はっぴー・はろうぃん!!【中編】
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「えー、それでは『婚約どうしよう会』改め、『王弟殿下へはっぴー・はろうぃん会』を始めます」
「いえーーい!!」
「うん、何も言わない……僕はもう何も言わない…」
引き続きソラン君の部屋で続けております、本会の発案者であり会長ことルルリーアでございます。
そこ!ソラン君!!盛り下がるような顔をしない!!
「まずは最も大事な、王弟殿下に参ったと言わせるようないたずらを考えましょう!」
「そこだよねぇ……あの大魔王みたいなパーシアス様に、参ったなんて言わせられるかなぁ……」
「アイリーン様、王弟殿下は古の混沌たる邪神様だと思うの」
「……早速、議題から逸れてるけど」
……こほん、よしよしソラン君。舵取りは任せたからね!!
物言いたげなソラン君の視線から、華麗に明後日の方向へ逸らす。
「参った、か。私が王弟殿下と戦えば言わせられるかもしれないが……拳だけだと長引くかもしれない」
「ライオネル様、一旦拳から離れましょう」
真剣に考えてくれているのはわかるんだけども、ライオネル様。
発想が物騒過ぎるよ、ライオネル様らしいんだけどね。
うーーーん、と四人で唸る。
「王弟殿下の執務室の家具を、全部お菓子の家具に置き換える、とか?」
「ルルリーアさん、食べ物で遊んじゃいけません」「ごめん、アイリーン様」
「サラさんと密室に閉じ込めてドキッ!大作戦、とか?」
「……転移魔法で即脱出後に、サラに物凄く怒られそうだよ。アイリーン」「だよねぇ…ソラン」
「王弟殿下の周りに、空気を風船みたいに閉じ込めて破裂音でびっくり、とか?」
「殿下の周囲には常に魔法障壁が備えられているから無理だな。それほど近付く前に護衛騎士に叩き落とされるが」「ダメか…」
まっっったく、思いつかない。
そもそも、あの邪神様が『参った』なんて言っている様が、想像できないんだよね。
脳裏に、邪悪そうに笑う王弟殿下の顔が浮かぶ。……なんだか、闘志がみなぎってきた。
―――絶対に、絶対に諦めないぞ!!
「ライオネル様、ちょっとそこに立ってください!」
「?ここに立てばいいのか?」「ばっちりです!」
「どうしたの?ルルリーアさん」「また何始めるの、リーア」
疑問符だらけの三人に、ちっちっちっと舌打ちして指を振る。
「何事も実践あるのみ!!やってみたら何か思いつくかもしれないでしょ?」
「なるほどな!流石ルルリーアだ」
「え、いや、相手が違う時点で大分――」「しっ、ダメだよ、ソラン!二人のじゃれ合いの邪魔しちゃ!」
なんだかごちゃごちゃ言っている二人の事は、取り敢えず置いておいて。……さあ、実践だ!
「ライオネル様!『とりっく・おあ・とりーと』!!」
呪文と共に、ライオネル様へ片方の手のひらを突き出す。アイリーン様曰く、これが正式なポーズらしい。
さぁてこの後はどうしようか、と悩む私のその手に、ぽんとお菓子が置かれた。……あ、これ食べたかった奴だ!
「―――じゃなーーい!!!ダメでしょ、ライオネル様!!お菓子貰ったら、私いたずら出来ないじゃないですか!!」
「はっ、すまん!ルルリーアが食べたそうだったから、つい……」
「あーまた始まったよ……」「きゃー!いつ見ても良いわぁ……」
騒がしく見守っている二人は、まだ良いいたずらを思いつかないようだ。うーん、困ったな。
……取り敢えず貰ったお菓子は食べて、仕切り直しだね!
嬉しそうに目を細めるライオネル様に見守られながら、美味しく頂く。
「んぐっ……さぁ、次行きますからね?次は、お菓子渡したら、ダメですからね?」
「あぁ、わかった」
「よし……。ライオネル様!『とりっく・おあ・とりーと』!!」
「…………」「…………」
沈黙が、二人の間を通り過ぎる。―――あれれ?
