001 プルメは逃げ出した!
目が覚めた時に違和感があった。視点がまず天井じゃないこと。立った時の前方。
と思ったのに、それさえ違った。しゃがんでいるのか? どうも自分には腰がないように思える。腕もない。
顔だけで跳ね動く生物はゲームによくあるけど、あんな感じか。
足を動かそうとしても、そんな部分などないと知るだけだった。
這いずるか、跳ねるか。
この二択しかないらしい。
思い出した。つっこんできたトラックから男の子を助けたんだ。いや、正確には押し飛ばしたんだ。助かってるといいな。
夢なら覚めてもいい頃だぞ。
……最悪だ。こんなことが本当にあるなんて。
視界の隅に、ページをめくる記号みたいなものがある。そこに念じると、急に、文字列が目の前に浮かんだ。
『プルメ
MHP:8 MMP:3
攻撃力:4 防御力:6
素早さ:7 賢さ :5』
ああ、賢くなくてごめんなさい。
RPGそのものの象徴、ステータス画面。それが現実にある世界に来てしまったらしい。
なぜ神は僕にこんなことを。
しばらくぽよんぽよんと動いていたら廃墟を見つけた。入ってみると鏡まで発見。自分を確認するチャンスだ。覗き込んでみた。
目玉が一つの化け物。丸くて小さなぽよんぽよんとした白い饅頭。それが今の僕。
口はある。鼻の穴もわずかながらあるらしい。耳の穴もあるのかな。それはまあいいとして。
これで何を食べて生きていけって?
こんなの最弱モンスターじゃないか、どう見ても。
はっ、そうだ! 周囲に誰もいない? 標的にされてないよね?
ぽよんと跳ねる時にひねりをきかせてみたら横方向に回転して後ろを見ることもできた。いま右手には何もいない。もう一回、半ぽよん。とりあえず全方向、誰もいない。
でもきっとこのままじゃ、旅人にやられちゃう。モンスター同士の争いはない? わからない。何かあったら倒されちゃうかも。
どうにかしてステータスを上昇させないと。というかこれ上昇するの? しなかったら逃げて虫でも食べるしかないんだ。野菜でもいいか。そういうのを食べるしかないんだな。はあ……溜め息もついちゃうよ。
ところで、これ、なんてモンスターなんだろう。
もう一度ステータス画面を見てみた。
プルメとある。ぷるぷるした体で単眼の小さな大福みたいだからかなあ。
それにしても。
うう、お腹空いてきたかも。何を食べればいいんだ。
辺りを見回しても食べられそうなものはない。廃墟を出て探索するしかない。鏡を前にして、僕はうんと自分にうなずいた。
雑草を食べてみた。まあまあの味。
いまの僕って、魔物的な存在なんだろう。それだけじゃなく一般的に言う動物も存在するらしい。バッタとか。ダンゴムシとか。ハエとか蜘蛛とかも。
そういうのを食べるしかないのか。なんて魔物生なんだ。
あっ、虫。
ぱくん、とはうまく行かないんだよなあ。逃げられちゃった。
蟻を食べるかな。どうだろう。アリかも。なんちゃって。
そんな風に考えているところへ、旅人の気配が。
隠れなきゃ! 踏まれるだけで死んじゃうかも!
「確かこの辺りにセンサーが……あれ? 魔物がいるはずなのに」
そう聞こえた。ハッキリと。女の子の声だった。というか、もしかして魔物センサーがあるって話? それって最悪すぎるって。
どうか見つかりませんように。
「あ、いた!」
見つかった! それに両手で水をすくうみたいに持ち上げられちゃった!
僕、いま声を出せないんだよね。さっきの廃墟の鏡の前でいくら出そうとしても出なかった。
このままじゃ……!
「よおし、経験値のためにやっちゃうぞお!」
うわああ、やる気だ。どうしよう。
いまはまだ彼女の両手の上に載せられているだけ。その両手から反ひねりジャンプをして離れてみた。
ゲームなら『プルメは逃げ出した!』とか出るところだな。
まだまだ逃げる。這いずって跳ねて逃げる。
跳ねたら草むらの上に出ちゃうから見つかっちゃうかもしれない、だから、這いずる長さを工夫した。
遠くから、
「どこぉ? ここら辺のはずなんだけどなあ」
なんて聞こえる。そのまま探す気を失ってほしい、願わくば。
ふと、宝箱を見つけた。誰が置いたやら。まあともかく。
この中に隠れれば。というか食べ物が入っていたりして? 一石二鳥かも。
箱を開けたいけど、いまの自分に手があるわけでもない。うーん。
じゃあ、体当たり!
ぶつかってみると、箱が倒れてちょこっと開いた。
中には何があるかなあ。
体を押し込んで確認。くんくん。がぶっ。リンゴだ! リンゴだ! これはおいしい!
ちょうど食べ物がほしかったもんね。
それに、なんだか力が湧いてきた。なんでだ?
ステータスを確認。
『プルメ
MHP:9 MMP:4
攻撃力:6 防御力:7
素早さ:8 賢さ :6』
ちょっとだけ上がってる。え、なんで? 跳ねたり這いずったり体当たりしたりしたから? それともリンゴも関係ある? 特殊なリンゴだったり? うーん、ま、いっか。
ところで。
この画面の名前の所にプルメとある。そのさらに上に何か文字が入りそうな枠がある。これって何なんだろう。まあ、いまはいいか。
それにしても、あの子はまだ僕を探している? 静かにジャンプしてみると、どうやら近くにはいなくて、廃墟のあるほうを見ている。
よし、いまのうちに。
ん? 宝箱にまだ何か入ってるぞ。ちょっと光った。なんだ?
赤い宝石だ。
宝石かあ。お金とかそういうのは、いまの僕には必要ないんだよね。でも、「これを渡すからどうか勘弁を!」というようなことができなくもない? まあ声は出ないけど。
成功すれば、知性があると知られて逆に仲良くなったり? いや、それはないか、さすがに。
っと、あ! 咥えてたら飲み込んじゃった!
どうしよう。
というかこの体の消化システムはどうなってるんだ? 吐き出さないとダメだよね、きっと!
あ、あれ? なくなってる。
口というか体の中から宝石がなくなってる。
なんで?
自分を見てみた。と言っても、白大福のほっぺたが少し見える程度だけど。だと思ったのに、白じゃなくて赤くなってる!
ええ? えっと、じゃあ、ステータスは?
『レッドプルメ
MHP:20 MMP:14
攻撃力:11 防御力:12
素早さ:16 賢さ :15』
変化してる!
食べ物で変わってくるのか? もしかして。
あ、それに、名前が変わってる。というかこれ、種族名みたい。
ってことは、その上にあった枠って、名前?
でも名前なんて自分で付けられるのかな。プルリオっていう名前がいいな。僕はプルリオ。プルリオ!……反応なし。考えるだけじゃダメか。
自分では声を出せない。出せたら声での確認もできたのに。
まあ、名前だろうけど、ほうっておくか。
どこかで安全にのんびり過ごせたらいいけど、このままじゃ、どうなってしまうんだろう?




