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RPGみたいな世界に転生したと思ったら最弱クラスのモンスターだった件  作者: 阿川時定


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002 レッドプルメは魔法を唱えた!

 種族表示がレッドプルメになってからも、びくびくするばかりの生活だ。

 ステータスは上がったけど、そこらの動物、たとえば猪や猿が相手なら、こちらが負けそうだ。


 というかこちらは急所がデカい。

 赤い大福のような小さな体に対して大きな単眼。そこを突かれると痛いなんてもんじゃないはず。

 草むらを跳ねて動いている時でさえ気をつけている。

 プルメからレッドプルメになったように、もっと変化していけば、もしかしたらこの怖さも減るのかな。


 眠くなったらどこで寝ようか。

 そんな恐ろしいことも考えた。しっかり隠れないと食べられてしまう。


 ふと、ムカデを見つけた。かなり大きい。

 食べるしかないか。焼ければいいのに。

 いや、待てよ。レッドプルメの意味がもしかしたら。

 もう一度ステータス画面を確認してみた。


『レッドプルメ

 MHP:20 MMP:14

 攻撃力:11 防御力:12

 素早さ:16 賢さ :15』

 この右に火炎の球(ファイアボール)というスキル名らしきものが。


 よぉし、早速。

 火炎の球(ファイアボール)

 大きな火の球が出た。そして向かった。標的のムカデに当たって焼け焦がす音が少しばかりした。

 だいぶ効果アリなんだろう。そんな様子だ。

 もう一度唱えてぶつけた。念には念を、だ。


 口にしてみた。

 まあ、まあまあ悪くない味かなあ。


 そこに、急に現れた存在があった。

 さっきの少女だった。

 しまった。見つかったか。


「珍しいプルメ。真っ赤」

 さっきまでは白かったからね。初めましてではないんだけど。

「食事中だったのかな。そっか、魔物も食事するよね」

 うんうんと、一人で何やら納得している。

 そうだよ。

 思ったところで、聞こえてはいないんだろう。念話ができたらいいのか、火炎の球(ファイアボール)ができるようになったのと同じように。ただ、そこまでが長そうだ。


 口パクだけでもしてみるか。

 そ、う、だ、よ……っと。


 すると、女の子が驚き顔を見せた。

 え、まさか意思疎通できると思ってなかった感じ?

「ちょっと待って、あなたのこと連れて歩いてみたいんだけど」

 要求が急。リードで引かれる犬かな?

 でもまあ、この際、本当に意思疎通できるなら、人間と一緒に平穏に暮らせる? のか?

「ついでに経験値になんないかなあ」

 急に恐ろしいことを言い出した。この子の中で天使と悪魔が心の指針を動かしてしまってる。

 さっさと逃げよう。


「あ、待って!」

 待つものか。

「蘇生してもらうから経験値になって!」

 嫌すぎる!

 またも()いずったりたまに跳ねたりして振り切れたかどうかを確認しつつの、逃げ。

 ふう。厄介(やっかい)な少女もいたもんだ。

 草むらを這って動くついでに、ステータスを確認してみた。


『レッドプルメ

 MHP:23 MMP:16

 攻撃力:12 防御力:13

 素早さ:18 賢さ :17』


 少しだけ上がっている。

 よく動くだけでもこの値は伸びてそうだ。


 さてと。ねぐらを探すか。

 ついでに、その辺の木の実やらもむしゃむしゃ食べてしまおう。


 あれ? そういえば水を飲んでないな、(のど)(かわ)いてきた気がする。

 どこかに湧き水か川でもないかなあ。

 草むらをぽよんぽよんと跳ね動く時は半目だ。閉じてなきゃ目に何でも当たりそうだからな。これは毎日気をつけなきゃ。


 跳ね動いた先で、川を発見。

 近い所にあってよかった。

 さて、ごくごく。

 浅い所で飲めば、泳げなくてジタバタするような心配もない。鼻にちょっと入っちゃったけど、問題なんてその程度だ。


 やっぱり喉が渇いていた。潤うのがわかる。

 よし、じゃあ川沿いを行こう。

 町に着いちゃったらどうしよう。対岸に行って折り返して、今度は上流を目指すとか? それもいいな。


 だんだん暗くなってきた。どこかで寝るとするか。お、あそこの木の(ほら)なんてどうだ。

 さて、明日も生きていますように。


 ……パッチリと目が覚めた。

 洞から出て辺りを見た。夢じゃない。

 いまだに信じられない。でも本当みたいだ。魔法のある、魔物のいる、そんな異世界に自分がいるだなんて。

 しかも弱小の魔物。


 まあいい。まずは喉の潤しからだ。川の浅い所に位置してごくごく。ごくごく。

 この、水が鼻に入っちゃう感どうにかなんないかなあ。

 それはそれとして、川を再度、(くだ)っていくぞ。


 蛇を見つけた。

 丸焼きにして食ってやる。火炎の球(ファイアボール)

 追い火炎の球(ファイアボール)

 まだ倒せてないのか? いや、いい感じだぞ。よし、もうかぶりつくぞ。がぶ、がぶがぶ。

 寝起きの一食としてはまあ、なかなかの量だったな。


 なんだか、胃に入っているものがすぐに溶けているような気さえする。一度ドシッとしたのにもうかなり軽い。

 だからか、いつもの、ぽよんぽよんと跳ね動くのも楽だ。


 川のそばを下り続けている。

 十数分は下った時だ、人を発見した。倒れている。僧っぽい男性。ただ、もう息をしていない……。


 あなたの(こん)跡を、僕の中に残せないかな。

 なぜかそうしたいと思った。あの赤い宝石の時のようにできないかと。

 彼の手には銀に光る杖がある。それを――

 がぶ。がぶがぶ。ごっくん。

 何か背中に光が。それが収まると。

 絶対に何かが変わっている。ステータス一覧はどうなっている?