「――予想通り過ぎてどうしたらいいか分からないよ…」「うぅ…二人で見つめ合ってる…尊い……」
ぼそりと失礼なソラン君と、何かに感極まるアイリーン様は無視しておいて。
……私の想定だと、これで良いアイディアがふわっと降りてくるはずだったんだけど。
うーん、何か思いつくかと思ったけど、全く思いつかない。
ライオネル様をじっと見てはいるものの、今のところアイディアの欠片も降りてこない。馬鹿な……。
「あのう……ライオネル様。その、やられたら嫌なこととか、あります……?」
「嫌なこと、か……」
「ほ、本人に聞いちゃってるんだけど?」「う"っ……ルルリーアさんてば、バ可愛い…、心臓、が、痛いっ……」
アイリーン様!呻き声がうるさいよ!?!?今、ライオネル様からの返答を待ってるんだから!!
ソラン君、アイリーン様静めといて!!
視線でソラン君に指示していると、真剣に考え込んでいたライオネル様が疑問のままの顔でこちらを見た。
「ルルリーアにされて嫌なことは、特にないが……」
「えっ、無いんですか!?!?くすぐられても!?」「大丈夫だ」
「えぇぇ!!えぇっと、うーーん、じゃ、じゃあ、仕事の書類に落書きしちゃいますよ!?」
「それは困る……」「でしょう!!」
「書類は公文書だから、折角書いてくれた落書きを私物には出来ない……」「えっ…そこ???」
困らせることは出来るみたいだけど、私が想像してた成功と何か違う。
―――しまった、尽きた。もう、私の嫌がらせの泉は枯れた。
頼みの二人は、と振り返ると、丁度アイリーン様がゆっくりと崩れ落ちるところだった。―――え。
「も、もうダメ……公式万歳……」
「ア、アイリーーーン!!しっかりするんだーー!!」
ソラン君に抱えられ、安らかな顔で眠るアイリーン様。
美少女美少年で絵になるけど、今はその時ではない。
―――叫ぶソラン君、起きぬアイリーン様、悩むライオネル様、呆ける私。
…………これ、もう私達じゃ、無理じゃない???
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「―――と、いう訳なんですよ、魔術師団長」
「…………なんで、俺のところに来るんだ………」
だらしなく団長専用の立派な椅子に座る、魔術師団長。
上手い具合にアイリーン様の前世部分を避けつつ、王弟殿下へいたずらをしたい旨を説明した訳なのだが。
最初は仕事をこなしながら聞いてくれていたのだが、話が進むにつれて手も止まり表情もうんざりしたものになっていった。……あれれ?
今にも犬でも追い払いうようにしたそうな空気の魔術師団長へ、熱意を込めて説得する。
「それはもちろん!王弟殿下の弱点を熟知してそうなカシコイ人、と言ったらもう魔術師団長しかいないからですね!」
「……………イイ意味じゃあ、ねぇよなぁ……???」
ギロリと睨まれてしまったので、慌ててライオネル様の背後に隠れる。
そんなこと言われても、私達がお願いできそうで、かつ王弟殿下と弱点を知るほど接触出来る地位の人と言ったら、魔術師団長の他には居ない。
―――陛下偉すぎ無理、宰相閣下頼めない無理、ヴィディカ様達も今居ない無理。
しかも、魔術師団長なら、色んな人に喧嘩を吹っ掛けてそうだから、何かしら知ってるんじゃない?というのが我々満場一致の意見だ。
そう心の中で反論していると、頼もしい背中の上から、自信に満ちたライオネル様の声が聞こえてきた。
「良い意味に決まっているだろう。ルルリーアの案だからな」
「―――はぁぁ………、この色ボケ野郎が……」
肺から絞り出すように溜息と悪態を吐く魔術師団長。
ライオネル様は全然色ボケなんかじゃないですからね!?いつだってやる気に満ち溢れてるんですからね!?と、心の中で反論して置く。……だって、魔術師団長の顔が怖い。
暫くライオネル様を睨みつけていた魔術師団長だったけど、自信を少しも陰らせない様子に標的を変えたようだ。
今度は視点をソラン君に移す。
「………で、お前も同意見ってことか?ソランよぉ???」
「あ、あははは……いやぁ……」
白々しい態度と共に目を泳がせるソラン君。
あの時はあんなに自信満々に、「父さんなら絶対知ってるよ!」と主張していたというのに。
「アイリーンは……なんだぁ、その面は」
「私は今、非常に心が満たされているのです。お気になさらず」
凶悪な表情の魔術師団長に凄まれたというのに、女神像のような穏やかな表情を崩さないアイリーン様。
その様子に、不満げに歪んでいた魔術師団長の口が、不気味なものを見たかのように引き攣った。
……そうなんだよね、アイリーン様、気が付いてからずっと、このまんまなんだよね……。
一通り、私達を見回した魔術師団長。
誰からも良い答えが返って来なかったからなのか、魔術師団長はついに諦めたように深く深い溜息を吐いた。
「…………パーシアスの、弱点か」
お、漸く答えてくれるのかな?さぁて、どんな弱点なのかなぁ??王弟殿下め!!!!
