エンディング【後編】
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―――呼吸を整える。
思い返してみると物凄く情熱的な言葉達だったけど、相手は騎士団長だ。
もしかしたら、何か違う意味の隠語だったかもしれない。
「……あのう、それって、そのう、結婚的なことですか?」
「ああ、そうだな。それが一番だな」
え、なんで平然としてるの?この騎士団長。
え、私今、プロポーズされたの??この騎士団長に?
考えが全くまとまらないので、思い浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「私、その、国王陛下に、きし、ライオネル様、と結婚したらダメって言われちゃったんですが」
「ああ、知っている」
軽いんですけど、反応が!!
この国の王ですよ?貴方が忠誠を誓った主ですよ?いいの?ダメだって言われたの知ってるのに、私に、プ、プロポーズして!!
「対策は、師匠たちに相談したから心配するな。ばっちりだ」
―――絶対ばっちりじゃない。
確かに一番聞いてくれそうではあるけれども!!
それだと脅すとか脅すとか…脅すとかしか思い浮かばないぞ?
「政治は不得手でな。だから、王弟殿下にも相談したぞ」
異界から帰った俺に何某かの称号をくれるそうだ、と事もなげに言う騎士団長。
どうしよう、どんな称号をつけるか面白がる邪神様しか想像できない。
……あっ、ということは、サラにも伝わってるってこと!?!?
昨日一緒にお茶したのに、サラってば一言も言ってなかったぞ!!!――今思えば、何か意味あり気な目で見てきていたような。
その時のことを思い出して渋い顔をする私に、騎士団長は何を思ったのか真剣な顔で補足してきた。
「俺はルルリーアが好きだから、側に居るためなら誰だって頼るぞ」
……………?????
騎士団長の言葉が、するっと頭を通り抜けてから、くるっと身を翻して戻ってくる。
え?なに今の、なに??
「――い、いいいま、なんかさらっと、ここ、告白しませんでした?!?!」
「ん?ああ、そうだな」
「そそ、そうだな、じゃないですよ!!何そんな大事なことをっ!!!!」
肯定された。えっと、これって私の反応がおかしいの??
告白ってもっと、そういうのするぞーみたいな空気になって、トキメキとかドキドキとかキュンキュンとか、恋愛小説でよく見るそういうにやつを、二人してしちゃって、わーどうしようってなるんじゃないの!?!?
顔色をちらりとも変えない騎士団長を見つつ、自分の心臓に手を当ててみる。
実を言うとさっきから、私の心臓の動きをことりとも感じない。
きっと、騎士団長の今までの言動による高負荷のせいで、力尽きてしまったんだろう、無念。
「――で、ルルリーアは、どうする?」
「――あ」
そわそわし始める騎士団長。
……おっとそうか、返事、をするんだよね?
じっと、騎士団長を見る。
無表情に見えて泳いでる目とか、何かを堪えるように結ばれた口元とか、そんな些細な動きで、鉄面皮と評判の騎士団長が『そわそわしてる』のがわかる。
―――最初の頃とは違って。
殺気は飛ばしてくるわ、騎士に勧誘してくるわ、無理矢理固定魔法陣を教えようとしてくるわ、ドラゴンの首絞めながら乗るわで、本当に無表情でなんだって斜め方向に行動してて、本当にこの人何なんだって思ってたな。
でも、と思わず笑みが零れる。
いつの間にか、彼は私にとって頼れる人になっていて。
普段の斜め上からは打って変わって、欲しい手を、言葉を、態度をくれた。
じゃあ、ソラン君やアイリーン様、サラとは何が違うのか。
皆だって、助けてくれたし、励ましてくれた。……って、ああもう、私は馬鹿だな。
そこまで思い至って、吹き出してしまう。
違いを探すってことは、つまり、私にとって騎士団長が特別だってことじゃないか。
助力を請うてそれに応えてくれたから、じゃない。
異界にまで来て助けてくれたから、じゃない。
何がどうなんて、理由を挙げたってきっとそれじゃない。
全部の騎士団長だから、なんだ。
―――そう認めたら、素直な気持ちが、口から飛び出た。
「わた、しも、騎士団長、が――すき、です」
言った後、そろりと彼を見る。
ぽかり、と口を開けた、幾分か間の抜けた顔をしていた。……そんな顔ですら格好よく見えるんだから、恋とは凄いものだな。
と、感慨にふけっていたら、視界がいきなり高くなる。――え?