『プリーストレッドプルメ

 MHP:34 MMP:53

 攻撃力:20 防御力:24

 素早さ:50 賢さ :41』


 昨日より上がり幅が大きい。

 それに、なんだか背中に申し訳程度の鳥の翼のようなものが生えた。清らかそうな翼。ただ、体が重くて飛べないか。

 ん? いや、これ、頑張れば飛べそうだぞ。

 思いながら、スキルの一覧も見てみた。


火炎の球(ファイアボール)

 治癒の風(キュアウインド)

 劇毒の浄化(ポイズンピュリファイ)


 もしかして回復できるかも!

治癒の風(キュアウインド)!」

 あれ? 癒されそうな風自体は出たのに。

 動かない。

 無理だったのか。駄目だった? そんな。

 でも、この人の死はこれで無駄にならない。そう思いたくて羽ばたいた。だけど、背に入る力が弱いせいか、口が強くヘの字に。

 長時間飛ぶのは無理そうだ。

 でも、多くのものを(もたら)した。


 誰か人に会いたい。会って、あの人のことを、ここだよと教えたい。

 だけど自分は魔物。

 (しゃべ)れない。

 使う筋力みたいなのが違うのかな。

 念じたりしながら喋ってみようとした。

 だけど無理だった。どんなに口を動かしても、どんなに「声帯よ、ここにあれ」と念じても、声を出しているつもりになっても、駄目だった。

 なんだか悲しくて、鼻をずるずると鳴らしながら、その場を去った。


 川を下っていく。

 ぽよんパタパタ、ぽよんパタパタと、翼の根本を(きた)えながら。

 もう自分が魔物でもいい。人に会いたい。

 あの人のことをここだよと言いたい。

 蘇生はできないのか? 蘇生にルールがありそうだ。どうであれ急がないと。


 ぽよんぽよんと、そして(たま)にごろごろと転がる。

 急いだ。目が痛くても構わず。

 転んだある時、

「パッ」

と声みたいなものが出た。いや、あれは実際に声のはずだ。

 ……どうやら、ハ行とパ行だけ、言える。

 笑えて泣けちゃう。こんなことに気づくのにこんなに時間がかかっちゃうなんて。


 それに、蘇生できた時、杖のことを言わなきゃ。

 なんで杖を食べちゃったんだろう。なんで先に蘇生を考えなかったんだろう。

 言わなきゃ。

 そう思いながらぽよんぽよんと跳ね、偶に転がって、急いだ。


 下った先に町が見えてきた。

 方向転換。今度は町の入口へ近づく。

 道に出てそこをとにかく跳ねて進んだ。


 人と言っても誰でもいい訳じゃない。旅慣れた人でないといけない。

「パフペヘ!」

 とにかく『助けて』のつもりで言って回った。

 意思疎通ができそうだとわかったのか、こちらに対して攻撃的ではない。

 そんな人たちがついて来た。

 よぉし。そうだ、こっちだよ!


 後ろから声がする。

「魔物だぞ」

「でもどこかに来てほしがってないか?」


 そうだよ、そうだよ。

 そう思いながら辿(たど)り着くと、誰か女性が言った。

「ああ! ルイス!」

 こんな場で、僕がやるべきことはこれしかない。

「ポペヒピペパペペ」

 蘇生してあげてと言いたかった。強調するために短くも言う。

「ポペヒ」

「ポペヒって何だ? ポペヒ……」

と、一人の男性が考え続けてくれている。同じ男性が「そうか」と気づいたみたいで、

「蘇生だな? そうなんだな? 運ぼう」


 ルイスを運んだ先は冒険者ギルドだった。

 こちらの意思に気づいた男性がまた、

「誰か蘇生できないか? 誰か!」

(さけ)んだ。

「できるけど」

と近づいてきたのは、黒い魔女風の帽子をかぶった女性。彼女が、

蘇生(リザレクト)

と唱えた。

 するとルイスが光った。そして立ち上がった!

 やった、間に合ったんだ!

 ルイスが辺りを見回した。あれ? って感じで。


「冒険ってやつには、こういうことが(まれ)に起こる。もっと珍しいほうじゃなくてよかったぜ、なあ」

 さっきから一人の男性が、僕に向かって言う。嬉しそうな顔で。

 そしてすぐ、魔女風の女性が口を動かした。

「この辺りにはそんなに強い魔物はいないんだけどね。でも何かに出くわしたのね。で……間に合ってよかった」


 ある時、騎士服を着ている女性が、

「あなたは悪い魔物じゃないのね」

そう言った。そして魔女風の女性が続けて、

「魔法にも限界があるのよ。ギリギリだったかもね。あなたのおかげね」

 そんなそんな。


 僕が照れていると、ルイスが、

「僕の杖の先がない」

って口にした。

 ああ、そうだった。

「プペポパペパッパ」

 必死に何度も言ったんだけど、そうしたら、何度目かに、魔女風の女性が、

「つえをたべちゃった?」

「それだ!」

っていうのは筋肉質な男性の声。

「それくらいいいよ、命あってのもの。杖はまた買えばいい」

 ルイスがそう言ったからか、僕はそう簡単に死ねない、そう思った。


「ところで」

 魔女風の女性がそう言った。

「悪い魔物じゃないのなら、一緒に旅をしない?」

 やっと気持ちが落ち着いてきた僕は、とにかく、まばたきをした。

 それから、うん、と強くうなずいた。彼女たちなら多分「蘇生させるから経験値になって」なんて言わないだろうしね。

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