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第14話 一回生



 私のあの第一王子事件、あれを知ってる人たちはみんな無事に二回生へと上がっていった。

 だから、喜ばしいことに私を恐れる人などいない──はずだった。

 ぽつんとひとりで席に座る私。なぜこうなった。

 そろっと首をめぐらせば、目が合う子たちが片っ端から逸らしてく。今回、一回生のほとんどが平民や商人とかいう、貴族以外の出身の子が多いらしい。だからなのか、エレナのバックにビビって誰も近づいてくれない。


「席に着きなさい」


 現れた担任はまたしても、あのお堅いダグラス先生で。


「グレイフォード。あれほど、勉学に勤しめと忠告したというのに……」


 可哀想な子を見るような目で見られるから、余計に周りに距離が生まれた。ダグラスせんせぇぇぇ!


「こんなことにならぬよう」

 

 やめて!私を引き合いに出さないで!どうしよう、来年も留年とかだったら……。

 ダグラス先生は、去年と同じことを言って去っていった。だったら、新しく私のこと話題にする必要なかったんじゃない!?


「あのぅ」


 いや、まあでも、つまり勉強は去年とおんなじことをやるわけだし、まだなんとなく内容も覚えてるし大丈夫だ。

 この条件で次もダメだったら、もう留年じゃなくて退学考えたほうがいいよ。エレナちゃん。


「すみません、エレナ様」

「…………えっ」


 はっと顔を上げれば、エメラルドグリーンの巻き毛にオレンジの目のキャロットガール。

 おお、ゲーム色きた。整った顔してるからなのか、三次元でも違和感なくおさまってる。そんな可愛い子がにこりと笑った。可愛い。


「わたくし、ひとりなんですの。それで、あの、よろしければ校内案内をご一緒させていただいても、よろしいでしょうか」


 校内案内?

 あ、そっかそうだった。五回生の人がすでにふたり来てた。って、ベンジャミン!またか!

 目が合って軽く、いや、ブンブンと手を振られた。ベンジャミンの隣の男の子が迷惑そうに見てる。これまた神経質そうな子とペアになってるなぁ。面倒見がいいのかな、よさそうだな、ベンジャミンは。


「あの……」

「あっ、あぁ、えぇ。もちろんよろしくってよ!」


 あっぶな!せっかく寄ってきてくれた子を、みすみす逃すとこだった!

 勢いこんで身を乗り出したら、ちょっと驚いた顔したあと、またふんわり微笑んでくれた。可愛いわぁ〜。




 ♯




 キャロットガールのお名前はミザエラ。彼女もマルガレータお嬢様と一緒の伯爵という爵位の家らしい。

 だけど、同じだねって言ったら「とんでもありません、わたくしの家など」と首を振られた。同じ伯爵は伯爵でもいろいろあるらしい。


「本当ならば、エレナ様のように高貴なお方にわたくしがお声がけするなどとてもとてもできません。ですから、エレナ様がご寛大なお方で本当によかったですわ」


 爵位がどうとかで、友達ができないなんてとんでもない。どうか、どんどん話しかけて。いつでもウェルカムですから。


「実はわたくし、エレナ様よりもふたつ年下なんですの」

「え?」

「だから、とても不安で」


 待って、ふたつ?ひとつ年下なのは、私が留年したから当たり前だけど、ふたつってどういうこと?


「本当でしたら、来年入学する予定でしたの。だけれど、両親の強い勧めで一年早く、入学試験を受けましたの」


 ってことは、実質飛び級みたいなもんか。

 ええー、そっか。すごいなこの子。だってまだ四、五歳なんでしょ?


「水の精霊を操るのが得意ですの。ですから、将来は医療系の白魔女になりたいと考えてますの。わたくしの父は医者でして」


 しかも、将来とか言い出した。最近の子は成長が早いっていうけど、これは早すぎじゃないか。私、大学生なのになんも考えてないわ。今違うけど。


「エレナ様は、どのような魔法をお使いになられるの?」


 よく喋る子だなぁって思ってたら、突然振られた。しかも、なんとも答えにくい質問。つーか、答えられない。


「え、えぇっと、あたくしは〜……」


 まさか、使えないだなんて言えないし、闇の精霊なんてもっと言えない。


「エレナ!」


 タイミングよくお声がかって、見れば、あのフレデリク王子がお目見えした。ナイスタイミングだ。


「まあ! フレデリク様!」


 目を丸くして、驚いたような表情を見せて反応したのは、隣のミザエラちゃんだった。あら、知り合いだったのか。


「む。誰だ、お主」


 いや、どっちだ。

 もうちょっと、柔らかく言ってあげてもいいんじゃないの、ねえ。ほら、ミザエラちゃんだって落ち込んで──ない。え、あれ。私なんだか睨まれてない?なぜ?


「エレナ! この後、茶でも飲まないか。この学院には温室があってだな」


 それに気づかないフレデリク様。ぱっとこちらに笑みを見せると、私の腕をグイグイ引っ張る。

 待って待って、見てわかるでしょう今学校案内中!他の子たちすごく見てる!ベンジャミン助けて!無理なんて言わないでさぁ!


「えぇっと、素敵なお誘いをありがとうございます。ですが、」

「む。なんだ、断るというのか? このおれの誘いを?」


 おい、誰だ身分関係ないどうとか言ったやつ!威圧感ハンパないんですけど!?

 威圧感といえば、先ほどからミザエラさんはなんだってそんな殺気立った視線を投げてくるんです?あれ、おかしいな。なんだか気づいちゃいけないものに気づいてしまいそうだぞ。

 と、その瞬間。


「おい、エレナ帰るぞ」

「あぁジールお兄様大好きですわ!」

「ハァ?」


 今この状況でいくら本気の「お前頭大丈夫か」って心の声が聞こえても、全くもって気にならない。よくぞ迎えに来てくれた、なんて素敵なタイミング。


「一年間通ってたのに、まだ校内覚えてなかったのかよ」


 そこで、フレデリク王子に気づいたジール。あ、という顔をしてぺこりと頭を下げた。それだけ。


「行くぞ」

「えっ」


 いいの!?そんなんでいいの!?


「な、ま、待たぬかジールよ!」


 案の定、おもしろいぐらいに動揺してるフレデリク王子。

 周りの子達が唖然としてたのは最初だけで、今やこれからどうなるのかと、わくわくした目で見学してる。どうしてどこまでいっても見世物なの……!


「なんでしょう」

「なんでしょうとはなん、」

「この学院では、身分などという無駄なものを棄てることができるのです。……んな機会、卒業しちまったらこの先ぜってぇ手に入んねぇぞ。享受しとけ」


 突然に口調が変わったジールに、フレデリク王子はもちろん、他の一年生やミザエラもぽかーんとしちゃってる。

 普通にしてるのはってか、ニヤニヤして見てるのはベンジャミンぐらい。

 話は終わったとばかりに、私の手を引いて歩き出したジールを、今度こそ止める人はいなかった。

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