58.クラス内トーナメント3回戦リンダvsシノグ
リョウ視点とシノグ視点です。
2、スート○vsソルン●
俺は試合が終わったソルンの治療に向かった。
遠目から見ていたが、あのリミットブレイクは確かに強力なものだが、身体の限界を無理矢理外す物だから多用はさせられないし、1歩間違えばこの体育館であっても死ぬ可能性がある。
確かに身体的ダメージは軽減されるこの体育館だけど、それでも身体の器官が壊れない訳ではないし、生命力が無くなってしまえば死んでしまう。
これは、しっかりとお説教が必要だな。
このトーナメントにかけるソルンの思いはわかったが、だからと言って命を掛けて良いわけではない。
もっと自分の身を大切にしてほしいからな。
「リラックスヒール!、マジックサプライ!」
気を失っているソルンに生命力、精神回復と魔力を受け渡して回復させる。
すると、戦う前よりも明らかに生命力、魔力共に限界値が超えていた。
まあ、あれだけの生命力、魔力を強引に使って身体を酷使すれば限界値がそれだけ上がるのは当然だろう。
だからといって、こんな強引な上げ方は推奨しないけどな。
そう考えると、よくスートは勝ってくれたな。
このままソルンが勝ち上がっていたらおそらく次の試合では更に無理をして、今よりも危険な状態になったのは間違いないだろう。
それを防いでくれたから、1番の功労者はスートだろう。
しかも、必殺の技を放った後それを囮にした身体強化で一部だけ超強化して高速で相手の後ろへと音もなく回り込み、止めをさす技まで作り出していた。
スートの強力な技があるからこその攻撃であり、これだけ生きる技でもある。
しかも、これの肝はイメージの強さというよりいかに速く動き、そして自分から意識を外させるかであり、最後の一撃の正確ささえあれば成り立つ。
低コストで強い一撃、これでスートの攻撃が更に強化された。
カリバーンとスート、どちらが決勝へと進むのか楽しみだ。
《、、んぅ、ん?、リョウ?》
ゆっくりと目を覚まして辺りを見渡して俺の姿を確認したが、自分の現状をまだ把握できないみたいだ。
「気がついたか、全く、あんな無茶なもん作りやがって、いいか、あれはこの体育館で使うにしても危険な代物だ、だからあんな力に頼らない強さを身に付けろ、まあ何よりもソルンが無事で良かったよ。」
《ごめんなさい、どうしても勝ちたいって思ったから、つい無理しちゃった、次から気を付ける。》
「まあ、気持ちはわかるから気にするな、これを糧に強くなりゃ良いんだよ。」
《うん、あたし頑張るね!》
そう言って笑顔になったソルン。
これで、回復も終わったことだし、3回戦最終試合を見るとしよう。
リンダvsシノグ、普通に考えればリンダが勝つだろうが、シノグの成長速度があれば戦闘が長引けば長引くほどシノグ有利となる。
けれど、シノグにとっては初めての圧倒的強者との対戦だ。
これがどんな影響をシノグに与えるのか物凄く楽しみだ。
俺は試合開始を今か今かと待つ。
次の対戦相手がどちらになるかを楽しみにしながら。
∨∨∨
よりにもよって相手がリンダとは、俺も運がないよな。
俺は試合開始場所まで歩きながらそんな事を考えていた。
少しでもリョウやカリバーン、先程のスート、今回のリンダのような強者と戦うためには明らかに今の俺では実力不足だ。
しかも、良くも悪くも勝ち上がった次の試合の対戦相手はあのリョウだ。
リョウと戦えるのは嬉しいのだが、その前の相手がリンダとなれば話は別だ。
リョウに対して、重すぎるとも思えるような愛情を向けるリンダ。
その執着心は生半可な物ではなく、次の対戦相手がリョウだとわかっている今の状況ではモチベーションがこちらが思わず引いてしまう程高い。
その証拠にさっきからリョウの方をチラチラ見ながら表情を緩め、こちらを見て戦闘意欲を上げるといった行動を繰り返している。
いやほんとに、こういうところが無ければ、おそらく最高の女なのだろうけど、いかんせんマイナスが大きすぎる。
