笑顔にする為には
マビルは、翌日フードを深く被ると城を出た。シンプルな茶色のフードつきコートだが、上質なデザインなので解る人が見た場合、高額だと直様判別出来る。これでもマビルは所持しているコートの中で一番質素に見えるものを選択した、目立ちたくなかった為だ。
気になったのであの場所を訪れた、そこはあの日と同じだった。何も変わっていない、恋人達が出入りしている所も一緒だ。違う点と言えば、入口に置いてあるチラシを皆が持ち帰っている。人は来るのだ興味はあるのだろう、ならば何がいけないのか。
マビルは一人で入ってみた、双子の姉のステンドグラスを見上げながら、ぼーっと席についてみる。耳に届く周囲の話しを、聞いていた。
恋人達が三組いる、何か話をしていた。
「ここで式、挙げてみたい……」
一人の娘がそう呟いたので、思わず笑顔になってしまったマビルは、飛び出したい気持ちを抑えて必死で椅子に座っていた。記念すべき一人目の御客さんだ、何故か心の底から嬉しくて笑顔が崩せない。
「でも」
娘は寂しそうに笑う、他の娘達も同じだった、口々に「挙げてみたい」と呟くがそこから進まないのだ。
マビルはいてもたってもいられなくて、理由を聴く事にした。思わず立ち上がると、近づいた。
「あの、さ。なんでここで結婚式、しないの?」
フードを深く被っているので、不審に思い一人も声を発しない。しかし、立ち去ろうともしないマビルに、一人の男が前に立つと、ようやく説明を始めた。
「したいのですけど、気軽に出来る場所ではないでしょう……。ここで皆、式を挙げたいです。ここ以上の場所はないですよ、でも」
でも? だから何だ。
マビルは苛立って、足を踏み鳴らした。どうしても理由が知りたくて聴くまではその場を退かない。沈黙が流れる、非常に気まずい時間が流れた。
「……トモハル様が」
「は?」
「トモハル様の願いが叶わない事には、流石に」
「願い?」
六人が神妙に頷く。マビルはフードを取ろうかとも思ったが、止めて大人しく聴く事にした。
「ここは、トモハル様が最初に式をされるべきだと思うんです。愛する人を想って設計した場所ですよね。先にここで式を挙げるなんて出来ませんよ、それではトモハル様の想いを踏みにじってしまう気がして」
「そ、そうなの?」
初耳だった、原因はトモハルだ。
皆ここで式を挙げたいのだが、国王トモハルより先は気が引ける、ということらしい。
「気にしなくてもいーんじゃないの、それ」
マビルは溜息と共にそう告げるが、六人が物凄い勢いで反論してきた。思わず尻込みし、唇を噛む。
ともかく、原因は解ったのでマビルはトモハルに教えようと思った。
が、それは。
トモハルが結婚しないと、その苦労が報われないということだ。しかしマビルとトモハルは結婚している……筈なので、トモハルが誰かと式を挙げた場合、マビルは。
「あたしは、ホントに何処へ行けばいいの……?」
どうすればよいのか解らずに、マビルは一人大きな部屋に戻って寝転がる。
マビルは思った、トモハルを何故か笑顔にしてあげたいな、と。だから言う事を決意した、原因はトモハルだと。
トモハルがあそこで式を挙げれば、皆こぞって挙式するのだ、と。そうしたら、あの建設が無駄ではなかったと証明出来る。
トモハルに笑顔が戻る。
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