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46話 狩られるもの

 

 陽が立ち昇り、大地が眩い光に照らされていた。


 人狩りの任についたオスマンの武装騎士100騎は速い行軍で街道を進む。 

 彼らが目指していたのは今月の税金を納めていない遠方の貧しい農村であった。

 このまま馬を進めれば昼前には村に着く。

 この一軍を任された隊長も、随伴した弁務官もそう思っていた。

 しかし不測の事態が起きる。

「何!? この先の街道が川の氾濫で使えないだと!?」

 隊長は先鋒からの報告に頭を悩ませた。

 そこに弁務官が口を挟む。

「山沿いの道を使えばよろしいではありませんか。少し遠回りになってしまいますが馬を飛ばせば問題ありますまい」

 隊長は山道の険しさ、狭い山道を縦列で行軍する困難さを理解していた。

 増してや帰りは荷馬車に人を詰める予定だ。もし村人が抵抗でもしたら厄介だ。

 しかし弁務官の方が立場が上であり、逆らえない。

 何よりこの状況を打破できる案も出てこないので、危険な山沿いの道を進軍することを選択した。


 山の険しい獣道を行軍することは困難を極めた。

 視界も悪く、薄暗い、何より道がボコボコにできており、馬で行軍すると、落馬の危険があったため、全員が馬から下り、徒歩で移動することになった。

 ただでさえ、新兵が多い騎兵隊の士気は著しく下がっていた。

 練度が高い兵士の殆どがナレス将軍と共に軍から去ったため、数合わせの新兵を採用せざるを得ない窮状もある。

 ただ人を攫うだけの楽な任務とタカを括っていた新兵達に動揺が走る。

 突然鳴子の音が山に鳴り響いたのだ。

 隊長は兵を落ち着かせながら、状況を分析する。

 おそらく、山で獣狩りをしていた罠を新兵が誤って引っかかってしまったのだろう。

 すぐに隊列を立て直そうと指揮しようとした時、鼓膜を痛めつけんばかりの爆発音が走った。

 その音と共に、部隊を指揮しようとした隊長が倒れる。

 隊の指揮官の額に風穴が開いて、血を流している姿に新兵達は狼狽する。

 すると間髪入れずに、山の影から敵兵と思われる影が現れたのだ。


 この軍勢は囲まれている……!

 待ち伏せを受けたのだ!


 我先にと退路へ向かう兵士達。

 しかし退路は水の結界で塞がれていた。

 

 退路を絶たれたことに絶望する兵士達に追い討ちがくる。

 長い縦列隊の間に巨大な岩が次々に飛んできたのだ。

 その大岩によって踏み潰された兵士を見て、軍勢は戦慄し、部隊としての統率は取れなくなり、散り散りになって山へと逃げる。

 その様を見て随伴した弁務官は頭を抱える。

 

 どうして人狩りの部隊が狩りにあった獣のように逃げ回らなければならないのか!?


 すると耳を潰すような大きく強い咆哮が逃げようとする軍勢を硬直させる。

 その咆哮の主は赤い髪色をした少女であった。

 前方に立ち塞がる少女の姿に兵達はゴクリと唾を飲んだ。

 たかが女子供。

 頭ではそれがわかっていながら、少女の鬼気迫る気迫に完全に気後れしてしまっている。

 兵士達の本能が少女の姿に恐怖してしまっていた。

 

 いったい何故?


 それが理解できた時、幾人もの兵士達が空中へと吹き飛ばされていた。

 悪鬼羅刹の如く、山で軍勢を次々に蹂躙していく赤毛な少女の姿に兵士達は恐怖した。


 化け物だ……!


 無論、恐怖に染まったのは兵士だけではない。

 随伴した弁務官も顔を真っ青にして、山は逃げ隠れ回った。

 しかし、慣れない山道に転倒してしまう。

「大丈夫か?」

 無精髭の男が手を差し伸べる。

 弁務官がほっと安堵の息を吐くと、再び戦慄した。

 また少女の姿が現れたからだ。

 今度は青髪の少女だが、薄気味悪く、不気味で不穏な気配を発している。

 弁務官の本能が恐怖に染まりきっていた。

 青髪の少女が不精髭の男に言う。

「コイツが人狩りの首謀者? イズモも役に立つのね。だいぶ楽させて貰ったわ」

「ルァ、シウランを止めさせろ。コイツを捕まえたんだから作戦成功だ」

「しばらくほっときましょう。こういうのは懲らしめなくちゃいけないわ。狩られる気持ちを味わってもらいましょう」


 街道の川の氾濫も山道の罠も、全てイズモの策であった。

 川の氾濫はルァの水魔法で作り上げた。

 山の影の正体は案山子であり、鳴子の仕掛けと共に三人で罠を仕掛けた。

 留めの隊長の狙撃はイズモの火縄銃である。


 弁務官は三人の手のひらの中で完全に遊ばされていた。

 イズモが弁務官を拘束しようとすると、弁務官が叫ぶ。

「今回の件は既に帝国軍に知らせてある! 明日までに私が街に帰らないと帝国精兵の増援がやってくるぞ! 今すぐ離せ!」

 ルァが横目でイズモも見つめる。

「だってさ、どうするの?」

「想定内だ。配備場所まで確認してある。連中、今なら油断しているから、叩くなら今だな。 前哨戦はこんなもんだろう」


 山にこだまする戦慄する兵士達の絶叫。


 恐怖した彼らは赤い髪の少女の姿を忘れることができないトラウマとなった。


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