1話
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ルメール王国の地を踏む。
・・・・・ああ、帰ってきたな、と感じる。
王弟殿下より、陛下や宰相閣下への挨拶と報告に私は来なくてよい、との仰せ。
よし!!よしよし!
私には今やらなきゃいけないことがあるのだ。
まず、私がどう動くかを決めるために、情報通サラ様の元へ急ぐことにした。
・・・おっとその前に、彼らの元へ行かなくちゃ・・・。
うわぁ・・・気が重い・・・。でも行かなくちゃ・・・・。
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---ウェール伯爵家・王都別宅
「・・・行く先々で、やらかしてくれるわね」
珍しく頭を抱えるサラに、まあまあと紅茶を勧める。出されたものだけどね!
・・・・色々とお願いする立場だからな。ささ、サラ様どうぞどうぞ!
そんな私を胡散臭げに見るサラに、私は身を削って手に入れたものを取り出す。
「サラ、はいこれ」
「・・・・・・これ」
以前サラが欲しいっていってた、魔法師団長の『最新のドラゴン観察資料』と神官長の『初版の賢王伝記』の要点をまとめたものを手渡す。
「どうやったの?確か、手に入るのは半年後、じゃなかったかしら?」
「・・・・マニアたちに、直接聞きに行った」
その時の精神的疲労を思い出して、クッションに顔を埋める。
神官長は、終始にこやかな顔で丁寧に教えてくれたのだが、合間合間の資料に宣誓書を紛れ込ませ、『神殿に興味はありませんか』と言って、スキあらば神に宣誓させようとしてきたなぁ。
・・・・あのとき『ご乱心じゃァァァァ!!』と叫んでくれた神官様のお陰で逃げ切れた。本当にありがとうございます。
魔術師団長は、最初は普通に資料を見せていてくれていたのだが、私の『龍紋』を見るなり奥の恐ろしげな扉に引きずり込まれそうになった。怖いよ、何するつもりだったんだよ怖いよ。
・・・・あのとき『今のスキに早くぅぅぅ!!』といって逃してくれたあの魔術師様のその後が気になる。大丈夫だったかな?
そんな忌まわしい記憶を思い出していたら、どうやらサラが読み終わったようだ。
「・・・なるほどね」
そう言うと、手渡した資料を火魔法で燃やした。
・・・・・うん・・・その必要性は理解るけど、頑張って書いたやつだからちょっぴり悲しい・・・。
「説明するわね」
サラは足元のタイルを踏む。すると、地図が出てきた。
・・・・・サラのことだもんね!敢えて突っ込むまい。
机の上に広げられた地図は、え、これってまさか国家機密なんじゃ?疑惑を十分に持てる精密な地図だった。
・・・・つっこまないよぉぉぉ!!??サラ様ぁぁぁ!!
なんて私の声なき声が聴こえるわけもなく、サラはその地図の、丁度コロセス遺跡辺りに指を置く。
「ここ、コロセス遺跡には『龍の封印』がなされていた。・・・リーアが開放したやつね」
「それは濡れ衣ですぅぅ!!サラ様ぁぁぁ!!!」
そんな切なる私の叫びを、サラはまるっと無視した。
・・・この感じ最近結構されてる気がする。
サラはコロセス遺跡から、左右にまるで道の流れみたいに、指を往復させる。
「コロセス遺跡を起点に、『龍脈』なるものが、古代には流れていたとされているの」
また帝国のコロセス遺跡を指差し、そのまま下へ指を下げる。
「更に、その真下は東ルメールになる。そして」
東ルメールから、また道の流れみたいに、指を往復させる。
「東ルメールを起点に、『竜脈』が流れてるの。・・・ここまではいいかしら?」
「うん!分かりやすい地図のお陰でわかったよ!」
では本題ね、と座り直すサラ。
・・・分かりやすいには反応してくれないのか、サラさんや。
って、ん??本題???
「貴方の『龍紋』と対になる存在が在るはず。それは恐らく東ルメールに封じられていたわ」
「え・・・封じられて『いた』??」
過去形であることに疑問を抱く。
・・・それってもしかして。
「そう、あの忌々しい5年前の事件。あの時に『堕ちた英雄』が『竜紋』を持ったことは間違いないわ」
そう言うと、サラはじっと私の目を見る。
・・・・あの時、のことか。
私は少しだけ目を伏せる。
「恐らく、『龍脈』と『竜脈』の重なる場で、リーアの『龍紋』とアルカイオスの『竜紋』を使って、今度こそ本気で、邪竜を召喚するはずよ」
・・・ってことは私がその場に行ったら、邪竜復活の手助けになるかもしれないってことか。
どうするべきか考えている私に、不自然なほどに明るく、サラが言う。
「ねぇ、リーア。相手はかの『堕ちた英雄』よ?『大陸の守護者』と呼ばれていた彼の武力も然ることながら、『死霊のイオ』の配下にいる組織も、侮れないほど強大よ?」
サラがそっと私の手をとる。その手は少し冷たくなっていた。
・・・サラも緊張してるのかな。
「だから、これにリーアが無理して関わること、ないわ?」
甘く甘く、優しい声で、これしかないとばかりに畳み掛ける。
・・・でもね?サラ、それは出来ないんだ。
「邪竜の復活にはリーアが必要。大人しく厳重な牢に入っていてくれれば、リーアは傷つかず、全て丸く収まるのよ」
「・・・それで、あいつらの企みは全部潰せるの?」
そう聞くと、サラは苦々しい顔で応える。
いつだって、私を知らないところで守ってくれてたサラ。
そのサラが守りに入るなんて、私を閉じ込めておこうとするなんて、それじゃあまるで。
私しか、王手を賭けられないみたいじゃないか。
「・・・どこぞの国が、匿っているようね。・・・奴らの居る本拠地は、ルメール中枢も、私も、掴めていないわ」
「でしょ?それなら、囮になって私を目印にするのが一番だよ」
私はサラの手をギュッと握り返す。少しでも暖かくなるように。
そして、サラの目を真っ直ぐ見て、私の我儘を言う。
「っていうのは建前で。あの時私決めたんだ。あの緑野郎を、絶対に一発殴るって」
にやりと私が笑うと、サラは天を仰ぎ始めた。
「・・・・わかってるわ。リーアがその顔で一度決めたことだもの」
「てへへ」
そう軽く笑うと、サラは普通の少女みたいに泣きそうな顔になって、私をぎゅっと抱きしめた。
「・・・ちゃんと、帰ってきてね」
「・・・うん」
「・・・傷でも付けたら、塩塗りたくるわよ」
「・・・うん・・ってそれ痛いからァァァ!!??」
そっと離れると、サラはいつものごとく、古の邪悪なるダークドラゴンが、懲りもせず逃げ出そうとする獲物に喰らいつこうと言わんばかりの笑顔で、こっちを見てるぅぅぅ!!!