ふわりと浮いた後に、満面の笑みのライオネル様に受け止められた。
いま、わたし、なげられたよね?
固まっていると、また上へ投げられそうになったので、慌てて懇願する。
「お、降ろして、おろしてぇぇぇぇ!!!」
「すまん、嬉しくてつい」
ぽすりと、降ろすライオネル様。
降ろしてくれたけど、膝の上。そう、ライオネル様の膝の上に。
降ろす場所、違うんですけど!!そこじゃなくて、私の席に降ろして欲しいんですけど!!!
「………膝の上は、如何なものかと、思うのですが」
「???しかし、師匠は大事なものは囲い込んどけと、常日頃から実践しているぞ?」
ヴィディカさんは時折、旦那様を膝に抱き上げて愛でているそうだ。
彼はいつも顔を手で覆っているが、と言うライオネル様。
……私、キモチ、ワカル。
複雑な顔をしていると、絶対に勘違いしているであろうライオネル様は、自信満々に私へ告げる。
「国王陛下のことは任せろ。絶対に説得してみせるからな」
「ダメです」
ほら、やっぱり勘違いしてる。まったくもう。
一人で先走ろうとするライオネル様を、びしりと制する。
「私達二人のことなんですから、私も一緒ですよ」
そう言うと、ライオネル様は何故かぴしりと固まった。んん??なんだ???
まあ、とはいったものの、対策を考え込む。
何せ相手は一国の王だ。
私ってば、なんやかんやと祭り上げられているものの、国王陛下の意思を翻せるほどではない。
なんだろう、陛下の弱点はヴィディカさんに任せるとして、政治的なものはよくわからないから王弟殿下とかサラとかアイリーン様に任せるとして、その辺りの交渉はライオネル様に任せるとして。
―――あと出来ること、私に出来ること……。
「うーん……そうだ!!私と一緒になると、また異界に飛ばされるぞって噂を流せば!!くっくっくっ……そんな嫁なぞ誰も貰いたくないでしょう!!」
キタ、これだ!!!
更に異界から連れ戻せる人じゃないと夫になれない、とか条件を付ければもう絶望的じゃない??私に求婚してくるの。
いくら陛下でも、私に相手がいなくちゃ他を選べなんて言えなくなるだろう、私頭イイ!!!
私の完璧な案を自信満々にライオネル様へ披露すると、ずっと固まってた顔から笑顔になって私に頬ずりをしてきた、ぎゃあ!!!
「流石ルルリーアだな!完璧じゃないか」
「そうでしょう!!ってちょ、ちょっと、もうわかったから、頬ずりヤメテェェェ!!!心臓がっ!!!」
押しのけようとしてもびくともしない上半身に、悪戦苦闘していると、向かい側から咳払いが聞こえた。
《…………………………話は、終わったか?》
―――あ。
すっかり忘れてた。そういえば、天眼竜様いたんだった。
それはそれはとっても生温い視線なものだから、身の置き所がなくなってそわそわする。
ずり落ちないようにライオネル様にしっかり抱え直されつつ、再び膝上から降りるために抗い始めた方がいいのか迷っていると、溜め息交じりの天眼竜様の声が聞こえた。
《番合っていたと思っていたが、違ったのか?》
「こういうことは、きちんと言葉にするのが大事だ、と師匠に教わったからな」
間髪入れず、答えるライオネル様。
番合うってなに!?!?!?あの時もその時も、番合ってるなこいつらって思いながら話したりなんだりしてってこと、天眼竜様!?!?!?
