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プロローグ

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ザアザアと外に振る雨の音が、部屋の中まで響く。


 地面を叩きつけるような激しい雨。

 土煙のように水飛沫が上がり、王都全体を包みこんでいる。


 気象予報魔術師によれば、今日はずっとこうらしい。……憂鬱だな。

 膝に載せたダドラの鱗を、さりっと撫でる。



「それにしても、珍しいですね、兄様。騎士塔に来るなんて」



 私の部屋(仮)で、寛ぐ……にしては離れた椅子に座っている兄様へ話しかける。

 ……本当に珍しい。

 だって、いつもダドラが居るからって呼んでも来ないのに。



「……最近の目覚ましいお前の活躍を聞いて、な」

「……それって、嫌味ですかぁぁぁ!!?? おにいさまぁぁぁ!???」



 恨みのこもった声を上げる。

 目覚ましいって、辺境のことですかぁぁぁぁ!!?? あれは不可抗力だし活躍でもないぃぃぃ!!!


 猛抗議をしようとしたけど、兄様の顔が何か苦いものを飲んでしまったような、渋い顔になっている。


 ……どうしたんだろう??

 最近処方された、凄くよく効くって喜んでた新しい胃薬、実はもの凄く苦いのかな??


 なら、まあいいか。

 それよりも、言いたいことが山盛りなんだよ! 兄様!!



「そうそう!聞いてくださいよ!兄様!!」

「……なんだ??」



 私の膝の上で丸くなってる、ダドラを持ち上げて兄様の眼前に差し出す。

 少し顔を青くした兄様が、腰を浮かそうとするところへ更に近づける。


 ダドラの胴体をがっちり掴んで、兄様の目の前でゆらゆら振る。



「ほらっ! 見て兄様!!」

「お、おいこらっ!! ドラゴン近づけるなっておい!! リーアァァァ!!!」



 ダドラを頬に押し付けると、真っ青になって叫ぶ兄様。

 押しのけようにも、後ろは椅子の背、前はドラゴン、と動けないみたいだ。


 ……そう、こんな荒っぽい事をしても、ダドラはぴくりともしない。



「こんなことしても、ダドラってばちっとも起きないんですよ……」

「い、いいから、わかった聞くからドラゴンを退けろっ!!」



 え? 退けるんですか??? 鱗、ひんやりすべすべで結構気持ちよくないですか??


 ……わかりましたって、冗談ですよ。

 そんな絶望を押し付けられたような顔をしないで下さい、兄様。


 兄様の頬から私の膝にダドラを移すと、兄様はあからさまにほっとした表情をする。

 そして、何かを取り戻そうとするかのように、小さく咳払いをして乱れた姿勢を整える兄様。



「……で??」

「ダドラのことです。前からよく昼寝はするけど、最近じゃ起きてる時間のほうが短くて……ソラン君に色々調べてもらったけど、結局何も理解らなくて……」



 済まなそうにしていたソラン君の顔を思い出す。

 後でサラやアイリーン様にも相談するって言ってたな。……仲良くなったなぁ、三人共。


 因みに魔術師団長と神官長は、野次馬だった。

 魔術師団長は診察に加わってくれればいいのに、とソラン君に言ったら、どうも遠くから協力してたらしい。というか神官長も助力してたみたい。

 判りにくいよ!!! 素直に近くに来て診察なり調査なりすればいいじゃないかぁぁぁぁ!!!!


 まったく、いつになったらドラゴンに慣れるのだろうか、あのドラマニアたちめ。

 

 ……そう、ということは、ダドラが死んだように寝る原因が、魔術師団長にも神官長にも解らなかったってことになる。……この国では既にお手上げ、ということだ。



「ダドラがもし病気とかだったら、ドラゴンだから治療とか理解らないし……天眼竜様なら理解るかも--」

「なあ、リーア」



 焦りから早口になる私を遮って、酷く真剣な顔で兄様が私に問いかける。

 ……??? なんだろう???


 問い詰めるような非難するような声で、兄様は真っ直ぐ私に言う。



「お前はどうなんだ」

「え?」



 ……どうって、何がどうなの???

 心当たりのない私。え? 何言ってるの兄様??

