9話 ライエル
「流石アレンティ兄弟だ。見事な仕事ぶりだったらしいじゃないか? 少ないがこれを受け取ってくれ」
マシュマーはテーブルの上に金貨がたっぷりと詰まった袋を山のように積む。
それはまごうことなき金だ。
スーフーヤが扱う偽の金塊とは違う。
その黄金色の輝きにルァは思わずゴクリと唾を飲む。
しかしシウランはそんなものに心は動かされなかった。
「……勘違いするな……。……猫を寄越せ……」
シウランの言葉にマシュマーは罰の悪そうな顔をしながら答える。
「それなんだが……。肝心の猫がいないんだ……」
「……どういうことだ……?」
「うちで扱ってる金塊は遺跡から発見されたものは伝えただろう? その責任者がトンズラして、腹いせに俺の大事なアレクサンダーを盗んでいきやがった。……猫はいないんだ」
怒ったシウランは金貨を鷲掴みし、その握力でグニャリと潰す。
その剣幕にマシュマーは思わずたじろぐ。
「こうしないか? 俺達と一緒にライエルってトンズラ野朗を追おう。俺達はアイツがいないと金塊の密造ができない。あんたらは猫が欲しい。利害が一致するだろう? アイツの人相着衣、趣味嗜好、この街で彷徨きそうか場所なら教えるぜ」
「……そのライエルが猫を持っているんだな……?」
「ああ、奴を捕まえたら、猫はアンタらのもんだ。全く、こんなに金を積んでも、心が動かねぇとは……。流石、アレンティ兄弟だ」
シウランとルァはスーフーヤから逃げ出した、ライエルという男の情報をマシュマーから雑巾を絞るように聞き出した。
ニュークのスラム街で彷徨う若い男がいた。
男の名はライエル。
西側諸国からきたトレジャーハンターだ。
未知の遺跡の発掘のためにこの街にやってきた。
ライエルはこの街に眠る遺跡の謎を探っていた。
偶然発見した遺跡の一部をこの街の外れにある廃教会の地下書庫から採掘できた。
不運はそこがスーフーヤの縄張りであり、自身も捕らえられ、遺跡の一部から偽の金塊を作るよう強要されたことだ。
ライエルはギャング達の隙を見て、逃げ出した。
奴らのボスが大事にしてるペットの猫を奪って。
いざとなれば、交渉材料になるかもしれない。
今はギャング達に捕まる訳にはいかない。
自分には果たさなければならない使命がある。
この街に眠る遺跡の謎を暴く。
だが、ここは見知らぬ地、頼れる仲間もいない。
とにかく身を隠し、隠密裏に遺跡の手掛かりを掴まなければならない。
しかし、スラムというのは想像以上に荒んでいる。
行き場を無くし、倒れる者や浮浪者。
飢えた野良犬。
ストリートチルドレンがライエルを睨みつけるようにたむろっていた。
一人の女の子がライエルの前で倒れる。
ライエルはそれを見て、不憫に思った。
すぐに少女に駆け寄り、介抱する。
まだ10代前半だろう少女はか細い声で呟く。
「……水を……ください…….」
ライエルは懐にあった水筒を取り出そうとする。
すると少女が隙だらけのライエルの懐に、素早く手を伸ばし、財布を抜き取り、その場から駆け出す。
しまったスリか!?
ライエルは急いで少女を追いかける。
少女の足は素早く、ライエルとの距離を離していく。
ライエルは必死にその背を追いかけた。
少女が路地裏に隠れた。
すかさずその跡を追いかける。
すると背後から何者かに、はがいじめにされてしまう。
口元を麻酔が染み込んだ布で覆われて、ライエルは堪らず意識を失う。
「でかしたネム。流石、俺達の妹分だぜ」
ネムがライエルに吐き捨てるように言う。
「ずいぶんマヌケな男ね。スラムじゃ生きていけないタイプだわ」
ライエルを拘束したのはシウラン達だった。
すぐにライエルの所持品を確認するが、キアヌはいなかった。
ネムがシウランに尋ねる。
「この兄ちゃん、子猫持ってないみたいだけど、どうするの?」
シウランとルァは顔を見合わせて、頷く。
「ネム、このマヌケを空家まで運ぶから手伝ってちょうだい。あ、財布の中身は貴方にあげるわ」
シウランが両手の指を鳴らしながら、呟く。
「キアをどこにやったか、洗いざらい喋って貰おうか。拷問タイムの始まりだ」
ネムはライエルの財布の中身が寂しかったことに落胆し、毒つく。
「シウラン、痛めつけていいよ。スラムの怖さを味わってもらおう」
かくしてトレジャーハンター、ライエルの命運はシウラン達の手に落ちた。
ライエルはその先にある恐怖を知らないまま、微睡みの中にいた。




