突撃!噂のあの人にインタビュー!!【前編】
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「―――あのあの、ルルリーア・タルボット様ですか?」
後ろから、声を掛けられた。珍しく名前で。
このところ、街を歩いているといくつかある二つ名の方で呼びかけられるので、最早私の名前は知られていないのでは?と疑うくらいだ。
私は二つ名のどれもこれも、認めていないというのに。
振り返ると、随分と派手な頭と装いの女性が居た。
おしゃれが行き過ぎて私には理解できない非対称の髪型、男性用のズボンと上着を着ているだけでも驚きなのに、至る所にリボンとフリルが付いていて男装とも言い切れない、不思議な服装。
その上、なんていうか、原色に近い彩りが全身に飛び散っているせいで、見てると目がチカチカする。
―――怪しい。限りなく、怪しい。
名前を呼ばれたからと振り返ってしまったが、これは今からでも白々しく人違いの振りでもしようかな。
ライオネル様にもサラにも、怪しい人から声を掛けられたら、走って逃げるようにと言われてるしな。
「いいえ、人違いです」「わたくし、こういうものですぅ!」
被った。そして、非常に作り物めいた笑顔で、四角い紙を差し出された。
受け取らずに、差し出されたソレを、目を凝らして見る。
黒地に小洒落た文体の金文字は非常に見難いことこの上なかったが、どうやら新聞社の人らしい。
………偽物じゃないか?私でも知っている大手の新聞社の人が、まさかこんな名刺を堂々と差し出してくるだろうか?いやない。
「あのあのぅ、ルルリーア様ですよね??」
「違います」
今度は間違いなく、きちんと伝わったようだ。
大きな菫色の目をぱちくりとする彼女を放置して、このまま立ち去ろうとすると、慌てた様子で私の腕にしがみついてくる。
「いやいやいや、絶対に嘘ですよね??ルルリーア・タルボット様の写し姿は、もう各所に出回ってるんですよ???」
「ぅえっ!?なにそれ!!」
余りの事実に驚くと、腕にしがみついた彼女はしてやったりとばかりにニヤリと笑う。
しまった、これじゃあしらばっくれられないじゃなかぁぁぁ!!!!
そしてどこぞの押し売りの如く、彼女は名刺を私の左手にねじ込んできた。いやいらない……ああ、サラに怒られる……。
「どうもどうも!!新明新聞のヘレネス・ユーピテルですぅ。以後お見知りおきを」
「手、離してもらえます?」
嫌だという感情を隠すことなく、態度と声ではっきりと示す。
と、腹立たしいことに、胡散臭い新聞記者(仮)はこちらを宥めるような笑顔になりつつ、腕の力を増々強めてきた。
「ええ、インタビューさえ受けていただければもうそれで、きっぱりさっぱり離しますとも、ええもちろん。たった5分、いえ30分、いいや1時間くらいで済みますから!」
「嫌です」
きっぱりと、断る。
そんな意外そうな顔されても、逆にどんどん増えていく時間を提示されていいと頷く人がいるだろうか、いや絶対にいない。
一歩も引かなそうな私に、その新聞記者(仮)はいかにもワザとらしい拗ねた顔で続けた。
「別にぃ、帝国の新皇帝との関係性とか、頻出する成体ドラゴンと異界渡りの要因とかぁ、そんなこと聞きませんからぁ!!」
「――は?」
ぞわりと、鳥肌が立つ。
やばい。何この人、やばいやばい。
今彼女が言ったことは、王弟殿下とサラにくどくど脅されるほど口外を禁止されたやつだ。
―――それを、なんで、知ってるんだ。
捕まれた腕が、さぁっと冷えていくのを感じる。なのに、振りほどきたくても、その華奢な指はぴくりとも外せない。
顔色を変えた私に気付いた彼女は、拗ねた顔をくるりと変えて、仮面のような笑みでこちらを見た。
そのガラス玉みたいな空虚な菫色の目に、徐々に飲まれそうになって―――
「た、たすけて、ライオネル様ーーー!!!」
持っていたソラン君お手製『よぶよぶ君』の紐を、思いっきり、引っ張った。
次の瞬間、けたたましい音が辺りに鳴り響き、新聞記者(仮)の彼女が僅かに怯む。
「―――何者だ」
声が聞こえた時には、もう腕の中だった。
目線を上げると、酷く険しい顔をしたライオネル様が見えた。――もう、安全だ。
知らずに止めていた息を深く吐いて、ライオネル様の服を握りしめる。
と、返事をするように、ぎゅっと腕の力が強まった。
そんな私達を見て、最初は唖然としていた彼女が、こちらがたじろぐほどの笑みを浮かべる。
「わたくし、只のしがない新聞記者でございます。ええもちろん、ルルリーア様に危害を加えようだなんて、滅相もない!!」
両手を大げさな程挙げてアピールをする彼女。
その彼女に、『よぶよぶ君』の音になんだなんだと集まってきた人々を蹴散らすほどの殺気を放つライオネル様。
だが、その殺気をニヤついた顔のまま、新聞記者(仮)は受け止めた。……絶対に、ヤバイ人だ。
「ただの新聞記者相手に、ルルリーアが俺を呼ぶわけがないだろう。――何者だ」
「もう、いやですねぇ~、新聞記者ですって。いくら愛しい人が心配だからって、疑い過ぎですよぅ」
「なっ」
「心配するのは当たり前だろう、俺はルルリーアをあい「ちょちょちょ、ちょっとまったぁぁぁぁ!!!!」――どうした?」
ちょっと、ちょっとぉぉぉぉ!!!なんでそんなさらっと言っちゃおうとしてるんですか、ライオネル様の馬鹿ぁぁぁ!!!