くっくっくっ、私達からサラを奪った罪は、重いのだよ!!
けれども、一言喋ったっきり、魔術師団長はだんまりを決め込んでしまった。
これは、押しが足りないのでは???
ちょいちょいと手招きして、ソラン君をライオネル様の後ろという安全地帯へ呼び寄せる。
一緒にアイリーン様も来たけど、特に問題はない。
私の秘策をソラン君に耳打ちすると、顔が真っ赤になってしまった。
確かにこの年齢でコレを言うのは、ましてや男の子にはちょっとキツイかもしれないけど。
でもでも、絶対、魔術師団長には効くと思うんだよね!頑張れ!ソラン君!!
穏やかな顔がすっかりはがれたアイリーン様と同情はすれど引く気のない私の、二人の無言の応援を背負って、ソラン君が魔術師団長の前に出る。
「……どうした、ソラン」
「あ……あ、あの……その……」
もじもじとするソラン君を怪訝そうに見る魔術師団長。
でも、急かさず待つその姿があまりにも父親で、これは上手くいくなと心の中でニヤリとする。
「父さんなら、その、きっと、何でも知ってるからって……僕の、そのぅ、自慢の、ちちち、父親、だから、その………」
「―――仕方ねぇなぁ??」
………顰めた眉はそのままだけど、口元が緩んでますよ、お父さん。
だが、それに気づいたと悟られたらまたややこしい言い訳が始まりそうなので、きっちりとライオネル様の後ろに隠れておく。
羞恥で灰と化したソラン君、よく頑張ったぞ!
ふんと誤魔化すように鼻を鳴らすと、もったいぶるかのように足を組み直した魔術師団長が、おもむろに話し始めた。
「パーシアスの、弱点は……」
「「「じゃ、弱点は??」」」
ごくり、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえた。つ、ついに、明らかに!?!?
「―――魔女だ」
「「「……………は?」」」
聞き間違い、だよね???あの邪神様が、魔女が弱点……???
そんなおとぎ話の世界の存在を、あの邪神様が、怖がってるとでもいうの……????
全く信じていない三人からの視線を事もなげに受け止めた魔術師団長は、自信たっぷりの笑みを浮かべた。
「嫌がらせがしてぇんだろ?アイツ、子供の頃すげぇ怖がってたからな」
「えぇ………ほんとぉですかぁぁぁぁぁ???」
顔にも声にも疑問を隠せない私に気分を害したのか、魔術師団長の眉間に皺と言う名の渓谷が出来る。
「なんだ、疑ってんのか?あぁ?!?!」
「―――その話聞いたことがあるが、今でもなのか?」
危うく極悪人顔で詰め寄られそうになったところを、ライオネル様の一声で救われる。
あ、危なかった、あることないこと、叫び出すところだったぁぁぁ!!!
多少和らいだ悪人顔で、魔術師団長が頷く。
曰く、魔女に関する文献を王宮から残らず処分させるほどの徹底ぶり、らしい。
……うーん、でも魔女って絵本くらいしか載ってないでしょ?っていうか、そんなに怖かったっけ?魔女。
昔々の、黒い時代に居てめちゃくちゃ悪い事したっていう伝承がある、ぐらいしか知らないんだけど??
「ま、機密に引っかからん程度だと、こんなもんだな」
「……他にも、弱点あるんですか……」
恐る恐る尋ねる私だったが、それ以上は国政に突っ込むことになるがと悪い顔付きで言われて、慌てて好奇心を引っ込める。
よしよし、王弟殿下への攻撃になるか?はともあれ、ようやく弱点が判った訳だ!!!
「よーし!!!!魔女でいたずら、するぞーー!!!」
「おーー!!」「あぁ」「あー、うん……」
「………それにしても、変な組み合わせだな」
変な顔の魔術師団長を横目で捉えつつ、一歩進んだ喜びをかみしめる私たちなのであった。
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※ハロウィンの話ですが更新したのは4月ですがネットと言うものは時空を超えて読めるところがとてもいいところで、いつ読んでもいいわけでほんとうに更新遅くて申し訳ございません!!!!!!
そして話が膨らみ過ぎて中編ですごめんなさいーーー!!
※3/19に『どうでもいいから帰らせてくれ』最終の4巻が発売しましたー!
詳しくは活動報告に書きましたので、お読みいただけますと転がって歓びます!




