003 天井と魔法
その男はどこから来たのかわからないほど田舎者でモノ知らずだった。
ビルを見てまるで見たことのないものを見るかのように眼を丸くし、行き交う人々の多さに飲まれこんなことを尋ねる。今日は祭りか何かか、と。
そして、彼を探している男たちに連れて行かれる。
「こんにちは、私たちは貴方を必要としています」
男たちはそう言う。
「俺も、お前らが必要だ」
それはよかった、といい言葉を重ねあわせる。
「俺はこの世界の魔法がほしい」
「貴方の未来から過去に遡ってきた技術がほしい」
言葉を出し終えたあと、男たちの頭目はうろたえて答える。
「魔法、ですか?」
「おぉ、そうさ。こんなへんてこな建物や乗り物は見たことがない、これが魔法と言わずなんと言おう」
では、といって頭目はリモコンで天井を操作した。
すると、光が差し込み天井に星空が写った。
「おぉ、すごいな、部屋にいながら天上の星がわかる」
「GPSという機械を利用して座標から星を見せるのです」
すごい魔法だ、未来人は笑う。
「こんなものでよろしいのですか?」
「あぁ、あぁ、できるだけ多くの魔法がほしいが、全部とはいわん、俺が持ち帰れるだけの魔法を教えてくれ」
依頼に頭目は背後に控える黒服の男たちに指示を出し、未来人に技術を案内する役目を押し付けた。
一人残った頭目は空を見上げながら呟いた。
「未来から過去に戻ることのほうが、魔法だろう」
未来がどう変わっているのか、そんなことを心配しながら季節のオリオンを眺めた。