「・・・死んだら、殺してやるから」
「・・・うん、死なないように、頑張るよ」
再度手を握り合って、サラの目を見る。
心配そうに揺らぐ目を見て、不謹慎ながらも、顔がニヤけてしまった。
「大丈夫、力の限り帰ってくるよ」
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---王宮・魔術師塔研究室
「えっ!?お、囮ぃぃぃ!!??リーアがっ!!!???」
そう叫んで、私に淹れてくれた筈の紅茶が、注がれすぎてドバドバと溢れる。
愕然とした顔でコチラを見てくるソラン君。
ま、そうなりますよねぇーー。
驚きすぎて固まるソラン君に、申し訳ないな、と思いつつお願いをする。
「えー、それでですねー。身を守る系の魔法石を、ちょっとばかり貰えないかなーと・・・」
「・・・・なにそれ」
そう私がお願いすると、不貞腐れるソラン君。
あー、無理なこと言っちゃったかな・・・。アレ高いもんな・・・。
やっぱり、と言いかけて、ソラン君にギロリと睨まれた。
「『友達が本気でそれを望んでるなら、願ってるなら、利用?なんなのどんとこい』なんでしょ」
ムッとした顔で、ソラン君は、私が前にソラン君へ言った台詞を繰り返す。
・・・おうおう、覚えてたのか。改めて言われるとちょっと恥ずかしいぞ??
「いつもの、傍若無人なリーアで頼みなよ」
「・・・てへへ。じゃあ、遠慮なく」
手をソラン君の方に差し出して、きっぱり言う。
「役に立ちそうな魔法石だせや!」
「言い方ぁぁぁ!!!」
素直にきっぱり言ったら、ソラン君に額を叩かれた。
えええぇぇぇえ!!??言われたから素直に言ったのにぃぃ!!???
叩かれた額を擦りながら、恨みがましい目で見ていると、ソラン君は真剣な顔でぶつぶつ呟き始めた。
「・・・やっぱり物理攻撃無効は必要だよね・・。あとは属性毎の相殺魔法を込めて・・・」
すごい勢いで、高価そうな宝石をじゃんじゃん出してきて、なにやら複雑な魔法陣を込め始める。
・・・あっちょっ、いやいやそんな貴重なもんまで・・・・。
うわっ、ダイヤモンド、ぁあうう!ピンクダイヤがぁぁぁ!!??
「あ、あのー、ソラン君??あんまり高価だと、持つのがちょっと・・・・」
「高価な宝石ほど、高度な魔法陣込められる、だから却下」
そう言いつつ、複雑な魔法陣が込められた魔法石がどんどんと積み上がっていく。
・・・え、これ私使いこなせるの??
「あのーソラン君よ。ワタクシ、複雑な魔法石を、使いこなせる自信微塵もないんだけど」
「ソレは想定済み。防御系はこっちのネックレスにつけるから、自動防御してくれるから」
そう言うと、これまた高価そうな玉鎖に、器用に魔法石を付けていく。
・・・・うーん、ゴテゴテ宝石がついてて、悪趣味な感じなんだけど、これ付けるの?私??
「こっちの袋には、攻撃系の魔法石入れるから、適当に放り投げればいいようにしておく」
おお!!それなら私にも出来る!!
・・・ってソラン君の中の私、どんだけ出来ない子なの?まあ正解なんだけど、てへ。
すっと私の右手を取ると、ぺちんと叩くソラン君。
「この陣に入れとけば気づかれないから、とりあえずこのネックレスだけ入れとく」
おぉ!右手甲に魔法陣が!!
その中に、ソラン君がさっきのゴテゴテネックレスを放り込む。
これすごいな!!・・おおおおおお!右手からネックレスが生えてるゥゥゥゥゥ!!!
「・・・いや、これじゃだめだな・・・もっと・・・」
「おーい、ソランくーん?」
難しい顔をしながら、攻撃系といった魔法石を眺めては放り投げを繰り返す。
と、こちらを向き直る。目が据わってるよソランくん!!!???
「攻撃系の魔法石は、もうちょっと時間ちょうだい」
「えっ、あっ、はい。・・・あー、ほどほどでね?」
恐ろしい程高く積み上げられた宝石たちに、自分で頼んだことではあるが、色々と心配になってきたぞ??
「と、いうわけで」
襟首を掴まれて、ソラン君の研究室から放り出される。
・・・・え?あれ???
「用意するから。それまでに捕まったら許さないよ?」
パタン
「はれ??」
廊下に締め出されて、呆然としつつも自然と口角が上がる私。
・・・・・まったく、ソラン君め。
これじゃ、ありがとうが言えないじゃないか。
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