032 指輪と楽器
結婚式をあげようとする二人は分担して式の内容を決めていた。妻になる彼女は料理を担当し、夫となる彼は友人に結婚式にふさわしい楽の音を奏でるよう依頼した。
難しいことは言っていない、結婚式にふさわしい、という点だけ強く言って彼は当日までそわそわとしながら待っていた。
前夜、同棲している彼らは明日の結婚式の晴れやかな一日を思って閨で語らった。
「明日が楽しみだな」
「そうだね、ね、音楽はどうするの?」
「○○たちに頼んだよ」
それを聞き彼女はえぇと言葉をあげた。どうした、と問いかける彼に彼女は答える。
「あの人達の音楽は聞いたことあるけど、ドロドロしい曲しかやらないじゃない」
そうなのか、彼は失言したが取り繕うように彼女をなだめた。
しかし、内心穏やかではなかった。ほぼ自由にやっていい、といったのだ。お互いいい歳した社会人であるが、自由人を絵に描いたような集団だ。義父母や両親にこれからも付き合いは絶え間なくある。心象を悪くしないようにと、今からでも言っておくべきか、と思ったが、結局言えずじまいになってしまった。
そして、当日、続々と集まる親類縁者友人会社の仲間や上司。
○○のリーダーに彼はよろしく頼むとだけいい、最高の結婚式にしてやるよ、と返してもらったものの、信じることが出来ず不安がよぎる。
そして、披露宴。音楽が流れる。
予想に反して綺麗な音曲である。歌詞も結婚式にふさわしい優しいものだ。
だが、彼は内心穏やかではない。
この曲は知っている。彼もかつては○○の一員だった。
故、知っている、否、知り尽くしている。
これは彼が書いた曲だったのだ。
銘を「指輪」
永遠を誓うのに、彼にとって最高というのに、ふさわしい歌であった。




