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44話 死闘!ナレス

 

 大広間の中央でシウランとナレスが対峙する。


 坐禅から立ち上がったナレスの背は高い。

 イズモより一回り以上大きく、体躯も鍛え抜かれており、シウランが本当に子供のように見下ろされる。


 そしてナレスは全身に(タオ)を纏う。

 それを見たシウランは心が躍った。

 久しぶりの体術比べだ。

 シウランもそれに呼応するように身に膨大な(タオ)を覆った。


 ライエルが二人を見た感想を述べる。

「あのナレスという人。あんなに身体が大きいのに、シウランは勝てるんですか!? なんかヤバい迫力がこっちにも伝わってくるんですけど!」

 対峙したルァが二人の様子を冷静に観察する。

「単純な腕力勝負ならあの坊さんね。けどシウランの放ってる(タオ)の総量は圧倒的よ。力比べなら多分負けないわ。体術の技術もシウランの方が豊富なはず……。肩の下り具合からあの坊さんが普段は大剣を扱ってるのがわかるわ。けどあの構え、体術の心得もありそうね……」


 ナレスは大きく左拳を前に突き出し、右肩を流すように後ろに構える。


 身を横にした構えに、興奮したシウランは腰を大きく落とし、右脚を前に突き出し、右腕と左腕を十字に重ね、上半身を守るような構えをする。


 そして、軽快にステップして、ナレスの周囲を回るように出方を伺う。


 未知の技を見たいシウランは、後の先を取ることにした。


 ナレスの周りを舞うように動き、緩急をつけて素早く回る。

 敢えて隙を作らせ、相手の方から仕掛けさせようとしていた。


 シウランの思惑通りナレスが動いた。

 しかしシウランの読みとは大きく異なる一手だった。


 ナレスは床に向かって、大きく右腕を振りかぶり、床を破壊する。

 その行動にシウランは一瞬戸惑った。


 何故床を?


 しかしその動きでできた隙を見逃すシウランではない。

 すかさず軸足に力を入れて飛ぶように、ナレスの首を狙って前蹴りを放とうとした。


 その蹴りがナレスの首に届こうとした時、シウランの腹部に衝撃が走る。


 その衝撃はまるで床から上に突き上げるかのようにシウランの肢体を襲った。

 堪らず宙へと吹き飛ばされるシウラン。


 その時シウランは悟った。

 床への一撃は(タオ)の放出だ。

 そして下から上へ、的確に自身の胴体に狙って放ったものだ。

 始めから動きが読まれていた。


 先に動かされたの自分の方だと自覚した時、ナレスの渾身の拳がシウランに迫る。

 ナレスの不意打ちは完璧であった。

 シウランは無防備に宙に舞ってしまっている。

 間髪入れずにナレスが次の一撃を繰り出す。


 狙いは胴体。

 人体の中で最も的が広く、宙で身体の自由が効かないシウランには避けることは困難な部位だ。

 ナレスは胸部を目掛けて振りかぶった拳を放つ。


 しかしナレスはシウランの驚異的な動体視力を知らなかった。

 宙に浮かされたシウランはナレスの放った拳を見極めていた。


 そしてナレスの腕を捉え、身体を大きく回転させて、回し蹴りをナレスの側頭部に命中させた。

 その蹴りは首を狙ったものだったがとっさに首を守り硬い頭蓋骨でナレスはシウランの蹴りを防ぐ。


 しかしシウランは止まらない。

 その回転の勢いを殺さずに、その両脚でナレスの肩を絡み掴む。


 そしてナレスの両腕の自由を奪ったシウランは逆さまになりながらもナレスのガラ空きの胴体に五月雨のような拳の乱撃を繰り出す。


 一撃、一撃がナレスの胴体の臓器の急所を的確に捉えていた。


 だが鍛え抜かれたその筋肉。

 そして堅牢な硬い(タオ)を全身で覆っているせいか、シウランは太い巨樹の幹を当てているような手ごたえしかなかった。


 シウランの一撃は強烈なはずであった。

 その拳で大海の海獣ですら葬った。

 それだけナレスの戦闘技術が高く、強いのだ。


 そしてナレスは両腕でシウランの身体を抱き締める。

「すばしこい奴め、力比べだ」


 捕獲されるシウラン。

 ナレスはシウランの全身を両腕で覆い、潰すように締め付ける。


 周囲の皆はこの一連の動きを捉えていたわけではない。

 ただ戦闘経験の浅いライエルでさえ、ナレスが巨漢で物凄い腕力の持ち主とは理解できていた。

 そしてナレスの主であるルドラもナレスの膂力は知っている。

 その場に居た誰もがシウランの敗北を悟った。


 ただ一人を除いては。


 それは幼い頃から武神の元で切磋琢磨し合いながら修行に明け暮れていたルァであった。


 ルァは知っていた。

 シウランが力負けするはずがないと。


 シウランもナレスに抱きついていた。

 自分の腰が歪んでいく自覚はあった。

 逆さまになった状態でナレスの胸部を抱えこんでいた。

 全身に宿る(タオ)をシウランは自身の両腕に収束させた。

 自身の限界の果てまで、初めて至る境地の先までそれを振り絞る。


 歪んだ骨格が軋み、鈍い音を立てながら、ひび割れ限界を迎えた骨が砕かれた。

 ナレスはその痛みに思わず呻く。

 先に骨折したのはナレスの方だった。

 肋骨が締め付けられ、弾けるように砕かれた。


 シウランの両腕は巨躯のナレスの身体にめり込むように、まるで埋もれていくように締めつけている。

 均衡が保たれたナレスの肋骨の束はシウランの腕力によって、一本、一本、音を立ててへし折られていった。

 その圧迫感は臓器にも損傷を与えたのだろう。

 ナレスが口から血を吹き出してしまう。


 だが互いにこの抱擁は外すことはない。

 負けを認め、力を抜けば、容赦なく圧殺されることを知っていたからだ。


 するとルドラが扇子を投げつける。

「お師匠、死ぬぞ。こっちの負けだ。とんでもない女御だ……。見事なり!」


 ナレスは崩れるように倒れる。

 シウランもナレスが倒れたのを見て、力を抜く。


 苛烈な戦いに周囲がドン引きする中、ルァだけが苦笑いをした。

「力比べでシウランが負ける訳ないでしょ……」

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