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45話 天の時

 

 シウランとナレスは坐禅を組み、複体修術で傷ついた身体を治療していた。


 静かに瞑想するシウランの脚の上にキアが転がり、毛繕いをしていた。

 シウランの実力をまざまざと見たルドラは感嘆の声を上げる。

「お師匠を負かすなんて大した娘だ。カーリーやウシャスじゃ歯に立ちそうにないな……」

 知らない名前にイズモが反応する。

「カーリー?」

「ウチの副団長さ。入っていいぞ」

 ルドラが手を叩くと、屋根裏から二つの影が舞い降りる。

 一人は巨漢の男。

 もう一人は若い女性だが、ライエルなんかより、背は高く、鍛えられた肢体をしていた。

 ルァが巨漢の男を見て声を上げる。

「あら、こないだの怪物君じゃない。火傷の具合はどう?」

 ルァの言葉を無視し、ルドラの前に鎮座する二人。

 無言で返す男に苛立つルァを見て、ルドラがニヤニヤしながら答える。

「俺の許可無しじゃ喋れない。デカいのがカーリー。強面の美人さんがウシャスだ。これでもウチの腕利きさ。さてと、ウチの事情は話したし、主達が与力になってくれる承諾は得た。人の和は揃った。地の利もある。後は天の時かな」

 デーヴァがルドラの言葉に反応する。

「地の利? ここはいったい何処なんですか?」

 ルドラがニヤリと笑う。

「ダキアの街の真下さ。地上の下水路から繋がっている。先代とナレスが避難用に極秘に築いた地下街さ。おかげで地上の様子は手に取るようにわかる。この街は俺達の手のひらの中さ。だから今まで砂の団は神出鬼没で街を荒らし、霧のように隠れ逃げることができたのさ」

 治療を終えたナレスが口を開く。

「善は急がねばなりませぬ。悪郎、この二通の書状を見給う」

 ナレスから書状を受け取り、それを見たルドラが震える。

「何故、もっと早く知らさなかった!?」

「敢えて握り潰し申した。時でなかった故。しかし、今盤上の駒は揃いました。これぞ天の時。動くべきかと」

 その手紙の内容が気にかかるシウラン達を見て、ルドラは前に佇む二人の部下にそれぞれ書状を投げ渡す。

「読み上げろ!」


 カーリーと呼ばれた巨漢の男が頷く。

「明朝、弁務官自ら手勢を率いて遠方の村にて人狩りを敢行。武装した私兵が100騎! 救援の知らせであります!」


 傍らにいたウシャスが続く。

「これも同じく明朝、領主がベンガルの大使館に赴き、この領地の民2000人を売買する取り引きを調印する知らせであります!」


 ナレスが低い声を上げる。

「普段ならば悪い知らせだが、ご武運が来ましたな……。前者を優先せねばなるまいが、今は駒がいる。手勢を分けることも可能。我らは大使館に向かい、領主を討つ。村への救援はその怪力娘達に任せる」

 その発言にイズモが慌てふためく。

「おいおい、俺達が武装した兵隊の相手をしなくちゃならんのか!? 勝てる訳ないだろ!?」

 ナレスは鋭い眼光をシウランに向ける。

「その娘、まさに一騎当千の膂力を持っておる。弁務官の私兵相手でも遅れは取るまい。安心せい、最低でも村人を避難させ、足止めすればいい。後詰めに我らが参る。だから赤毛の娘! 寝るでない! どうして居眠りができるのだ!」


 ルァに頭を叩かれたシウランは寝言をぼやく。

「ふにゃ……。難しい話を聞くと眠くなっちまうんだよ……。ルァ、分かりやすく説明してくれ」

 ルァが嘆息して、言葉を選ぶ。

「……今度は村人を守るために沢山の武装兵と戦うことになったわ。坊さん達はその間に奴隷使い達をやっつけるって……」


 シウランはルァの言葉を聞いてもあまりピンとこないのか、治療の跡を気にする。

 そしてシウランが欠伸をし、坐禅から立ち、背筋を伸ばし、柔軟体操を始めている姿にイズモは肩をわなわな震えさせている。

「ホントにわかってのか!? シウラン!? 相手は武装した兵士が100人以上はいるんだぞ!?」

 激昂したイズモの言葉を無視し、シウランは物怖じせず言い放つ。

「今聞いたよ。兵隊は俺とルァが蹴散らす。イズモ、ライエル、デーヴァは村人の避難誘導だ」

 その言葉にライエルが信じられないという顔をする。

「たった二人で武装兵達の相手をするつもりですか!? いくらなんでも無謀過ぎる!」

 シウランが首を横に振る。

「二人で充分だ。暴れるつもりだから、ライエルとか居たら巻き添え食らっちまうし、足手纏いだ」

 イズモが嘆息して頷く。

「まぁ確かにデーヴァやライエルは村人の避難誘導だな。だが今回ばかりは俺も行くぞ」

 ルァが毒を吐く。

「貴方も足手纏いの自覚がないの? ただの脱サラの航海士の癖に」

 イズモが頭を掻きむしる。

「お前らは肝心な時にヘマをやる。俺の頭でそれを補ってやるよ。それにここに来た時、人喰いババアから救ってやったのは誰か忘れたか? 不良娘さんよ!」

 デーヴァが意見を言う。

「確かにイズモさんなら狙撃の腕があります。敵の足を止めるには効果的と判断します」

 シウランが仕方なさそうな顔をして、承諾する。

「チッ、嫌なこと思い出しちまったじゃねーか。まぁいいや。イズモ、足引っ張るなよ」

 イズモが舌打ちして答える。

「お前達は力任せで物事を解決する癖を直せ。全く、100人の武装兵相手なんだろ? 少しは頭を使え。俺が作戦を立てる。指示通り動けよ」

 シウランとルァは互いの顔を見合わせて、物凄く嫌そうな表情を作る。

 イズモを非難するようにルァはぼやく。

「足手纏いがほざくんじゃないわよ。第一、この脳筋娘が人の言う事聞いて動けると思う!?」

 イズモが大きく溜息を吐く。

「安心しろ、お前らが暴れやすいようにセッティングしてやるよ」

 シウランが指を鳴らして、声を弾ませる。

「よーし、次は兵隊狩りだ。おい坊さん、さっきの戦い、俺は納得してねー。狩りが終わったらまた一勝負だ」


 ナレスとルドラはシウランのやり取りを見て、思わず笑みを浮かべてしまう。

 ルドラがニヤリと笑う。

「100騎相手に勝つ気満々か。やっぱりおもしれー奴、気に入ったぞ!」

 ナレスも口角を上げた。

「万事解決したなら幾らでも稽古相手になってやるわ。未熟な小娘め」


 シウランの青い瞳は闘志に燃えていた。

 シウランは新たなる困難に挑戦することに胸を躍らせていたのだ。


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