こちらは衝撃の事実に打ち震えているというのに、ライオネル様と天眼竜様は何事もなく会話を続けている。
《言葉も大事だが、行動も大事だぞ?》
「そうだと聞いた。贈り物は何がいいだろうか。昔暴れまわったユニコーンを押さえた時に折れた角があるんだが」
そういってライオネル様の懐から出てきたのは、光り輝く何かの角。その言葉が正しければ、伝説のはずのユニコーンの角だ。
なんでそんなものを懐に、しかもむき出しで入れていたか、はさておき。
それを贈る当人の前に出して相談するのか、なんてこともさておき。
ユニコーンの角の価値は、私にはわからない。なにせ伝説だから。
だけどドラゴンの鱗よりも高価だってことは推察できる。なにせ伝説だから。
―――そんなもの、贈り物にしないでぇぇぇぇぇ!!!!
私の内なる悲鳴は全く届かず、暴走する二人は止まることをしらない。
《ううむ、確かに七色に輝いて美しいが、加工なしの折れた角を贈るより、何か、そうさな、装飾品に加工した方がよいぞ?》
「そうだな!!早速注文しよう」
《贈り物もよいが、日頃の気遣いが重要だぞ》
「ほうほう」
もう、贈られることが、決定している。
しかも、私を無視して、天眼竜様とどんどん話が弾んで進められていく。
ちょっと、ほぉぉんのちょっとだけ、むっとした私は、ライオネル様の襟元をぐいっと掴んだ。
無理矢理合わせた目を見ながら、自然と拗ねた声で物申す。
「――私への贈り物なんですから、私に、聞いて下さい」
そうしてくれないと家に帰りますから、まで言って、頭をぐちゃぐちゃに撫でまわされた。
――へ?な、なんで???
突然の暴挙に呆然としていると、またしても空中へと身体が浮いた。
さ、ささ、さっきよりも、めちゃくちゃ、高くなってるんですけどぉぉぉぉぉ!?!?!?
「すまなかったな、ルルリーア!」
「それは、もう、いいから、降ろ、してぇぇぇ!!!!」
「すまん」
「え」
「何故だか手が止められん!!」
「な、なんでぇぇぇぇ!?!?!?!?」
謝罪されながらどんどんと高くなっていく私。
すまんと言いながらも幸せそうな笑顔のライオネル様。
生温い目でワインを飲み始める天眼竜様。
……も、もう、限界っ、これは本気だ、本気だからな!?!?!?
私の渾身の叫びが、辺りに響き渡った。
「―――も、もう帰る、オウチ、帰るぅぅぅ!!!!」
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
連載を始めてから、三年間ちょっと、長い間お付き合いいただき誠にありがとうございます。
ルルリーアの物語としてはここで完結となりますが、本編に出せなかった設定的小話などを不定期に更新する予定です。
(突撃!話題のあの人は…ルルリーアインタビュー、(懐かしの)竜遊隊のおしごと、アイリーン様の日本食万歳など)
本編がルルリーア主体の話なので、視点がぼやけないために削られた設定たちの供養にお付き合いしてくださるそこの心の広い貴方様!どうぞよろしくお願いいたします。
また、現在書籍も最終巻に向けて、執筆中となっております。
webに掲載した話から、天眼竜様視点やルルリーアと騎士団長のやり取りを加筆する予定ですので、え?ちょっと気になる…となった美しい心をお持ちのそこの貴方様!ご検討頂ければ幸いでございます。
コミックスの『どうでもいいから帰らせてくれ』も発売中ですので、ルルリーア達が絵になって動いてるの見てみたい、となった心豊かなそこの貴方様!ご覧いただけますと幸いでございます。
活動報告に、書き終わってのあとがきを掲載いたしましたので、暇つぶし程度にお読みくださいませ。
最後になりますが、ここまで続いたのは、ひとえに今読んでくださっている皆様、今まで感想をくださった皆様のおかげでございます。
本当に、ありがとうございました!
また別の作品でお会いできることを願いつつ。
ねこにゃん(灰猫陽路)