まあ、リョウの女である以上手なんか出すわけはないし、そもそもこんな性格のリンダを普通に相手出来てるリョウにはもはや、尊敬を超えて崇拝するような気持ちになる。
さて、そんな事はどうでもいいとして、ようやく試合開始地点に着いた俺とリンダが向かい合う。
お互いに向き合った瞬間、リンダは先程リョウに向けていた笑顔を消し去り、物凄いプレッシャーを放ってくる。
これまで戦ってきた相手など歯牙にもかけないほどの圧倒的な存在感、それはまだ試合が始まってもいないのに気を抜けば心を折られそうな位だった。
だが、俺はそんな状況だが自然と笑えてきた。
次の対戦相手であるリョウはこれよりも更に強く、圧倒的な存在感を持つのだろう。
先程も言ったように今はまだリョウ達のような強者と戦うには実力が足りなすぎる。
けれど、リンダを相手に勝つことができるのなら、ようやく強者と戦うための準備が整う。
そして、そんな強者の強さを見て、吸収し、更に強くなれば優勝も見えてくる。
だからこそ、この一戦は俺にとって重要な試合だ。
俺の成長速度はこの強者達に追い付ける程の物なのか、俺の実力の全てを掛けて試す。
幸い、リンダの武器は自在剣という珍しく使い手の少ない癖のある武器だ。
変幻自在で滅多に使い手のいない武器のため、戦いづらいと思われがちだが、先程も言ったように、癖もあり、使い手の少ない武器であるということは、それだけ相手の動きを読みやすいとも言える。
だから、俺との相性は悪くは無いはずだ。
まあ、間合いの関係でそのアドバンテージも生きるかはわからないが。
そんな試合へ向けてイメトレしていた所で、審判が上がってきた。
《さあー!、3回戦最終試合を始めるよー!、私ルイがこの試合を担当しまーす!、準備は出来てるね!、じゃあやるよー!、試合開始ー!》
先制攻撃はリンダの自在剣による変幻自在の攻撃。
出来れば距離を詰めて、仕留めたいがそんな甘い相手ではないし、近づけば近づくほど攻撃の激しさは増していく。
癖も掴めず、実力も足りていない、そんな状態で無策で突っ込むのは勇気や度胸でも何でもなく、ただの馬鹿だ。
こんな貴重な戦いの時にそんな馬鹿みたいな真似はしていられないからこそ、まずは慎重に様子を見る。
そもそも、俺の成長速度という特徴を活かすなら長期戦が最も効率が良い。
強くなるためにも、勝つためにも、まあ、それでもまずは攻撃を防げないと意味はないんだけどな。
迫ってくる刃を剣で受け流そうとして、突然軌道が代わり、俺の剣を持つ腕に攻撃を仕掛けられる。
それを避けると、今度はすかさず追撃してくる刃、今度は叩き落とそうと構えると、軌道を変え上から迫ってくる。
変幻自在でこちらの攻撃に合わせて軌道を変えてくる厄介さ、俺の想像以上に面倒な武器みたいだ。
自在剣の直撃を避けていると、知らぬ間にリンダが間合いを少しずつ詰めてきている。
まだリンダの癖も掴めていないし、これ以上攻撃が激しくなってしまうと、もう防げなくなってしまう。
俺は何とか自在剣の軌道をギリギリまで見切り、距離を開けようと試みる。
自在剣をギリギリまで自分に近づける事で俺がガードしようとして、それをすり抜けて攻撃を当てるように軌道を変えさせる事で、軌道を変える僅かな時間で攻撃の射程から外れる。
少しだけ距離を開けられたため、攻撃が緩み、少し余裕が出来た。
ただ、この作戦はもう通じない。
これは、フェイントを掛けられてしまえばどうしようもないし、俺は防戦状態のため、常に先手を取られてしまうから、1歩間違えばそれで勝負が決まってしまうかもしれない。
だからこそ、次に追い詰められるまでの間に何とか対処法を見つけるしかない。
より集中力を高め、自在剣の動き、リンダの挙動、視線など、この戦闘の一挙手一投足を見逃さないように全てを見渡す。
そして、遂に剣の軌道を読むことに成功し、受け流すために俺の剣をぶつける。
だが、そこで俺は余りの剣の重さに驚く。
こんなに変幻自在の動きをしているのに、普通に斬り合うのと変わらないか、それ以上の重さを持っていた。
このままではまずいと判断して、剣が弾かれる勢いのままそれに合わせて自分の身体を吹き飛ばし、身体への負担を減らす。
