8話 海賊との密売
キャバレー、グラントの裏口、シウランとルァは掴みあっていた。
「誰よ、アレンティ兄弟って!? しかも偽金の密売なんてできるわけないでしょ! 私は帰る! 家に帰って、ハッパ吸ってリラックスするわ!」
「待てよルァ! キアのためだ! やるしかねぇ!」
「犯罪者の仲間入りなんて、まっぴらごめんよ! 離しなさい! この脳筋女!」
「ちょっと変わった買い物をするだけだ! 簡単な仕事だ! 罪は例のなんとか兄弟のせいにすればいい!」
「相手は海賊よ!? 正気なの!? この街どころか、世界中で追われるかもしれないのよ!?」
シウランとルァが激しく揉み合っているところに、ギャング、スーフーヤの構成員と思われる黒服のダークエルフの若い男達が現れる。
「待たせたな、アレンティ兄弟。 ?何かあったのか? 女の声が聞こえた気がするが?」
シウランが声を低くして答える。
「……問題ない……。……相棒がうすぎたねぇ海賊どもを魚の餌にしたいと息巻ている……」
シウランの言葉にスーフーヤの一人がニヤリと笑う。
「頼りになるな、流石アレンティ兄弟だ。だが今回は殺しは勘弁してくれよ。大事な取り引き相手だ。まぁ交渉次第じゃ、あんたの言う通り、魚の餌だな」
ルァが鋭い目でシウランを睨みつけ、無言の抗議をする。
だがそんなことも気を取られることなく、スーフーヤの構成員は、シウラン達を自慢の馬車へと案内する。
「今回の取り引きは燕の海賊達だ。連中、船の上で取り引きしたいとか抜かしやがる。よっぽど陸が怖いんだろうな。チキン共め」
道中、ルァはシウランにずっと非難のこもった眼光をぶつけていた。
シウランは口笛を吹いて誤魔化し、沈黙を貫いた。
ニュークの湾岸地域から少し離れた海域。
水平線の向こうには暗い海の上でもニュークの不夜城の灯りが光っていた。
シンと静まり返る船の甲板の上に、シウランとルァはいた。
闇夜に紛れるかのようなスーフーヤのダークエルフ達。
そして相対するのは白いタキシードを着飾った海賊達だ。
白い礼服と紳士のような姿勢、シウランの想像していた海賊とは違った。
もっとならず者のような連中が相手だと思っていたのだ。
だが、その礼儀正しく、堂々とした態度が逆に不気味さを感じざるえなかった。
海賊の頭目が挨拶して、本題に入る。
「ようこそ、スーフーヤの皆様。望み通り新型の武器を仕入れてきたぞ! おい、新兵器を披露させろ!」
山のような木箱から、木製の棒を海賊は取り出した。
よく観察すると、その棒の両端には金属のような仕掛けが施されている。
「マッチロックガンだ! こいつは縄に火をつけて、この引き金を引くだけで人が殺せる特殊な武器だ。帝国軍と海賊の最新技術の結晶さ! 是非その威力を見てくれ」
頭目がその棒を支えるように両手で持ち、的であるガラス瓶に狙いを定めて、右手にかけた金属の引き金を引く。
すると爆音が鳴り響き、同時にガラス瓶は跡形もなく砕けた。
海賊の頭目がどうだと言わんばかりの顔を見せる。
正直、シウランにはその凄さはわからなかった。
うるせぇ音立てるのに、この威力か?
よくわかんねぇけど、魔法とか弓矢の方が良いじゃねぇのか?
シウランの疑問にスーフーヤの一人が代わりに尋ねる。
「燕の海賊のとっておきがこれか? 弓矢の方がマシじゃねぇか。音がうるさいのも問題だ」
海賊の頭目が指を左右に振る。
「わかってないな。弓矢には長い訓練が必要だろう? こいつはそこらのチンピラでも、重装歩兵を葬ることができる。多少の練習は必要だがね。それに音も重要なんだ。この爆音があれば、その衝撃で騎兵の馬が暴れる」
海賊の言葉にスーフーヤの男達は半信半疑になる。
「どうする? 手ぶらじゃ帰れないぞ……」
「いい取り引きなのか判断が難しいな……」
「最新兵器って言うから来たのに、ちょっと俺らじゃわからん……」
するとスーフーヤのダークエルフ達はシウランとルァの方へ顔を向けた。
海賊の頭目もシウランに歩み寄り、その棒を手渡す。
「どうやらギャングではこの武器の素晴らしさがわからないらしい。アレンティ兄弟、是非その腕で確かめてくれ!」
手渡されたのが自分じゃないことに、ルァはホッとする。
そんなルァを睨みつけながら、シウランは見よう見真似で先程の男のように構えて見せる。
マッチロックガンを軽々しく持つシウランに海賊の頭目が驚く。
「流石だな、かなりの重量の武器だがこうも容易くとは……。さぁ縄に火はつけた。引き金を引いてくれ。狙う時は照門に照星を合わせるんだ!」
海賊の説明なぞ、よく理解できてないシウランは力任せに引き金を引く。
鼓膜が破れるかのような爆音。
そして、海賊の一味の一人がバタリと倒れる。
白いタキシードが血に染まり、甲板から血の水溜まりができる。
スーフーヤの構成員は驚愕する。
ルァは驚くどころか、運命を呪った。
シウランは頭が真っ白になった。
そして心の中で叫ぶ。
また殺っちまった!
シウラン達が動揺する中、静かに海賊の頭目は死体へと歩み寄り、見聞する。
そして死体の着衣や所持品を物色した海賊の頭目は驚嘆の声を上げた。
「流石、アレンティ兄弟だ! この男、政府のスパイだな。よくぞ見破ってくれた! 大事な取り引きが台無しになるところであったよ! いや、我らの身をよく守ってくれた! 恩に着る! しかし、この闇夜に、初撃ちで心臓を当てるとは、いや恐ろしい……」
海賊の頭目の言葉に、スーフーヤのダークエルフ達は歓声を上げた。
「マジか! スゲェ! やっぱりアレンティ兄弟だ!」
「一発、ドン、で人がくたばったぜ!」
「この武器さえあれば俺達もアレンティ兄弟みたいになれる!」
「最強のギャングの誕生だ!」
「アレンティ! アレンティ! アレンティ! アレンティ! アレンティ!アレンティ! アレンティ!」
マッチロックガン、東の果てでは火縄銃と呼ばれるこの武器はスーフーヤの構成員に絶賛され、無事に偽金塊と取り引きされることになった。
シウランは涙を堪えて、全身を震わせていた。
ルァは溜息をついて、シウランの肩を叩く。
そして同情の言葉をかけた。
「また殺ってしまったわね……。……これは事故よ……。貴方は悪くないわ……」
シウランは暗い海面の奥を見つめ、良心の呵責に打ち震えていた。




