんと2人きり……」

「もしかしてデート!?」


「あらやだ、デートだなんて私たち──」


「デートじゃない

 それよりグリムの姿が見えないが……今日は一緒じゃないのか?」


彼らはいつも固定パーティーで活動していると聞いていたが、

肝心のリーダーが見当たらない。

まあそんな日があってもおかしくはないが、なんだか妙な構図だ。

補給係のアリスは手ぶらで、両隣の男子2名が荷物を運んでいる。


「グリムか……」

「いや、ん〜……」

「ちょっとね……」


なぜ言葉に詰まる……。

そういう態度を取られると余計に気になる。


「実は俺たち、あいつのパーティーから脱退したんだ」

「なんていうか方向性の違いってやつかな……」

「あの人ちょっと厳しいとこあったからねえ」


「厳しい?

 あいつが……?」


にわかには信じ難い。

彼はどちらかというと強さよりもカッコよさを追求する方針で、

楽しいパーティープレイを心掛けていると語ったことがある。

ヒロシともよくアニメやゲームの話で盛り上がっているし、

同じ趣味の彼らを不快にさせるような言動をするとは思えない。


「最近、アリスに対する態度がね……」

「人には苦手なこともあるのに……」

「早く魔法使えるようになれってプレッシャーかけてくるの!」


まだ使えなかったのか……。

“聖風の癒し手”が回復魔法を使えないのは致命的だと思うが……。

しかも補給係の仕事まで放棄しているのだから始末に負えない。


「そういうわけで、これからはトリオで活動することにしたんだ」

「大丈夫、アリスは俺たちで守ってやるからさ!」

「嬉しい……これからもよろしくね!」


なんだか彼らは間違った方向に進んでいる気がしてならないが、

彼ら自身でそう決めたのなら俺が口出しすることではない。



少しもどかしい気分のまま、彼らとはそこで別れた。


「あの人たち、典型的なオタサーの姫と騎士って感じだね……」


「その言葉はどういう意味なんだ?

 以前にも彼女は同じ評価を受けていたんだが、

 その後に激しい戦闘をしたせいか調べるのをすっかり忘れていた

 インターネットで検索しようにも、ここには電波が無い」


「ネットって略さないあたりがアキラ君らしい……」






その夜、今日の出来事が気になってグリムの部屋を訪ねた。

そういえばお隣さんだというのに入るのは初めてだ。

いつもは俺の部屋を溜まり場にしているせいか新鮮に感じる。


テレビの横にはエレキギターの入ったバッグが置かれており、

ホワイトボードにはミュージシャンのポスターが貼ってある。

今まで全然ギターの音なんて聴こえてこなかったが、

彼は騒音を出さないように芸術棟で練習していたようだ。


「……んまあ、あいつらが脱退したっつーか、

 俺がハブられたって方が合ってるわな

 原因は聞いてると思うけど……まあ、アリスだ

 ノルマ達成しないと退学だって言ってんのに、

 いつまでも『私戦えない』じゃ困るんだよ……」


「やっぱりそういうことか……

 俺からも説得してみようか?」


「いや、どうせ今は何言ったって無駄だ

 カルマとカムイの2人は完全に(ほだ)されてやがる

 あいつらには女に対する免疫が全く無いからな」


彼にはその免疫があるということだろうか。

これは質問してもいいのかわからない。やめておこう。


「グリム

 もしダンジョンに行きたくなった時はいつでも声を掛けてくれ」


「おっ、サンキューな

 でもしばらくダンジョンには行かないかもな

 実はもう俺自身のノルマは終わってるんだ

 それに、あいつらと顔合わせたら気まずいし……

 とにかくしばらくは魔法の自主練を頑張ろうと思ってんだ

 一時離脱したキャラが合流後に弱かったらガッカリするからな!」


その言葉が聞けて少し安心する。

彼らの仲が完全に崩壊したわけではなく、

この状況は一時的なものだとリーダーが信じているのだ。



それにしても……男女混合パーティーの弱点を見た気がする。

俺たちは10代半ばの少年少女であり、

恋愛事に対して強い関心を持つのは当然の時分だ。

俺がよく組むメンバーの中に“オタサーの姫”はいないと思うが、

とりあえず特定の異性に入れ込むのは危険だと認識した。


今はまだバルログくらいしか強敵と出会っていないが、

これから先はそれ以上の魔物と戦うことになるだろう。

そんな時、戦いに集中できない状態であれば命を落としかねない。


俺はよくリーダー役を任されている。

仲間から信頼されているという証だし、それを裏切ってはならない。

彼らの命を預かっているのだ。

色恋沙汰に(うつつ)を抜かすようなリーダーであってはいけない。


まあ、今のところは恋仲に発展しそうな相手がいないので安心だが。

基本情報

氏名:工藤 心 (くどう はあと)

性別:女

サイズ:C

年齢:17歳 (6月11日生まれ)

身長:148cm

体重:40kg

血液型:O型

アルカナ:星

属性:無

武器:ハートビート (短剣)

防具:フラッシュダンス (軽鎧)


能力評価 (7段階)

P:3

S:9

T:7

F:3

C:3


登録魔法

・ヴェクサシオン

・ソウルゲイン

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