きょとんとしてないで、もう!!ここはちゃんと、びしっと言わなくちゃ。
熱くなる顔を咳払いで誤魔化して、ライオネル様へ向き合う。
「そ、そういうことは、その、二人だけの時に、私に言ってください!!」
「――わかった」
「ちょ、ちょっと!!なんで高い高いする準備してるんですか!!!だめですからね、抑えてください!!!」
「……むぅ…わ、かった……」
「――何この盛大な惚気。無自覚でこの甘さってホントなんなの」
ぼそりと低い声が聞こえる。なんだと思ったら、新聞記者(仮)の彼女が、虚無を浮かべていた。……どうしたんだろう??
先程までの作り物めいた表情ではなくなった彼女は、少しだけ怖くなくなっている。
それはライオネル様も一緒のようで、少しだけ警戒心を緩めた顔で新聞記者(仮)の彼女を見ていた。
その視線に気づいた彼女が取り繕うように笑みを浮かべるが、その表情に恐怖は感じない。
あれれ?と思っていると、同じように首を傾げたライオネル様が見えた。
ですよねー、なんだろうさっきと何が変わったんだろうか。
「………で、インタビューは受けていただけますかぁ?」
いやいや、そんなの断るに決まってるでしょう、ね?ライオネル様。
「――ああ、いいだろう」
「え」
なんでなんで、どうして!?!?だってだって、さっきまで怪しくて警戒してたじゃないですか!!
疑問と衝撃のままに、ライオネル様を凝視すると、渋々といった風情の視線が返ってきた。
「……王弟殿下とサラ嬢に、ルルリーアに接触してきた人物は情報取集をしろ、と言われていてな」
「サラーーー!!王弟殿下ーーーー!!!」
叫んでも結果は変わらなそうだけど、叫ばずにはいられなかった。
サラめぇぇぇぇ!!!王弟殿下めぇぇぇぇ!!!なんてことをライオネル様に言うんだーーー!!!
「心配するな、ルルリーア。得体の知れなさはあるが、敵意は感じない」
「ええぇぇ……そこは、守るから的な話じゃ、ないんですかー?」
このままインタビューを受けそうな流れに、ちょっとだけ拗ねて言うと、ライオネル様はきょとんとした顔でこちらを見る。
「??守るのは当然だろう。ルルリーアに傷一つつけさせないのだから」
「――――!?!?だ、だからそういうことを、さらっと!!!!」
「―――さらっと人のこと得体の知れないとかディスっておきながら、さらっと惚気追加とかマジあり得ないですけど」
なんだろう、今までの甘ったるい口調から一転して、砕けた口調になった新聞記者(怪)。
ぼそぼそと聞き取りにくい声だから、内容はあまりよくわからないけど。
けれども、ほんの少し前までライオネル様を呼ぶほどの異様さだった彼女。
その彼女に受けたくもないインタビューを受けるのだ、ここは私の安全を確保しなくては!!
「わかりました、ライオネル様。あの二人に言われちゃやるしかないですし……。その代わり!しっかり膝の上でお願いしますよ?絶対離さないで……って今からじゃないですから!!まだ抱え上げなくていいですからぁぁぁ!!」
「……しかし、後で抱えるのだから、今からでもいいじゃないか……」
「ぐぅ、そ、そんな目をしても、だ……だめ……じゃ、ないです……アリガトウ、ゴザイマス……」
「ああ!気にすることはないぞ!」
勝てなかった。あんなにしょんぼりとした目をするなんて……そんなの、勝てるわけがないじゃないか……。
折角殺気で散ったはずなのに徐々に集まりつつある人々の前で、羞恥心から熱くなる顔を隠しながら、ご機嫌なライオネル様にしっかりと抱えられる。
ああ……みんなの目を、潰したい……。
「―――私、イチャイチャのネタにされてる……砂糖吐きそうコレ……」
ぼそぼそと力なく呟く新聞記者(怪)。
少し待ってみたものの、一向に動こうとしない。え、これ帰ってもいいヤツ??
「……おい、インタビューはいいのか?ならば、このまま「このままぁぁ!?」帰るが」
帰るってどこにですか、ライオネル様。
騎士塔のある王宮でもタルボット家でもどちらでも、このままなんて私羞恥で焼き切れちゃうんですけどぉぉぉ!?!?
「……イエ、インタビュー、オ願イ、シマス……」
当初の迫力など最早皆無になった彼女が、絞り出すように返事をした。
ぇえ……嫌になったならやめればいいのに。
「……デハ、コチラヘ…」
「わかった。では行こうか、ルルリーア」
「はーい……ってだからぁぁぁ!!人前で頬ずりは駄目って、言ってるじゃないですかぁぁぁ!!」
「ん?してたか?」「してましたぁぁぁ!!!」
油断も隙も無いライオネル様を牽制しつつ、何故か疲れ切った彼女に従って進む。
―――だから、無意識で頬ずりするの、ヤメテェェェェェェ!!!
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※書ききれなかったお話を不定期ですが書いていきます。
お付き合いいただければ幸いです。