だが、それのせいでせっかく開けたリンダとの距離が縮まってしまい、攻撃の激しさが増してしまう。
ここは覚悟を決めて身体強化を使う。
ほんとはこんな防戦のタイミングではなく、攻めのタイミングで使いたかったのだが、それで負けたら元もこうもないため、惜しまず使うことにした。
そして、慣れてきたリンダの自在剣の軌道を読み切り、いつでも弾かれそうになっても反応できる余力を残し、自在剣を受け流す。
身体強化してようやく互角になって、俺は内心で舌打ちをするしかなかった。
今の俺の力では身体強化しても五分でしかない。
少なくても、こちらが上にならない限りは勝ち目はないため、神経を研ぎ澄まして自在剣を受け流しながら、身体強化の効率をあげていく。
ようやく、苦もなく自在剣を受け流せるようになった頃にはようやく動きの癖が読めてきた。
そして、自在剣を大きく弾き、反撃に出るため距離を詰めて、剣を振り下ろす。
瞬間、悪寒を感じ咄嗟に回避を選択し、少しだけ距離を開ける。
すると、攻撃していたであろう位置に高速の横凪ぎが放たれていた。
弾かれた自在剣を元の剣に戻し、カウンターを放ったのだろう。
自分の直感に感謝しながら、また自在剣で攻撃される前に俺の間合いで戦うことを選択する。
だが、攻撃を仕掛けた俺は剣を持ったまま軽く吹き飛ばされる。
さっきの自在剣状態も重かったが、それとは比べ物にならない程の重さを持った一撃だった。
しかも、距離が空いてしまったため、また近づかなければならない。
相変わらずの劣勢ながらも俺は嬉しくて笑みがこぼれてくる。
今までの戦いとは違い、俺の成長速度を持ってしても一向に主導権を握れない。
それでも自分の動きが洗練されているのは自分がよくわかる。
どんどん研ぎ澄まされ、歯車が噛み合ってくる感覚、まだまだ戦える!
自分に活を入れて、再びリンダとの距離を詰めていく。
けれど、俺の特徴を知っていたのか、リンダの動きは先程俺が見てきた動きと大きく違っていて、再び俺は防戦するしかなくなった。
全く、スペックの無駄遣いとか言われてたけど、ほんとにその通りだよ!
癖を意図的に変えるとか訳がわかんねぇ!
そんな中でも徐々に調子が上がっている俺は何とかその動きにも対応していく。
そして、再び悪寒、そしてリンダの様子を注意して見ると、それだけに集中しないと見えないかぐらいのレベルで少しずつ技を作り上げていた。
そして、それが完成してしまう。
《幻真蛇剣、ヒュドラ!》
そして、リンダの自在剣から追加で7つの同じ刀身が現れ、8つの刀身があらゆる方向から俺に向かってくる。
俺はこれを無傷で乗り越えることが不可能であることを悟る。
だが、諦めてもいられず、必死に打開策を思考させる。
まるで時が止まっているかのようにも感じるほど俺は高速で、いや超高速で思考する。
そして、気がつく。
自分の今の時間の流れに。
時が止まるほどの脳の処理速度を利用して、技のイメージをこれでもかというくらいに固めていく。
それこそ、何者にも破られないように。
そして、完成した技が俺へと迫るリンダの技へと放たれる。
「メモリーオリジナル、我流ライフォルト!」
これは俺が見てきた技を我流に作り替えるもの。
このライフォルトは、俺がエルンの使う技を改良したもので、既にエルンの技とは異なり、現れるのは8匹のドラゴン、それが8つの刀身とぶつかり合う。
そのうちの2つは幻影であり、その幻影が技を消す。
詳しい効果はわからないが、とりあえず下手な技を選んでいたらどうしようもなかったと思いながら、技同士のぶつかり合いの結末を待つ。
6つの刀身と、6つのドラゴンがそれぞれのエネルギーを削りあっていき、やがて俺のドラゴン達が刀身を打ち破り、リンダへと迫り、全てが命中する。
《そこまでー!、勝者シノグ!》
こうして俺は強者達の領域に1歩踏み込むことができた。
次回更新は6/24です。
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