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50話 対決! ジーク①


「ルァ、二人でこの黒髪野朗をやるぞ!」


 シウランの呼びかけにルァは不可解な顔をする。

 

 タイマン大好きの戦闘狂のシウランが?

 てっきり手を出すな、とか言い出すと思ったのに。

 どういう風の吹き回し?


 ルァの戸惑いに応えるように、黒髪の青年が起き上がり、忌々し気に挨拶する。

「はじめまして、刻の刃の一人、黒縄のジークフリードだ。俺の名前は長いからジークと呼べ。職業は海賊だ。無職のクソガキ共め。そうか、ウェッジは生きていたか。心配したぜ、行方不明だったからな」

 ジークと名乗った青年は徒手空拳で構える。

 独特の構えだ。

 つま先立ちになり、片足を流すように浮かせる。

 両椀もだらりと伸ばして、とても構えているとは思えなかった。

 ジークがムッとしたような顔で言い放つ。

「……俺は挨拶したぞ。次はお前らの番だ」

 ルァは対峙しているジークを観察した。

 先の不意打ちで致命的なダメージを受けてるはずなのに、どうして平然としていられるのか。

 何より目の前の男は対峙している今も素手だ。

 武器を持っている様子はない。


 体術の使い手?

 しかも異常にタフな。


 ルァが相手の挙動を探っている時、シウランか威勢の良い声を張り上げる。

「俺はシウラン、隣の青髪はルァってんだ。働いたら負けだと思ってるぜ、社畜野朗。お仲間と一緒に魚の餌にしてやるぜ」

 シウランの挑発とも取れる発言にジークではなく、ルァが敏感に反応した。


 この脳筋娘!

 海賊相手に名乗ってんじゃないわよ!


 ルァがシウランを睨みつける。

 しかし、シウランは動じた素ぶりも見せず、小声でルァに囁いた。

「……不意打ちは効いた筈だ。それなのに立ち上がってやがる。複体修術でダメージを回復しながら、構えてやがる。……手強いぜ。一気に行くぞ。アイツが回復される前に仕留めるぞ」

 シウランの指摘にルァは思わず驚く。

 シウランが考えて闘おうとしていることではない、ましてやジークが傷ついた身体を回復させていることを見抜いたことでもない。


 複体修術とは非常に習得困難な秘術で、この世界で唯一の回復術式のはず。

 使用者はごく僅かである。

 その秘術を使用しながら戦闘行動をするというのは、限られた者のみが許されている。

 事実、ルァの知る限り、そんなことができるのは師範である武神とその高弟以外いない。

 無論、シウランもルァもできない神業である。

 

 はっきりしたことはいま対峙しているジークという青年はシウランやルァよりも格上ということになる。


 それにシウランは笑い、ルァの顔は引き攣る。

 シウランが元気の良い声でジークに無邪気そうに話しかける。

「戦う前に、ちょっといいか?」

「……なんだ住所不定無職」

「ジーク君さ、靴紐が解けてるぜ、足元気をつけろよ」

 シウランの指摘をジークは真正直に受け、思わず足元を見下ろす。


 靴紐は解けていなかった。


 ジークが顔を上げると、猛烈な勢いでシウランとルァが肉薄する。

 あからさまなシウランの罠にジークは引っかかってしまった。


 阿吽の呼吸で合わせたシウランとルァの怒涛の拳撃と蹴撃の嵐がジークに襲いかかる。

 ジークは痛感した。

 

 ……コイツら不意打ち大好きだな!


 目にも止まらぬ二人の連撃の嵐、しかしジークは接近戦こそ許すものの、その流れるような構えで、ことごとくその攻撃を捌き、受け流す。


 ジークのその独特の構えがそれを可能にした。

 利き足と両手を巧みに使い、柳で風が揺れるような動きで相手の技を受け逸らす。

 いつもなら返し技を仕掛けているジークだが、ダメージが残る身体の回復と二人の動きを観察することに専念した。

 

 赤髪の小娘、シウランと言ったか。

 この女は手強い。速さだけなら、俺よりも速い。

 (タオ)操作も見事だ。

 凄まじい一撃を放つことが出来たのはその巧みな(タオ)操作とその潜在力。

 だが、動きが直線的過ぎる。

 点の動きしか出来ないのか、面で相手を捉えるということが出来てないな。

 それに体術の技術もまだ未熟、その未熟さで次の技に繋げられないから、こうして楽に捌ける。


 青髪の小娘、確かルァと言ったな。

 コイツはなかなか面白い。

 連撃に緩急を織り交ぜて、俺を誘ってやがる。

 (タオ)による身体能力向上の未熟さを技術でカバーしているな。

 赤髪の小娘が大振りできるのも、コイツの補助的な打撃のおかげだな。

 だが、軽い、軽すぎる。

 この青髪の小娘じゃ、俺を倒すことは出来ない。


 決まりだな。

 まずは赤髪から始末する。



 シウランとルァの怒涛の連撃も、あっさりジークに捌かれ、技も見極められてしまった。

 そして初めてジークから仕掛けていく。


 シウランの高速の回し蹴りを容易く両手で捌き、長い前脚でガラ空きの顎を蹴り抜く。

 ジークの一瞬の攻撃動作と衝撃にシウランは堪らず、動きが止まる。


 それを補うようにルァは凄まじい連撃を放つ。

 しかし、ジークはルァの動きを捉えていた。

 今度はただ捌き流すのでなく、ルァの放った蹴り脚を掴み、振り回すように投げ放つ。

 ルァが地面に叩きつけられる間、夥しい数の拳打がその身に放たれた。


 ジークはシウランにトドメを刺す。

 動きを止め、意識を喪失しかけているシウランの胴体、心臓部に目掛けて、貫通するような鋭い蹴撃を炸裂させた。


 それはシウランの心臓の左心室の脈拍を完全に捉えた強烈な一撃であった。


 そのあまりの衝撃にシウランの心臓の筋肉は痙攣し、血を運ぶポンプとしての機能を一時的に喪失させた。


 それは達人の領域に踏み込めた者のみが放てる業である。

 一撃で相手を行動不能にする技。

 シウランは会得出来ずにいた秘技を自らその身に刻むハメになった。


 シウランは不覚にも、ジークの前に崩れ落ちてしまう。


 顔を歪ませたシウランは無念の眼差しでジークを睨む。


 相手が格上なのはわかっていた。


 だがここまでの力量さなのか。


 対峙する相手との格の違いを刻まれ、不覚にもシウランは地面へと倒れ伏してしまった。


 それを見たジークは次の狙いのルァへと眼光を向ける。


 シウランは意識を失いかけながらも、毒吐く。


 残心を忘れてやがるぜ!


 社畜野郎!


 舐めてやがる……!

 


 シウランの闘志はまだ燃えていた。


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