 

 混乱しか無い私。特に思い当たらないので、素直にそう返す。



「どうって……どうもないですけど??」

「……まったく……お前と来たら」



 溜息と共に、兄様が、物分りの悪い子を見るような目で、私を見てくる。

 えっちょっ、本気でわからないんですけどぉぉぉぉ!!???

 その視線は、大変に遺憾なのですけどぉぉぉぉぉ!!!???



「何年、お前の兄をやってると思ってるんだ」



 兄様が、組んでいた腕を解いて、こめかみの辺りを揉みだす。

 そして、至極自然のことのように、さらりと言った。



「お前の滲み出る、なんというかな、何かをやらかすオーラが、薄くなっているような気がする」

「なんですかその何かやらかすってぇぇぇぇぇ!!!」



 膝のダドラを一旦机へ置いて、兄様へ詰め寄る。



「そんなオーラ出てないわ!!! むしろ薄いほうがいいか、じゃなくて!! 元々出てないからっ!!!」

「ぐふっ」



 兄様の襟首を掴んで揺らす。すると、降参するように私の腕をタップする兄様。

 どれどれ、撤回するなら、今の内だよ?? 兄様???



「マーニャに聞いたんだが、最近のお前、眠りが深いみたいだな」

「……え? それっていいことでは??」


「一度枕元で水差しをひっくり返したらしいが、それでもお前は起きなかった」



 真剣な顔の兄様に言われて、その内容にぞわりと寒気が走る。

 ……私も、ダドラと、同じ???


 頬から血の気が引いた私の頭を、くしゃりと撫でられる。

 視線を上げると、ちょっと情けない顔をした兄様がいた。



「俺はドラゴンよりお前のほうが心配だよ」



 に、にいさまぁぁぁぁ!!!

 うわなんだこれ、もの凄く心配してくれてるぅぅぅぅ!!!

 流石、私のにいさまぁぁぁぁ!!!!



「あ、ありがとう兄様っ!! 今度幻影の兄様を呼び出す時はもっと慎重に「ちょっとまて」え??」



 なあに? 兄様。今感謝の言葉の途中なんだけど??



「なんだ? その『幻影の兄様』って言うのは?」

「え? たまに兄様を呼ぶと、幻影の如くぼんやり現れてくれるので、そう呼んでます」


「なんだそれはっ!!???」

「なんだ、と言われても……出てくるので……」


「で、出てくるっ!!??」

「はい、ちょっと危機を感じたときとかに」


「き、危機っ! そんなときにっ!???」



 そう叫ぶと、何故か悩みだす兄様。

 そして何かに思い当たったように、顔を上げる。……あっなんか怒られそう。



「……そう言われてみれば最近疲れやすくなった気も……はっ! 何か妙なものを見たような気もっ!???」

「気の所為、気の所為ですよーにいさまー」



 うんそうそう、気の所為。私そんなこと、出来ないもんねー。

 それじゃなかったら、兄様の、あれですよ、すごい技なんじゃ?? わあすごいニイサマ!!



「じゃあ、帝国の危機とか堕ちた英雄とかそんなのの前に俺を??」

「あ、その時は呼んでないです」

「それなら……じゃないっ!?」



「やめろ、今すぐやめろ、本当にお願いだから止めてくれっ!!!」

「えーー???」



 そう言われてもなー自然とこう呼んじゃうからなー。



「おいこら聞いてるのかリーア!!!」



 兄様の声を聞き流しつつ、ダドラを撫でる。


 ……確かに、そう言われると、あの旅から帰ってきて私疲れやすくなってる。

 思い返してみれば、話をしてても寝落ちしそうになったり、すぐ座りたくなったりしてたな……。

 それに、眠りまでダドラと同じくらい深くなってたなんて……。


 ---ガガンッ


 何かがガラスに叩きつけられた。

 暴風だからだろう、窓ガラスが音を立てて揺れる。……予報は当って今夜は嵐だ。


 窓を見ると、滝のように雨水が流れて外の景色が滲んでいる。



 ---そうか、私も、ダドラと同じ、病気なのかな??



 小言を言う兄様の声を子守唄に、ダドラの重みを感じながら目を閉じた。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

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